なんとか商法!
「お待ちどうさまー」
大屋が夕飯を研究所まで持ってきてくれた。本宮が出前(?)を頼んでくれたらしい。
「今日はまだ仕事なんだって? いっぱい食べて、頑張ってね」
豚肉の生姜焼きがてんこ盛りだった。皆お腹がいっぱいになった。
「お腹がいっぱいで眠くならないように」と、あやめがコーヒーを淹れてくれた。
「あの、トイレに行ってきます……」
ずっと研究所にいた曽我部は、あやめに何杯もコーヒーを飲まされていた。
「俺も仕事行く前に行ってこよう」と涼平が言うと、「私も行く。山の中じゃトイレ無いかもしれないし」と望も付いていった。
外はすっかり暗くなっていた。雲が掛かっていて月も星も見えない。
「曇っていて良かったですね。こちらの姿が見つかりづらい」
本宮の言葉に、涼平と望が立ち上がり、手を繋いだ。
「ではお願いします」
「はい、行ってきます」
二人は消えた。
山の中は真っ暗だった。しかし若者達はまだ働いていた。笑顔で、ただ黙々と動いていた。周囲にはヒーリングミュージックが流れていた。
「取り敢えずさあ、この音楽止めないと俺達も洗脳されちまうよな」
「そうだよね」
望は音源まで瞬間移動し、CDを取り出し、ポケットにしまった。そして涼平の所まで瞬間移動した。
虫の声が響いてきた。こっちの方がよっぽどヒーリング効果がありそうだ。
若者達はしばらくの間は変わらず働いていたが、しだいに動かなくなってきた。
「ねえ、音が聞こえないんだけど」
「困ったな。やる気が出ない」
「誰か見て来てよ」
そんな声は聞こえて来るが、誰一人として動こうとしなかった。そして皆横になり、眠り始めた。
涼平と望は皆が眠ってしまうのを待った。が、万一眠っていなくても動きそうにない。
「きっとやる気の出るCDだったんだ」
「そうだね。音楽が止まってやる気が無くなったんだね」
「俺、上から見てみるよ」
高い所から見渡せば、何をやっているのかわかるかもしれない。
涼平は静かに飛び立ち、上空から全体を見下ろした。
まあ、素人の仕事なので、大して工事は進んではいなかったが、小さな家が建てられる程度の土地は整地されていた。
よくやったもんだな、と涼平は感心した。若者達は今整地された土地の石ころの少ない所で横になっている。小屋らしき物はあるが、そこまで行く気力も無いらしい。
涼平はこっそりと小屋へ入ってみた。小屋の中には寝袋やペットボトルに入った飲み物、お弁当も置いてあり、定期的に誰かが運んで来ているようだ。
壁に、図面や完成予想図が貼ってあった。図面によると、多分野球のスタジアムくらいの広さをの土地を整地し、そこに三角の石積みの建造物をたてるらしい。
「これってピラミッド?」
気味が悪くなり、涼平は本宮に報告をした。
「本宮さん、小屋に図面が貼ってあります」
「ではモバイルで写真を撮って送って下さい」
そんな事も出来るんだ、スマホと同じだな、と思いながら、涼平は写真を撮った。
望は怪我人や病人はいないかな、と思いながら、若者達に近付いた。木や石等の陰に隠れながら、様子を伺った。
「ん?いい臭いがする」
「え、本当だ。生姜っぽい」
「生姜焼き食べたーい」
望は慌てて身を低くした。夕飯の生姜焼き食べ過ぎた、と後悔した。だがやる気の無い者達ばかりだ。だれも動かない。望はここは勝負、と本宮に連絡を取った。
「本宮さん、この人達と接触していいですか? 皆目も開ける気も無いみたいなので」
「そうですか。では危険を感じたらすぐに移動して下さい」
本宮のお許しも出た事だし、と望はゆっくりと移動した。
「疲れたね」
一緒に働いている信者のふりをして一人の女性に話し掛けた。
「うん。でもこれも奉仕の行だからね」
「奉仕の行?」
「あなたは違うの? あ、犠牲の行?」
「う、うん。犠牲の方」
「ふーん。じゃあ寄付してないんだ」
女性の話だと、寄付をした者はお返し(?)として王子様(北斗の事を信者はそう呼ぶそうだ!)から祝福を頂けるそうだ。さらに奉仕の行と呼ばれる、この様な労働奉仕をする事で、更に格上の祝福を頂けるというのだ。
財力が無く寄付が出来ない者は、労働奉仕をすると王子様からめでたく祝福を頂けるそうだ。
祝福の格を上げて行くと、信者としての格も上がり、王子様に近付け、側近や事務局の仕事をさせてもらえるそうだ。
「王子様って、手の届かない存在なんだけど、少しずつでも近付いて行けるなら、何だってする」
「女ならわかるけど、男の人は?」
「男とか女じゃ無いの。王子様は性別を越えた素晴らしい方なの。男は王子様を守る騎士になるのが憧れなんだって」
もう望には理解不能だった。
「ねえ、怪我とか病気してる人いないの?」
「大丈夫。怪我したりすると救護局の人達が来てくれて、病院へ連れてってくれるから」
「救護局?」
「うん、信者の体を心配する組織。あなた何にも知らないのね」
「う、うん。まだ入ったばっかだから」
「そう、分からない事あったら何でも聞いてね……」
喋り疲れたのか、女性はうとうとしてきた。
「休もう」
「うん、休もう……」
望は涼平の所へ瞬間移動した。涼平も仕事を終えたと言うので二人で研究所へ戻る事にした。
涼平は図面だけでは無く、色々な写真を撮って来ていて、それを本宮に渡した。。望も信者からの情報を本宮に報告し、「お土産です」と、くすねてきたCDを渡した。
「明日は教団内部の事をもっと調べましょう。皆さん、ご苦労様でした」
やっと今日の仕事が終わった。
すでに夜中の二時だった。
皆あんな所で寝ても幸せを感じてるなんて、変、絶対変、と思いつつ、フカフカの暖かいベッドで眠る望だった。




