なんとか商法?
しばらくの間、幽霊の話で持ちきりだった。
「幽霊って本当にいるんだな。これからもこんな事件起きるのかなあ。ま、俺はあんまり現場行かないけど」
直樹が興味津々に言った。
「私達なんて現場に行って触らなきゃいけないんだよ」
望が恐々言った。
「私は一生見ないと思っていたのに、能力のお陰で見ることが出来ました」
曽我部も驚いていた。
「こういう事件で呼ばれるのは勘弁してもらいたいね」
涼平が不安そうに言った。
「行ってみないと分からないってのも、何だよね」
最初からわかってたら行かなかったわよ、と冴子は思った。
「今回の男の子は、別に悪い事するわけじゃ無くて、ただお母さんを待ってただけの可哀想な子だったね」
「悪霊には遭いたくないなー」
そんなある日、いつも通り出勤すると、講義では無く仕事になった。
「急ぎではないので呼び出しはしませんでしたが、仕事はたくさんあります」
本宮はパソコンの画面を皆に見せた。それは「宗教法人 トゥモローライフ」という団体のホームページだった。
「最近流行っている、というか信者が増加している新興宗教の団体です。代表がこちらの北斗星矢です」
そう言って本宮がパソコンの画面をスクロールすると、インテリ系若手俳優のような、綺麗な顔に細めの眼鏡を掛けた、まだ二十代半ばの男性が、口元だけ微笑んでいた。
「若い女性の信者が集まりそう」
「結構主婦層にも受けそう」
冴子と望は関心を示した。
「まあ、そうですね。女性の信者が多いようです」
本宮は続けて説明した。
「この宗教の教義は、人類愛とか世界平和を謳っている、ありがちなものです。ただ彼からの祝福を受けると色々な恩恵をもらえるそうです。それから」
本宮はまたパソコンの画面を皆に見せた。
「ご利益のあるグッズ販売を大々的に行っています」
ネックレス、ストラップ、タオル……、ミュージシャンのライブ会場で売ってるような物ばかりだった。
「実物があります」
本宮が取り出したのはCDだった。
「歌では無く、ヒーリングミュージックですが」
ジャケットには「希望に満ちた明日」とあった。
「これを聴くと幸せな気分になれて、仕事や勉強を頑張れるんだそうです。ただ、副作用があります」
「副作用?」
「聴かない日は全くやる気が起きないそうです。何回も聴いていると効果が短くなってきて、常時聴いていないといられなくなります。他にも自信が出るCD、優しくなるCD、集中できるCD等があります。それぞれ聴かなくなると反対の反応があるそうです」
「聴かなくなると自信が無くなったり、優しく無くなったり、集中出来なくなったりするって事ですか?」
「そうらしいです。何かサブリミナル的なものなのか、岡倉さんに調べてもらいます」
「わかりました」
直樹はCDを持ってコンピュータールームへ行った。
「次に佐々木さん、地下にCDの常習者となってしまった方達、十名程、来ていただいています。癒して下さい」
「はい、わかりました」
冴子は地下へ下りて行った。
「さて、この教団は資金を得るためにグッズ販売の他、セミナーを開いたり寄付を募ったりしています。その資金で何をしようとしているのか、曽我部さん、調べて下さい」
「はい。何か怪しい動きがあるのですか?」
「いえ、無いのです。資金はかなり集まっているはずなのに、建物を建てたり、贅沢な暮らしをしたりもせず、何も無さすぎて心配なのです」
「確かに。わかりました」
曽我部が集中し始めた。
「川村さんと水沢さんは待機していて下さい。調査の結果次第で動いてもらうと思いますので」
「はい」
涼平と望が大人しく座っていると、あやめがコーヒーを淹れて持ってきてくれた。
「あら、綺麗なネックレス」
パソコン画面に映っている教団のグッズを見てあやめが言った。
「うわ、凄い値段。このネックレス三十三万円だって! ストラップも十一万。ぼったくりだね」
「偽物?」
本宮が聞いた。
「偽物も偽物、全部ガラスだよ」
「こいつは?」
本宮が代表の北斗を指差して聞いた。
「偽物。完璧に。……本物は他にいるわ」
「やっぱりな。こいつはただ信者集めのために表に出てるだけなんだな」
本宮とあやめの会話を聞いて、望はなんて気軽に話してるんだろうと思った。
「本宮さんとあやめさんは付き合い長いんですか?」
「本宮所長は私が就職した時の先輩なの。研究所出来て彼が所長になった時私を引っ張ってくれて。私も事務職より、こっちの方が気楽で良かったわ。引っ張ってくれてありがとねって感じ」
あやめは本宮に向かってニッコリ笑った。
「あやめさんも何か能力あるんですか?」
涼平が聞いた。
「あれ、知らなかったっけ? 私は本物か偽物かわかるのよ」
「鑑定士さんになれますねー」
「冴子さんにも同じ様な事言われたー」
話の途中、直樹が調査結果を持ってやって来た。
「一通り調べました」
「有り難うございます」
直樹はグラフや表が印刷された紙を示しながら説明を始めた。
CDには確かに気分を高揚させる効果のある波形があった。しかしその下に、真逆の波形があった。表層の意識には良い効果が、深層の意識には悪い方の効果が刷り込まれる。
それに加え、サブリミナル刺激を引き起こさせる音声も所々に入っているのが確認出来た。
それによりこの音楽に対する依存性が増し、聴き続ける事により気分高揚の効果は薄くなるが依存度だけは高くなり、聴かないと禁断症状が出る。その時深層の意識に植え付けられた悪い方の効果が表に出てくる。
「何言ってるのか全然分からない」
望がもどかしそうにしていた。
「だから簡単に言えば、CD聞いて気分良くなるのは最初だけで、その気になって聴き続けてると、聴かなきゃ気分悪くなるし、聴いても気分悪くなるっていう、ひでーCDって事だ」
「うわー、本当にひでーCDだ」
直樹の説明に二人とも納得した。
「こんなCDいくらするの? 五千円! ぼったくりー」
あやめは金額にこだわる。
その頃冴子は真っ暗な地下室にいた。
地下室には女性が十人、泣いていたりブツブツ言っていたり、うろうろ歩き廻っていたり、それぞれ不穏な行動を取っていた。
まとめて心の声を聞くと、色々な不安を訴えているが、共通しているのは「CDが聴きたい。あれを聴かなきゃダメだ。あれを聴かなきゃ何も出来ない」という事だった。
「そんな事無い!あんなの聴かなくても大丈夫。皆自分の事は自分で出来る。何でも出来る!」
冴子は部屋中をパワーで満たした。
「自分で出来るじゃない。トイレ行きたくなったら自分で行けるじゃない。痒かったら自分で掻けるじゃない。何だって自分で出来るじゃない」
冴子の本能に訴えかける癒しが女性達に沁みていく。皆、子どもの頃の、わがままが許されていた頃の事を思い出した。お腹が空いたら食べて、遊びたかったら遊んで、眠たくなったら寝て。自分は何でも出来ると信じていた、何にでもなれると信じていたあの頃。
一人、また一人と落ち着きを取り戻して行く。
「何やってたんだろ。何であんな物に大金出したんだろ。勿体無い……」
皆現実を取り戻した。
冴子は部屋を後にした。
曽我部は教団の事務所のような部屋を探っていた。
口座には確かにたくさんの数字が並んでいた。毎日かなりの金額が預け入れられていた。たどって行くとある日かなりの額が引き下ろされていた。
他の書類等も調べ、土地を購入していた事がわかった。それも山の中、とても広大な面積の土地だった。
土地の名義は教団でも教団の代表者でも無かった。女性の名だった。
曽我部はその山の中へ意識を移した。
四方を山に囲まれ、藪だらけのでこぼこした土地だった。そこを一生懸命整地をしている集団がいた。
皆若く、女性もいた。大きな音で音楽が流れている。きっとあのCDだろう。
男性達は重機で整地をしていた。女性達は草を刈ったり土砂を運んだりしていた。
皆一様に笑顔を浮かべていたが、ろくに食べていないようで足はふらつき、顔色も悪い。
曽我部はその様子を本宮に伝えた。
「洗脳による強制労働というところでしょうか。曽我部さん、その目的を探って下さい。川村さん、水沢さん、暗くなったら現場の様子を視てきて下さい。怪我人がいたら連れてきて下さい」
「はい、わかりました!」
涼平と望はやっと自分達の出番だ、と張り切って返事をした。
外は綺麗な夕焼けだ。早く暗くならないかな、と二人は窓の外を見つめていた。




