報告しました
冴子も仕事着に着替えて来た。
本宮の指示は、冴子と望で客としてネットカフェに入店し、犯人達の隣の部屋に入る。そして冴子は犯人の心を読み本宮に報告する、という事だった。
店に入るので二人は仕事着の上に普段着を羽織った。
「では気を付けて行って来て下さい。危険な時はすぐに戻って来て下さい」
二人は手を繋ぎ、そして消えた。
二人はネットカフェのトイレの個室に現れた。
「何でここなのよ?」
「だってここだったら絶対人に見られ無いでしょ」
望の言う通りだった。
二人は受け付けをし、曽我部が教えてくれた犯人の部屋の隣の部屋に入る事が出来た。
「さて、さっさと仕事しちゃおうね」
そう言うと冴子は隣の部屋に集中した。
「まったく、私英語なんてわからないのに」
という女の不満そうな声が聞こえた。
「それにこいつ、ピストルなんて物騒な物持ってるし、見つかったら私まで仲間だと思われちゃう。一体何なのよ、この男は」
どうやら女は犯人とは面識が無く、何の為に自分がこの男の迎えに行かされたのか知らされて無いらしい。
「社長命令じゃ無きゃこんな事絶対にしないのに……」
と社長をうらめしく思っていた。男が殺人犯とも知らずに。
冴子は女の思っている事を本宮に報告した。本宮は曽我部に女のバックの中を見るように言う。曽我部がバックの中を見ると免許証があったので、女の身元が判った。会社の名前の入った封筒もあったのでそれも本宮に伝える。
本宮はそれを警察に連絡する。それと同時にパソコンで女の会社の検索をする。女の会社は宝石や貴金属を扱う会社だった。
「岡倉さん、この会社のコンピュータに侵入して、色々調べて下さい」
本宮は直樹に命じた。
冴子は男の方に意識を集中した。
「指名手配されたからには国には戻れない。この国で金を調達して、もっと安全な国へ逃げなくては」
男はただの指名手配だと思っているようだ。国際指名手配である事は知らないらしい。
「あいつが手を貸してくれて助かった。まあ、大分稼がしてやったしな」
そこへ女のスマホに電話が掛かってきた。
「社長、私は何をすればいいんですか? え、はい」
女は社長の指示か、男にスマホを渡した。男は英語で社長と会話をし、話終えたのか、女にスマホを返した。
「え、じゃあ今夜はここに泊まれと? この男の人とですか? 困ります。……はい、はい、わかりました」
女はしぶしぶ了解したようだったが、心の中は不満で一杯だった。
「いくらこいつが女に興味は無いし、昔からの友人だからって言われてもね。マンション買ってやるからって言われなきゃ絶対帰るんだけど…」
どうやら女は社長の愛人のようだ。
男は取り敢えず落ち着いたのか、横になってくつろぎ始めた。
「明日は朝早いから今日はさっさと休もう。まだ時差ぼけしてるし。明日は銀行開店前に行って、一稼ぎだ」
男の心の声を聞いて、慌てて冴子は本宮に報告した。
本宮は警察にも冴子の報告を知らせた。男は明朝銀行強盗をするつもりだ、と。
直樹の調査によると、女の会社は以前より海外の一個人からかなり大量の宝石を仕入れていた。それもかなり格安でだ。それを高値で売り、儲けの一部を売人に還元していた。それがこの男、犯人だった。そうやってお互いに儲けて来た。そんな関係もあり、今回男が指名手配をされ国外逃亡せざるを得なくなった事を知ると協力する事になった。
運転手を提供し、武器も用意してやり、この宝石商は調べれば悪い奴らとかなりつながっているんだろう、と本宮は思った。
ネットカフェにはすでに警察が張り込んでいた。客を装い内部にも潜入している。店長に事情を話し、事務所にも刑事を配置している。すぐにでも踏み込める体制だが、男の側には女がいる。そして関係の無い客や店員もいる。男がピストルを持っているので迂闊には動けない。
しかし本宮は強気だった。
「ここまで状況が整えば、もう逮捕したも同然でしょう」
本宮は望に研究所へ来るように指示した。そして望にある物を渡し、使用法を説明した。その説明はモバイルごしに冴子にも伝えられた。
望はすぐに冴子の待つ部屋へ戻る。
「お隣さんはまだ起きてる?」
「男は寝たみたいで何も考えて無いけど、女の方はゲーム始めた」
ピストル男と一緒にいるのに呑気なもんだと望は呆れた。逃げようともせず、怖がる様子もそれほど無く、よっぽどマンション欲しいのか、それともこういう状況に慣れているのか。怖い女だなあと思った。
「ま、男が寝てるんならいいか」
そう言って望は一瞬消えた。
望は本宮から渡された物を一瞬のうちに隣の部屋に置いてきた。男が起きていたら怪しまれただろう。女は起きていたがパソコンの画面に集中していたので、背後に一瞬人が現れても気付かなかった。
望が置いてきた事を見ていた曽我部が本宮に伝える。すぐに本宮は手に持っていたスイッチを押す。
その瞬間、望が置いてきた物から煙が出始めた。女は驚いたがすぐに倒れた。
強力な催眠ガスだった。
冴子は二人の意識が無い事を確認し、ネットカフェの事務所に連絡した。すぐにたくさんの足音が聞こえ、隣の部屋に警官が入って行った。
「犯人確保!」の声が聞こえたので、冴子と望は手を繋ぎ、部屋から消えた。
「御苦労様でした」
本宮が笑顔で二人を迎えた。
「皆さんのお陰で犯人も確保されました。被害も未然に防ぐ事が出来ました。あの宝石商も既に警察に連れて行かれています。宝石商の周辺の悪事も明るみに出て来る事でしょう」
その時曽我部が辛そうな表情で言った。
「私はただ見ていただけです。危険な事は女性達にさせてしまいました」
「私だってただ聞いてただけだし」
「私だって本宮さんに言われた通りにやっただけだよ」
冴子と望は言った。少し恐い思いをしたかも知れないが、特に大変な仕事をしたという実感は無かった。
「ねえ、あなた達が居なかったらどうなってたと思う?」
あやめが皆に聞いた。
私達が居なかったら……冴子は考えた。
警察の捜査だけじゃ、まず犯人の居場所の特定がこんなに早く出来なかったはず、いやまだ見つかって無いかもしれない。武器を持っているとか、宝石商が協力してたとか、何か事件でも起きなきゃ分からなかったかもしれない。
そして分からないまま、明日銀行が襲われてしまっていた。
「あなた達が居なかったら何人の人達が被害に遇ってただろうね。怖いねー」
あやめの言う通りだった。自分達が何気なく使った能力。その能力で被害者を出す事無く犯人を逮捕する事が出来た。
そういえば少し前まではそんな能力は無く、そんな能力有り得ないと思っていた。最初にこの能力を使った時の驚きったら無かった。
「ねえあやめさん、買ってきた物は?」
望が思い出したように聞いた。
「車ー」
あやめの言葉で皆外に飛び出した。
たくさんの買い物袋を抱えて望達が戻って来た。
「曽我部さん、お土産」
望は無理矢理曽我部に包みを押し付けた。
「曽我部さんだけ買い物行かなかったから。美味しいと思うよ」
曽我部が包みを開けるとチョコレートが出て来た。
「たまには甘い物でも食べて、これからも頑張ってね」
そう言って望は曽我部の肩をポンと叩いた。
「有難うございます、望さん」
曽我部はようやく笑顔を取り戻した。
「私だってお土産あるよ」
冴子も負けじと曽我部に渡す。
「仕事でご飯食べ損なったら食べてね」
お煎餅だった。
「おい、曽我部は男なんだから菓子よりこれだろう」
直樹が買って来たのは缶ビールだった。
「いやいや、これからの事を考えるとこれでしょー」
涼平のお土産は鉄アレイだった。
「皆さん、有難う」
曽我部は照れながらお土産を握りしめた。
本宮とあやめは嬉しそうに五人の様子を見ていた。




