第9章 6話
「理恵子!」
美喜子さんの声で我に返る。
「大丈夫?」
私は頷く。
もの凄い時間が経ったような気はしているけど。
「それで。何か分かったのか?」
残った右腕から手を離す。
「そうですね。結論から先に申しますが、彼女は二度と戻って来れないでしょう」
それが私の能力で調べた結果。
まず。
彼女の心臓付近にあったのは神が作ったアーティファクト『死亡時計』。
死ぬほどの衝撃があった時に初めて発動し、数十分前の過去へ戻る事が可能。
その過去から死ぬまでの行動はもちろん同じ行動を取れば同じ結果になる。
過去の出来事を変える事は可能。
ただし。
この能力を解除出来るのは、アーティファクトに選ばれた人のみ。
つまり。
「暴走してる?」
「ええ。霧島は死亡時計の持ち主に選ばれていません。無理矢理ディルスに与えられた物。そういうのは暴走してしまうんです。後藤彩菜さんのように」
本来の持ち主では起こりえない欠点が発動してしまう。
それがアーティファクトの暴走。
それが霧島の身にも起きている。
「つまり、彼女はどう頑張っても延々死に続けるんです。死亡時計が発動した時間に」
それは時にありえない偶然も起こりうる。
まさに死の運命からは逃れられない、という事が起きている。
「無理矢理止める事もやろうと思えば可能なのですが、残念ながら彼女の体内に、しかも心臓の近くに埋め込まれてしまった」
つまり、解除するには心臓を突き破って時計を止めるしかない。
でもそれでは死ぬ事になり、巻き戻ってしまう。
止めるより先に死んでしまうから。
「過去に戻れるなんて、普通もっと重大な欠点がありそうなのに」
美喜子さんの言う通り。
時間を操作するというのは、もの凄いエネルギーが必要。
無尽蔵に使える訳じゃない。
「ですから、死ぬ時のエネルギーを使っているんです。自由に思い通りに使えないという欠点があるんです」
そして彼女は持ち主でないがゆえの苦しみを味わう事になるでしょう。
ディルスがこの事を知っていたかどうかは、もう知る事も出来ないのですが。
結果的に彼女はディルスのせいで無限地獄に落ちる事になってしまった。