第8章 8話
いた。
一番奥の部屋。
そこは研究所と呼ぶにはあまりにも不釣り合い。
床に絨毯が敷かれ、天井にはシャンデリアが見える。
まるで豪華なダンスホール。
これで電気が灯り、演奏者等もいれば完璧と言った所かしら。
その中央にいた。
見た目は先ほどと何ら変わらない。
でも。
ここまで逃げたという事は、何かここにある物を取りに来たとも思える。
恐らく、それが彼女の奥の手。
「『光の精霊よ!』」
山本さんが部屋に明かりを灯す。
すでに進入がバレている以上、堂々とした方がいい。
こっちは暗闇に慣れていないのだから。
「ここで決着をつけるつもりか」
「ええ。これでようやくディルスとの因縁も断ち切れる」
美喜子さんが言う。
彼女達にしてみれば、人生を大きく狂わせた元凶。
あの事故さえ無ければ、もっと普通の人生を歩んでいたでしょう。
でも過去には戻れない。
それは山本さんの時間の精霊の力でも無理。
時間を歪めるというのは、それだけ大きな代償を生む。
ディルスと戦った時は、その代償をディルスに押しつける形で回避出来たけど。
そうそう上手い状況は何度も起きる訳では無い。
だから過去を変える事も出来ない。
それでも未来に進むには。
過去の因縁を断ち切るしかない。
少なくとも山本さんと美喜子さんは、そういう思いでディルスと戦ってきた。
だからこそ。
今回もその延長上としてこの場にいる。
「私としては、愛するディルス様を殺したお前らを殺すチャンスが出来て幸運だと思ってるわ」
「それが利用された気持ちだとしてもか?」
この声は!?
氷室さん。
「氷室!」
「私はお前よりもっと身近な所にいた。だから分かる。あいつにとって全ての人は利用するだけの存在。私も含めてな。気のあるフリをしていたと言っていたよ」
「嘘だ!」
「なら。何故私を一番側にいさせた?普通気のある異性がいるなら、そっちを優先するはずだ。私のような単に利害が一致しただけの人間よりもな」
なるほど。
ディルスと霧島の関係は正直分からないけれど。
少なくともディルスは霧島すらも利用していた。
それを勘違いしていたって訳ね。