第8章 2話
「しかし、この4人にしたのには他の理由があるみたいだね」
暗視スコープを用意しながら、山本さんが呟く。
「特にキッドだ。僕たち3人はまだ分かる。ディルスを倒したメンバーだ。そのディルスの一番の部下だった霧島と戦うには理由は納得出来る。だがそのキッドを連れて来た理由は?」
やはり隠し事は出来ないようですわね。
「私達と同じ、ディルスによって人生を狂わされた。そのディルスも、そして直接の要因でもあった赤沢を討つ事も出来なかった。それは私のせい。ならば、せめて霧島の止めは彼にやらせて欲しい」
私達はある意味、恨みは晴らしている。
今回だって別に彼らに恨みがあるからじゃない。
単にこの街を護りたいから。
住んでいるこの街を護ろうとしたら、彼らが出てきただけの話。
でも、キッドさんはまだ人生を狂わされたその想いの精算が済んでいない。
ならば、せめて赤沢の上司でもある霧島を倒す事で消化して欲しい。
赤沢を討つチャンスを潰してしまったのは、私なのだから。
「別に俺は個人的恨みを晴らしたかっただけだ。ただその相手が一致しただけで、正直この街がどうなろうと知った事じゃない」
「それでいいんじゃない?」
美喜子さんがあっさりと言う。
「私達は正義の味方ってんじゃないんだから。世界がどうとか、どうでもいいと思ってるわよ。私だってディルスの部下達じゃなきゃここまで関わってないし」
そうね。
私達は正義の味方じゃない。
私だって生まれ育ったこの街を護りたいだけ。
そして、あの子の姉として誇れる生き方をしたいだけ。
もの凄く個人的な理由。
「じゃあ、キッド。霧島は僕がやっつけてもいいのか?」
「出来るのか?」
「出来る能力はある」
山本さんの能力は精霊を操る能力。
自然の力が存在する所ならば、彼の能力の範囲内。
かなり便利で使い勝手もいい。
欠点は力が弱い所ですが、それでも倒すのには十分。
「それに霧島の能力も未知数だ。場合によってはそんな余裕も無いかもしれない。一応言っておく」
確かに。
ディルスの一番の部下という事は、当然能力もアーティファクトも持っているに決まっている。
そしてあの4人を束ねているということは、それなりの能力も持っているという事。
気を引き締めなければ。
「しかし、閉鎖されているだけあって、人の反応は無いみたいだね」
暗視スコープをいじりながら山本さんは言う。
おそらく、温度センサーに切り替えているのだと思う。
いくら気配を消そうにも、体温を消すのは不可能。
能力を使わない限り。
それでも複数の人間の体温を消すというのも考えにくい。
そんな事をすれば、まるで暗視スコープを使われるのを知っているという事になる。
それに、山本さんは先ほどから風の精霊を出している。
おそらく空気の流れを探知しているのでしょう。
生きている限りは呼吸をしなければならない。
それを探知しているんだわ。