第7章 8話
「おい、大丈夫か?」
キッドさんが駆け寄る。
「大丈夫です。単なる体力消費なだけです」
立てないほどの消費ですが、他に異常はない。
「能力の解除なんて便利なもの、何のデメリットも無しに使える訳でもない。という事です」
ですから危険な状態では使用は控えた方がいい。
今回も黒瀬を倒せば終わりという状態でなければ使うのをためらっていたかも。
あれ?
床に触れる私の手から恐ろしい情報が飛び込んで来る。
「キッドさん!すぐにここから離れてください!」
「どうした?」
「このビルには恐ろしい生き物を封印していたようです。それが黒瀬を倒した事により解放されてしまった」
まさか、こんな事があろうとは。
このビル毎情報を得ようとしたら、いくらなんでも頭がパンクしてしまう為に意図的に遮断していたのですが。
こんな生き物がいたとは。
「おい!まずは何が解放されたのかを言うんだ」
「いわゆるゾンビと言われる生き物。生きる屍です」
これもディルスのDNA操作による被害者達。
もう死んでいるのに筋肉は動き続け、エネルギーを補給するために肉を食らうだけの生き物。
「それがもうすぐここにもやって来ます。幸いな事にビルからは出られないようです」
すでにあちこちの通路が遮断されていて、通行不可能になっている。
「今ならまだ非常出口が使えます。すぐに脱出を!」
「おまえはどうするんだ?」
「私の事はいいから早く!」
このままだと二人とも犠牲になってしまう。
この体力消耗はまだしばらく続く。
私が足手まといになっているわ。
「別に女性の事等見捨てて当然と思っているのでしょう?私もあなたの足を引っ張る真似はしたくはありません。さあ、早く!」
そうしないと、じきにゾンビがやってくる。
そうなれば、ここも遮断された空間になってしまう。
「ちっ。確かに女性なんて信用出来ない相手だがな」
キッドさん?
「だが、あんたと出会って考え方が変わった。出る時は一緒だ!」
え?
すっと抱きかかえる。
「いくぜ!」
「駄目です!もうすぐここは閉鎖されてしまう!」
そんな。
ドン!と大きな音が響いた。
それは。
目の前にあったはずの非常扉の前に、厚い壁が立ちふさがった音だった。
もう、手遅れだわ。