第7章 2話
おそらくあの運動能力は獣によるものね。
何の獣と融合してんのかは分かんないけど。
人間よりも数倍上のスピードがあるのは間違いない。
そして。
一番気になるのは、奴の右手。
私のようにオープンフィンガーグローブと違って、素手の甲から鋭い爪が4本むき出しになっている。
あの爪自体がアーティファクト・ウェポンなのかしら。
まかり間違って素手で受けるなんてやりたくないわね。
「ぐわぁ!」
叫んだ次の瞬間には、白井の姿が消えた!
くっ。
「はぁ!」
だが、白井の攻撃を受け止める。
「なに!?」
「残念だったわね。アーティファクト・ウェポンを持ってるのがそっちだけだとでも思ってた?」
もっとも、理恵子がいなきゃ持つ事も無かったんだけど。
「ぐっ!」
また離れる。
ここがさっきから気になっていた所。
白井の運動能力さえあれば、別にアーティファクト・ウェポンを使わなくても通常の格闘で十分なはずなのに。
なんで、あいつはあの爪にこだわっているのか。
まるで、あの爪以外では攻撃したくないって感じね。
「おそらく、あいつは私を恐れているのだろう」
氷室を?
「どういう事?」
「私がディルスから離れる際に白井が私の命を狙いに来たんだ。もちろん返り討ちにしたのだが、その時の教訓なんだろう」
なるほどね。
氷室の能力は氷。
しかも接近戦も出来るほど。
身動きを止められる事を警戒してんのね。
「しかし持久戦に持ち込まれたらこっちが危ない。おそらく白井の方が精神的に強いはずだ。何せ獣と融合してるほどだからな」
なるほどね。
確かに早く片付けたい相手だわ。
でも。
「まだ”見えていない”んでしょ?」
これが唯一の気がかり。
「だからまだ攻撃しないと?」
「私の想定だと一瞬で倒せそうだけど、見えていないって事は失敗に終わる。”あれ”は回数制限もあるから慎重に使いたいのよ」
これは健一から徹底的に言われた事。
私の瞬間移動は便利がゆえに乱発はするなと。
回数制限がある以上、しょうがない。
まだ待つしかないわ。