第5章 3話
後藤は焦っていた。
いつもならとっくにイカサマや卑怯な手段を取っている頃だ。
だが。
葛葉は一向にそんな気配はない。
ただ純粋なテクニックだけで勝負している。
「もうそろそろ5周周るが大丈夫なのか?」
青木が心配する。
だが葛葉は答えない。
集中してるから答えようもないのだが。
「おい!葛葉!」
黒野が叫ぶがもう手遅れ。
そのまま後藤の勝利で終わった。
しかし。
「何も起こらない?」
普通負けたら何かペナルティがあると思っていたが。
何も起こる気配は無い。
「まず間違いなく、こっちが負けても何もないよ」
葛葉が説明する。
「え?」
「だって、こっちが勝った場合は説明してるのに負けた時の事は説明してない。もし負けた時に何かあるなら言わないってのは公平じゃないよね?」
葛葉はそこまで分かってて勝負を焦らなかったのだ。
「と、いう訳で勝つまで勝負するからね。もう一度!」
続けて勝負を挑む。
「おいおい。大丈夫なのか?」
「なんで?続けて同じ人が勝負する分には公平だよ?条件は同じ」
集中して疲れてるのはどちらも同じ。
確かに公平。
ここで改めて後藤彩菜は葛葉の恐ろしさを知った事になる。
「くっ。まさかこの力の最大の弱点を見ぬいていたとは」
「最初に言葉を選んでいた事から、あの言葉は勝負をする為の必要な儀式だってのは分かっていたよ」
これが淀みなく言葉が出ていたら、まだここまでは信用はしていなかったかもしれない。
だが、繰り返し言わなくてはいけない言葉がゆえに戸惑いはある。
間違った文章を言ってはいけないという欠点がある。
しかし、こうも早く見抜かれるのは初めてだ。
これまでイカサマをして初めて分かった人はいるにはいた。
だが。
始めの勝負が終わるまでの間で見抜くとは。
「それにね。ゲーマーにゲームで勝負するのに卑怯な手なんて使わないよ」