第4章 10話
勝負を初めて間もなくキッドは気づく。
目の前の敵は初心者だと。
少なくともイカサマが出来るほどの技術は持っていない。
まさに正々堂々と戦っている。
これが別に普通の勝負ならこのまま戦う事を選択しただろう。
運の力でも負ける要素は無い。
だが。
こんな訳の分からない場所へと閉じ込められて真面目に戦うという事はしたくない。
さっさと脱出したいからだ。
だからこそ。
キッドはイカサマを仕込む。
彩菜が手札に集中した瞬間。
キッドは山札からカードを抜く。
普通の人間では気づかないほどの集中の隙間を狙う。
当然、手札を開けた時には勝負は決まった。
それを見て彩菜が不思議がる。
「よくそんな都合の良い手札が来るのね」
これまでと違う、異質な展開。
彩菜はそういうのに鋭い。
こういう時はイカサマをしている可能性が高い。
彩菜もこれまでいくつも勝負をしていて、そういう嗅覚は鋭い。
「あなた。イカサマをしてるわね?」
「さぁな」
当然認める訳もない。
イカサマというのはその瞬間を暴かれて初めてそう呼ばれるというのをキッドは知っているからだ。
「いい。この場では公正な事が何より優先されるのよ。だからこそ私はルールを予め提示してる」
そう。
この空間では彩菜も能力の対象になる。
だからこそ、先にルールを説明している。
「公正か。そんなの勝負の場には存在しない。イカサマや不正、なんでもありだ。勝った方が勝者で負けた方が敗者。それだけ」
それこそが彼が生きてきた中で培ってきた真実。
「分かって無いわね。ここではそういうルール!公正こそが求められる場。それを破ればどうなるか、その身で受けるがいいわ!」
そう言った次の瞬間。
キッドの目の前に大きな天秤が出てきた
「なんだ!?」