第4章 裏でうごめくもの
この街は何かがおかしい。
それはこの街に住む人なら誰もが感じていた。
事故や事件が頻繁に起きている。
もしそれだけなら、人口が多いがゆえと思う人もいるだろう。
だが。
それらのほとんどがまるで表面化していないのだ。
そう。
テレビや新聞等でまったく報道されていないからだ。
噂だけが一人歩きしている状態。
誰もが胸に違和感を覚えながらも、日々の日常を過ごしている。
オフィス街で働く山田陽一もそんな一人だった。
彼も直接事故や事件を見た訳ではないが。
噂が飛び交う中、不安を抱えつつ仕事をこなしている。
だが、そんなことはすぐに頭の片隅へと追いやる。
何故なら、そんなのは噂だけで実際にある訳がないと思っているから。
不安ではあるが、どこか現実離れした事だと思っているから。
でもそれは仕方のないこと。
誰もがそう思っている事だからだ。
だから彼を非難する事は出来ない。
「さて、お得意様の所へ行かないと」
歩きなれたビルへと進む。
彼の務める会社の得意先のある所。
彼が務める前からの関係で、特に難しい仕事ではない。
しかし誰もが出来る仕事ではない。
こういうのは信頼こそが一番重要だからだ。
エレベーターに乗り、いつも慣れた階で降りる。
そこの階は全てお得意先で占められている。
わりと大きな会社。
「失礼します!」
慣れた動きで中に入る。
だが。
入ったとたんに、いつもと違う光景が目に入る。
誰もいない。
一人もだ。
今日は仕事の休みの日では無い。
もっとも今日は仕事で来ているのだ。
誰もいないなんてあり得ない。
しかし、一人も目に入らない。
何かが違う。