第3章 7話
「いくつか質問があるんだが」
まず口を開いたのはキッドだった。
「お前ら知り合いか?」
二人を指さす。
「私は林動理恵子。彼女は氷室由梨絵で、その昔”死神”なんて言われて恐れられた暗殺者よ」
あっさりと正体を言う。
「暗殺者?その割には殺気なんか感じないが?」
人を殺す為の職業ならば、自然と殺気を感じるはずだが、キッドはまるでそんなのを感じない。
「そこの所はどうなの?最後に会ってからだいぶ経つけれど、まだ暗殺者なんてやっているのかしら?」
「ふん。お前には関係の無い話だ」
だが、氷室は答える気はないみたいだ。
「あら。私だってまだ暗殺者をやっているなら、問答無用でこの場で切るつもりだったけど、どうして人助けを?」
そこが林動が躊躇した点。
昔の彼女ならば見殺しにするはずが、逆に助けている。
それはとてもじゃないが信じられない行動。
「そいつが暗殺者だと?」
キッドの不審に思う。
その行動はとても暗殺者だとは思えないからだ。
「なに。あの日から私の運命が変わったと言ってもいい」
それは、山本健一と対決した日だった。
その日までは、死の場面を先に見る事になり。
その場面を回避する事など不可能だと思っていた。
だが。
あの日、初めて死の場面と違う場面を見たのだった。
「これまで不可避だと思っていたのを、回避する術がある力に変わった。それだけの事」
「つまり、相変わらず死の場面は見えてるってことね」
その辺りは林動は目ざとい。
能力を使う者として、今の言葉の意味する内容を把握している。
「だがその場面を防ぐ事が出来ると?そういう訳か?」
キッドが言う。
「そうだ。これは今まで死神として数えきれないほどの死を見てきた、私の罪滅ぼしの為の行動。単なる自己満足だ」
まるで、これまで貯まっていたものを吐き出すかのように。
一度は諦めた道を、再び歩こうとしている。
「なら。私の言葉を聞いてちょうだい」
林動は口を開く。
「どうも、この街で何かが起きている。今の事故だって単なる事故とは思えないわ」
「おいおい!一体何の根拠があって?」
「根拠ならあるわ。あのバスは今朝整備したばかりで、しかも運転手もよそ見をしていなかった。むしろ時速30キロ未満の安全運転状態だったにも関わらず、突然暴走した。こんな事が普通にあると思います?」
それでキッドは驚く。
「見てたのか?」
「えぇ。一部始終」
確かに不思議な事故だとはキッドも思っていた。
だが。
そんな変な事があるなんて。
「どうも、この街を滅茶苦茶にしたい人物がいるようです。もし良ければ私達と一緒に、その人物を探す手伝いをして欲しいんです。この街は広すぎる。仲間は一人でも多いに越したことはない」
この街で何かが起きている。
それはキッドも思っていた所だった。