第3章 5話
「すいません。合い席よろしいですか?」
ふと見ると、混雑しているようだ。
「あぁ。構わない」
別に断る理由も無い。
すると、一人の女性がやってきた。
髪の長い、綺麗な女性。
やや表情が暗いイメージがある。
そんな感じ。
もちろん何も知らない赤の他人。
単に混雑したから、たまたま合い席になっただけ。
だが。
キッドが運を信じているように。
この世に”運命”というのがあるのなら。
今、まさにその運命がこの二人を引き合わせた。
だが、そんな事を知らないキッドは席を立つ。
別に合い席が嫌な訳ではない。
飲み物も空になったし、もともと長居するほどでも無かったので帰ろうと思っただけ。
だが、女性の方から口を開いた。
「動かない方がいい」
キッドはその言葉に驚いた。
ついさっき出会ったばかりの人にそんな事を言われるなんて。
確かに恨まれる事は山のようにあるが。
だが、狙われるほどの殺気は感じていない。
「どういう意味だ?」
もちろん、目の前の女性からも殺気を感じていない。
何の忠告か。
そういうつもりで聞いたのだろう。
「もうすぐ、目の前の道路で事故が起きる」
ここはオープンカフェ。
もちろん、すぐ側に道路もあれば車も走っている。
だが。
ここから道路までの間に木々が植えられている。
もちろん、万が一の事故防止の為に。
だから事故でキッドが危機に陥るという現象がまず分からない。
そう思った次の瞬間。
ドン!と大きな音が響いた。
バスが車とぶつかっている。
やがてバスは電柱に衝突した。
確かに事故は起きた。
だが。
キッドに危機が起こるとは思えない。
「確かに事故は起きた。それで?」
「上だ」
ふと見上げる。
「なっ!?」
バスが電柱にぶつかった衝撃で、電線が切れたのだ。
その電線が。
まさにキッドに向かっているのだった!