青木 美姫
第1章 青木美姫
「ふむ。これで大丈夫じゃ」
手当が終わる。
それほど酷い怪我で無かったから、悪化する事もなかろう。
「ありがとうございます」
「お大事に」
ふむ。
これで今日の診察は終わり。
今日も平和な一日が終わろうとしておる。
いい事じゃ。
願わくばあれを使う事にはならないように。
一呼吸置く。
考えすぎじゃ。
この街は平和じゃ。
たまに思い出したかのように交通事故で運ばれる患者がおるぐらいじゃ。
「今日もお疲れ様です」
看護師の須藤がお茶を入れてくれる。
それを静かにすする。
「なに。これぐらいの事はいつもの事じゃ」
そう。
とりとめもない内容。
あまり酷い患者はおらぬ。
それぐらいで丁度いい。
医者という職業は、本来暇なくらいでいいのじゃ。
「いえ。青木先生はいつも手際がいいし、治療も的確だし。みんな目標にしてます」
ふむ。
そうやって憧れの対象になるのも照れる感じじゃな。
もう一口お茶をすする。
その時じゃった。
ブーブー!
緊急を知らせる音が鳴り響く。
これは。
急患じゃ。
じゃが、これが鳴る時はまず交通事故の患者。
慌てず騒がず、緊急施術室に入る。
この病院はそれほど大きいという訳でもない。
じゃが緊急患者にとって大きいとか小さいとか選んでいる場合でもない。
そういう時の為に指定先になっているというだけ。
マスクをして手袋をはめる。
そして。
緊急患者が搬送されてきた。
思えば。
この患者が全ての始まりだったと言えるじゃろう。