その5
最近になって妙な事件が増えていた。
テレビの報道では、それによって死者が出ていると言う。
全国各地で起きており、被害者の死因は様々だが、目撃情報も相次いでおり、
複数による犯行である事が明らかになった。
後は、ニュースでは被害者の名前とか位である。
ある日、これについてワイドショーで取り上げられていた。
その中病院に運ばれ、生き長らえた人にインタビューしている場面が写る。
インタビュアーの質問に被害者の人は
「被害に遭うまえに『あらい許可お願いします。』といっていた。それで他に『ライ、ライ!』
と言う複数の声が聞こえた・・・」
と証言した。
これをみた吾平は
「荒井許可お願いします?なんだこりゃ?」
と変な解釈をしていた。
その次にすぐ番組内で alieと言う文字が画面に出る。
そしてこの「alie」は「嘘」という意味らしく、つまりは
「alie許可お願いします」というのは、
言い換えれば
「嘘許可をお願いします」と言っていて、その後に他のメンバーが
「嘘!嘘!」
と言った事になる。
吾平はこんな解釈をしたのだった。
吾平は、後で「alie」の文字が出てたのを見たので「嘘」であるのは分ったのだけど一方、彩子は
「あらい許可お願いします」
の所で、笑いながら
「洗い許可お願いします?だって。変なのー」
と言う。
それでも彩子だって「alie」の文字をみて、直ぐに分ったのだけれど。
吾平も彩子も、二人そろって天然かも知れない。
さて、登流薄教団が「登流薄教団」を名乗る理由は意外に単純なものなのだ。
英語読みの「Truth(真実)」から
「登流薄」と当て字にしたものだからだ。
そして、言い換えれば「真実教団」としておきながらも最近になって、特定の人物に対して「ライ、ライ!」などと
言いながら危害を加えて来たのである。
これを「間違っている」と言わずして何と言えようか。
登流薄教団が「広宣流布」を達成してから数年。
教団は、この大和の国を統治して置きながらも国民に対していわゆる「粛正」を始めたのだ。
「ライ、ライ!」と言われて、信者に危害を加えられるそれこそがそうだ。
吾平は元登流薄教団の会員である。
そのためか、教団にとって都合の悪い部分を知っている吾平は「粛正」の対象になっていた。
登流薄教団の代表である豊富丸太郎は、教団を過去に抜けたおよそ500人の名簿の中から、現役信者で過去の人物を知って居る者を名乗り出させて調べ上げ
その中から更に数十人をリストアップし「粛正」のターゲットとした。
豊富丸太郎は、過去に接点があった現役信者を元信者を「粛正」するために、その元へ向かわせていたのだ。
そして、高鍋を粛正するために向かわせた、接点のある人物は先ず二人とその、取り巻き。
二人の名前は佐賀法子と銃拳北斗のふたりだ。
吾平の粛清のために向かった二人。
関西方面から来たこの二人は、行動に出る前に軽く自己紹介をした。
お互いの、吾平に対する接点を知る為である。
先ず佐賀の方から切り出した。
「はじめまして。関西方面隊女子部15隊寺屋班の佐賀です」
「こちらこそはじめまして。同じく関西方面隊壮年部13隊羽生班の銃拳北斗です」
自己紹介もそこそこに、吾平が住んでいる所にお互いが向かう。
佐賀は、吾平を折伏して入会させた人物。
銃拳は、吾平が羽生班に転入した時の班長であったのだ。
その、銃拳北斗たちは高鍋の住んでいる団地の棟のすぐ側までやってきていた。
そして、銃拳はチャッ○マンとあるスプレー缶をとり出す。
「フッフッフ。こいつで!」
銃拳が取り出した物をみて、会員が質問した。
「そのスプレー缶。一体どうするんですか?」
「これか?キンチョー○だ。これをこうしてよォ。対象者に浴びせてやンだよ」
銃拳はチャッ○マンをキンチョー○の前に持っていき、火だけを点けてみせた。
それを見た会員は、どうなるのかを想像出来たのか、思い出し笑いをする。
一方、佐賀の方は、本部に電話をかけていた。
・・・銃北斗がいわゆるガハハ笑いをする。
この、ガハハ笑いが吾平を気付かせるきっかけとなった。
ここは団地でしかも夜。
大声を出せば声は当然、周りに響く。
これに気づいた高鍋は何事かと、玄関のドアを開けて外を見る。
すると、下には複数の人間を確認して、銃拳北斗が点けていたチャッ○マンの火を偶然にみた。
「これは・・・!」
吾平は直感する。
吾平は慌てて玄関の靴を彩子の分も取り出して、それから彩子の前に置いて言った。
「彩子!今すぐポケットの多い、動きやすい服に着替えて!早く!あと、貴重品も!」
吾平が促す。
「何よ、いきなり。慌てちゃって!何があったの!?」
「登流薄教団の奴等が下に居る!まずいから!」
「えっ!?」
彩子は、登流薄教団と聞いて、急いで着替える。
その間に吾平は消火器と、突っ張り棒。ハサミ、カッター、小型懐中電灯、貴重品をポーチに入れて、それを身につけた。
一方その頃。
佐賀は電話をして確認し、指示に当たる言葉を言う。
「あらい許可出ました!」
「よし、行くぜ!」
佐賀、銃拳共に行動を開始した。
銃拳たちが、凄い勢いで高鍋の住んでいる部屋に駆け寄る。
高鍋たちは、この時にはほぼ準備を整え、臨戦態勢にはいった。
「ほい。彩子。自転車のカギと、突っ張り棒。この棒はさ、決して細いほうは持つなよ。奪われちゃうから。ひっかけのある太いほうを持つんだ。後は、竹刀見たいにふりまわせばいいから」
高鍋は突っ張り棒を彩子に渡し、アドバイスした。
高鍋は、ドアのカギとチェーンをかけてそれから、消火器を持った。
銃拳たちが玄関前まできて一声。
「高鍋ぇー!いるんだろう!開けろぉ!」
銃拳が怒鳴り声をちらす。
だれが開けるもんか。相変らず、血の気の多いヤツ。
しかし、ドアのカギは銃拳率いる会員の一人によってあっさり開錠される。
そしてドアが勢いよく開かれた。
「キン○ョールファイアー!」
「させるかぁっ!」
吾平は、銃拳がチャッカマ○の火が点けられるまえに、消火器の泡沫を浴びせた。
銃拳がひるんだ隙に、消火器の本体を銃拳にぶつけて倒した。これを突破口にして、吾平たちはこの場から逃げだした。
ここから逃げ出す吾平たち。
しかし、待ち伏せしてる人数が多かった。
ざっと見ると6人はいる。
吾平は再び消火器のレバーを握り、噴射する。
しかし、思う様に煙としては広がらず、会員たちはこっちに向って襲いかかった。
吾平はポーチから伸縮する警棒を取り出し応戦する。
一対一の戦いになる。
一方、彩子のほうは何と二対一の戦いになっていた。
佐賀と、会員の男。
彩子と佐賀、お互いの動きが止まる。その隙に彩子は体を掴まれてしまう。
「きゃあ!」
思わず声が上がる。
しかし、その次には
「どこ触るのよ!」
って、怒ると同時に相手にボディブローを浴びせた。
そして彩子は再び突っ張り棒を手にとった。
吾平は、警棒で応戦中。
相手の一人が今度はスタンガンを取り出す。
でも、スタンガンと警棒なら、攻撃する距離の関係から、吾平に有利で、相手の手を弾き、警棒を一度放ると、近くあった消火器を持って相手に投付けた。
そしてまた、警棒を拾う。
彩子は、突っ張り棒を奪われる事なく、相手を叩いてのしていた。
「・・・|(結構強いな)」
吾平は、彩子の戦いぶりに感心していた。
そして、隙もできたので、二人で逃げ出す事が出来た。
吾平たちは逃げて、下に降りる事ができた。
そしてお互いが自転車に乗る。
吾平たちが使っているのはいわゆる「電動アシスト付き自転車」だ。
この時代では普及率は92パーセントを超えて、もはや常識なのだ。
バッテリーは旧時代の電動ラジコンで使われた8・4Vニカドバッテリーと大きさはさほど変わらないが、ハイパーリチウムイオン電池と言って
さらにより高密度化されて居る。
これにより、吾平たちの乗る自転車ならばフル充電の通常使用で約50キロメートルもの走行が可能なスグレモノだ。
それを吾平は彩子に、
「ハイパーモード使って逃げるぞ!」
と言う。
「ダメだよ!それ使ったらいつ、電池切れるか分らないし、凄く重くなるんだもん!」
「その時はその時!今は逃げるのが先!」
「もう!どうなったって知らないから!」
「大丈夫だから。マサキの居る所までだから!」
「・・・マサキ君?」
「そうだよ!じゃあ、早く行こう!」
吾平は彩子にそう言うと、自転車のモードを「ハイパー」にして走り出す。
彩子もちゃんとついてきた。
しかし、半強制的で、アクセルをあけっぱなしのバイクの様に走るこのモードには結構てこずっている様子だった。
この、ハイパーモードにすると、最高速度は35㎞/hになり、原チャリの様になってバッテリーが切れるまでずっと走る。
しかし、距離にして10キロ位しか走れないのだ。
だから、彩子はどうなっても知らないと言ったのだ。