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LEGACY(仮)  作者: かぐや
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第一話

(敵機、距離5500まで接近中、このままだとあと二分後に接敵します)


 ヘッドセットから聞こえて来る管制システムの音声に、神捺人は舌打ちをした。


「こっちはまだ片付いてないんだ――セアラさん! そっちから敵の姿は見える?」


「こちらからはまだ見えないです」


 綺麗な声が電波ノイズ交じり耳に届く、その報告を受けると神捺人フットペダルを強く踏み込みながら、操縦レバーを巧みに操作すると機体の向きを変える。


「セアラさん! これから敵機の掃討に向かう。出来る限りで良いから援護を頼みます」


「了解。珂風少尉も気をつけて下さい、とくに六時方向(うしろ)


 ノイズ交じりのセアラの声を聞きながら、未だ激しい戦闘が繰り広げられている戦場に向かい機体を進ませる。


「こんな所で、まだ死ぬわけにはいかないんだ!」


 神捺人はコックピットの中で、そう自分に言い聞かせるように声を出した。




 西暦2257年、人類は未だ出口の見えない戦いの中に居る。戦場は地球だけに留まらず、宇宙にまでその戦域を広げていた。

 西暦2150年、国家と言う枠組の中での戦争が繰り返され。大国と呼ばれた国も度重なる戦争で疲弊し、国民を守り養う事も出来なくなっていた。そこで考えられたのが。当時の戦争よる好景気に沸く大企業の力だった。戦争特需により、かつて無い程の資金力で国内外を問わず影響力を及ぼす大企業は軍顔負けの最新装備で固めた私設軍隊を組織した、その軍事力は小国など相手ならぬ程の規模と精強さを誇る様になっていた。

 国はその強大な軍事力を我が物にしようと法整備を整えようとしたが、政治の世界にも企業の影響力が及び、その有り余る資金力と企業に所属する社員達の数の力で、己の息のかかった政治家を数多く送り出していたために、この法整備は議会に上がる事も無く握りつぶされたのだった。

 そうして着実に国の中枢に息の掛かった人材を送り込む事によって、国の権力に食い込み、企業が国を意のままに操れるようになるまでに時間はかからなかった。

 企業はある意味とても冷静で冷淡だった、利益の無い戦争は早々に打ち切られれ、逆に利益が見込める戦争には、今まで以上に積極的に軍を派遣した 国を自由に動かせるようになってからも戦争は続いたが、必要以上に戦域を広げる事もなく、軍事力の拡大も大々的にはしなかった――ただ一点の事を除いては……

 それはLAと呼ばれる人型機動兵器の積極的な導入であった。それまで使われていた戦車や戦闘機という兵器に代わる新たな機動兵器への転換だった。

 LAは全長15m~20mの人型兵器である。この兵器の登場によって戦争の様相は大きく変わって行った。

 戦車以上の走破性能、人型であるが故の使用兵器の自由度、僅かばかりとは言え飛行能力さえ有する。LAは陸戦においては他の兵器の追随を許さぬほどの性能を見せた。

 やがて戦場では実質的にLAの数が戦局を決める。と言われる様になるまでそれほどの時間は掛からなかった。

 このLAという兵器は当初、日本のIZNG社により災害救助や土木工事用のロボットとして発表された物を同社が兵器としての転用を始めたのが切欠だった。そのあり得ないほどの高い技術力は、当時の技術水準を遥かに超越しており、コピー品を作り出そうと数々の企業が研究開発に乗り出したが、それはほぼ全てが徒労に終わる。

 しかし、とある六つの企業は妄執的な研究開発により、LAのコピーに成功する。

 その6つの企業が2250年代、世界の7大企業と呼ばれるまで巨大化するとは当時の誰もが予想出来なかったに違いなかった。

 IZNG社を含む七つの企業は、LAを主軸に置いた経営戦略で瞬く間に莫大な利益をあげる。世界の其処彼処で起こっていた紛争やテロ、民族間の争い、果てはマフィアの抗争にまでもがLAが使われる様になり、それを収める為に各国の軍や警察もLAを次々と導入していった。

 この時期の企業利益は天文学的だったと、当時の企業の経理担当者は口を揃えて言う。その圧倒的資金力を背景に、世界の7大企業と呼ばれる超巨大企業は本社を置く国の実質的な統治者でもあった。


アメリカに本社を置く、7大企業最大の軍事力を持つ、US社


中国に本社を置く、7大企業の中で世界のLAシェア率1位の、九龍公社


ロシアに本社を置く、7大企業最大のエネルギー備蓄を持つ、インエスカッシャン


ドイツに本社を置く、7大企業最新鋭LA開発力を誇る。ポラール・リヒト


イングランドに本社を置く、7大企業最強のLA部隊を有するWD社


フランスに本社を置く、7大企業最大のLAの保有数を持つ、マリアンヌ


日本に本社を置く、LAをこの世界に送り出した。IZNG社


 この七つの企業が、今、世界を動かしていると言っても過言では無い。

 それぞれの企業は自社の利益の為に紛争を起こし、そこで起こる戦争を糧に利益を上げていく。

 七大企業傘下の中小企業の社員達は、紛争地帯で兵士として働く事が当たり前の世の中になっていた。

 この物語は日本のIZNG社の下請けの下請けの下請け会社で働く若者達の物語である。






 特殊加工されたコンバットナイフが相手の機体の装甲をを貫く。神捺人は素早く機体を操縦すると敵の機体から離れる。

 その直後、敵の機体に穴が穿たれ爆発を起こす。遅れて聞こえて来る発砲音に神捺人は操縦席の中で口の端に笑顔を浮べると通信を送る。


「ありがとう、セアラさん」


「お礼なら、日本に帰ったから、あんみつ奢って」


「了解! 生きて帰れたら好きなだけ奢ってあげる」


 神捺人はそう言って通信を切ると、機体の背中にマウントされている突撃砲に装備を変更すると、パネルを操作しマイクのスイッチを入れ辺りに呼びかける。


「こちら、独立支援大隊第二中隊の珂風神捺人(かかぜかなと)少尉、生存者いますか!」


 機体からスピーカーを通して神捺人の声が辺りに響き渡る。その声に反応して男の声で通信が入った。


「こちら、独立支援大隊第三中隊の小林和也……負傷して動けない……俺の周りはほぼ死体だらけだが何人か助かる見込みのありそうなのが居る。悪いが至急救助頼む……」


「了解、衛生班に連絡しておきます。救助信号はそのままにして置いて下さい」


 神捺人は衛生班に連絡を入れ、大まかな場所を知らせると次に同じ部隊のセティを呼び出す。


「セティさん、そっちの状況は?」


「珂風少尉のいる位置から、北に2000mの地点で敵機足止め中……でも、そろそろ弾が切れそう……」


 セティの通信から戦闘の砲撃音が届く、神捺人はレーダーで敵機のマーカーを確認すると機体の操り速度を一気に上げる。


「あと三十秒で待って! そっちに合流するから、それまで持たせて!」


「了解……速く来てくれないと、私、死んじゃいそう……」


 情けない声でそう言うセティの声を聞くと、神捺人は機体限界までブーストジャンプを繰り返し戦場を飛び越え先を急ぐ。


「セアラさん! そこからセティへの援護って……」


「出来るなら、もう既にしてる……ボクも移動中だから……あと一分で援護可能の地点に到着する」


「了解、僕が何とかするから、セアラさんは周囲の伏兵に気を配って!」


 通信を切ると、36mm弾が飛び交い爆風と粉塵の上がる戦場に突っ込んでいく。味方マーカーを確認するとそちらに機体を向かわせる。


「セティさん! 大丈夫?」


「何とか……でも、ダメージが大き過ぎて機体が思うように動かない……」


「煙幕を張るからその間に南に逃げて。セアラさんが近くまで来てるから!」


 神捺人はレバーで弾丸の選択をすると突撃砲から煙幕弾を発射する。

 周囲に一気に煙幕が広がり、セティの機体がゆっくりとだが戦域を離脱して行くのを確認すると、敵マーカーに向かって36mm弾をばら撒く


「戦力差がありすぎる……マーカーを信頼するなら4機。伏兵がいない事を祈って一気に行くしかない!」


 フットペダルを器用に操り、機体を制御しながら敵機に向かって。一気に距離を詰める。


「第一世代LAは機体制御が重い! せめて第二世代型だったらなぁ……」


 神捺人は機体を低い姿勢で保ちながら進ませると、敵LAの突撃砲のマズルフラッシュが見える。


「煙幕の中でそんなにバンバン撃っちゃ駄目だよ! 直ぐに場所がバレちゃうから!」


 低い姿勢のまま背中にマウントしてある長刀を抜くと、すれ違いざまに胴を横薙ぎにする。敵LAは爆発する事無くその動きを静かに止める。

 ロックオン警報が操縦席に響くと、神捺人はフットペダルを巧みに操り弾幕を躱す。射線から敵の位置を予測して36mm弾を撃ち込むと手応えを感じたのか操作レバーを握る手を緩める、敵のマーカーが反応を消すのを確認するとそのまま機体を北に向ける。


「あと2機!」


 突撃砲を腰のジョイントにマウントさせ、長刀を構えながら煙幕を抜けると、二時方向にある岩場の影からミサイルが飛んでくる。

 ロックオンアラームが響き渡り精神を圧迫する。神捺人は操縦レバーの兵器選択スイッチを操り、肩口に装備された20mmバルカンを起動させるとミサイルに向かって弾幕を張る。

 一基のミサイルは20mmの弾丸に撃ちぬかれ爆発する。しかし、もう1つのミサイルは爆炎の中から神捺人の機体に向かって無慈悲に突っ込んで来る。


「っっっ」


 声にならない悲鳴を上げながら、腰の突撃砲からフレアを発射する。ミサイルは上手くフレアに誘導され神捺人の機体から外れていく。


「危なかった……」


 震える声でそう呟くと、ミサイルが飛んできた岩場に向かい突撃砲から120mm滑空砲を撃ち込む。すると岩陰から1機のLAが長刀を構えながら突っ込んで来る。


「日本人相手に接近戦を挑んでくるなんて無謀だぞ。パイロット!」


 神捺人は敵LAを迎え撃つように右手に構えた長刀を正眼に構え直す。

 ホバー機能を使い大地を滑るようにして向かって来る敵LAに対し。切っ先を向ける。

 敵LAは長刀を腰溜めに構え、突きを放つ様な姿勢のまま突っ込んで来る。それをギリギリで躱すと機体の表面に火花が散る。

 敵LAの肩口に向かいハイパーカーボン製の刀身を振り下ろすと装甲を切り裂き腰部の辺りまで機体を切り裂いた。

 腕を切り返し、斜めに切り抜くと敵LAの左手が腰の一部と共に地面に落ちる。

 神捺人は機体の横を抜けると、長刀を振り払い背中のマウントに戻し、最後の敵を目指し進む。


「あと1機……セアラさん、セティさんと合流できましたか?」


「こちらセアラ、機体のダメージが大きすぎるから機体を廃棄して、私のLAに……今乗り込むところ」


「こちらセティ、すみません大事な機体を……」


 セティの落ち込んだ声に苦笑を浮かべると、神捺人は励ます様に声をかける。


「どうせ、借り物の機体だから気にする必要はないよ。たぶん此処での戦闘はこれが最後だろうから……あとの事は隊長に任せよう。僕はこのままもう1機の敵を排除したら東から部隊に合流する、セアラさん達は直ぐに引き上げて下さい」


「僚機を置いていく訳には行かない……」


 セアラの何時に無く強い口調に神捺人は笑みを浮べるとそれを噛み殺し、強い口調でセアラに言い渡す。


「これは隊長命令だ! 今すぐにセティ軍曹をつれて本隊と合流しろ」


「……了解……」


 セアラの悔しそうな声に苦笑いを浮かべながら、通信を切る前に神捺人はセアラに一言告げる。


「帰ったらあんみつ奢るから、楽しみにしててよセアラさん……」


 そう言うと、セアラの声が通信に乗る前に神捺人はスイッチをオフにする。


「何か盛大に死亡フラグを立ててる様な気もするけど、セアラさんもセティさんも此処で死なすには惜しいほどの美人さんだからなぁ」


 機体を操りながら、最後の敵のマーカーを目指し機体を進めると、神捺人の前に敵のLAの姿が見えてくる。


「……此処に来て第二世代型LAか……しかもドイツのPL-Ⅱブレンネンか……良い機体に乗ってるね……」


 敵LAは悠然と立ち、神捺人の機体と相対している。青色のカラーリングに第二世代型特有のシャープな機体シルエット、両手には見たことのない突撃砲が握られ、背中のマウントにはトップヘビーの長刀が備え付けられている。


「これはまともに戦っても勝てそうも無いぞ……こっちは中国製の第一世代型LA、しかも戦闘による疲労ダメージがかなり深刻だし……なにより弾薬が殆ど無いのも追い討ちをかけるなぁ……」


 神捺人は自分の機体の状態を冷静に分析すると、一瞬投降のサインを出そうかと考えるが、相手はそれを許さないだろうと思いなおし。何とかこの場を切り抜けることに全力を尽くす事に思考を切り替える。


「戦場で弱気になったら死が待っているって先生も言ってたし……ここは1つ何時も通り相手を叩く事に集中しますか」


 スロットルペダルに乗る足の位置を直し、操縦レバーを強く握り直すと腰にマウントされた突撃砲を左手に持ちかえ敵LAの出方を待つ。


「パイロット技能では負けてない事を祈って、いざ尋常に勝負!!」


 神捺人は機体を一気に加速させると、相手の右側にスライドしながら突撃砲の36mm弾を撃ち込んで行く。ブレンネンは神捺人とは逆に左に向かい機体を移動させていく。

 2機は円を描くように一定の距離を保ちながら、互いの突撃砲を撃ち合う。


「やっぱり相手の方が速い! こちらの機動力ではこのまま良い様に嬲り殺しにされてしまう!」


 神捺人はレバーで武器選択を行い、突撃砲から閃光弾を撃ち出す。

 機体のメインカメラに閃光防御のシェードを降ろすと同時に閃光弾が炸裂する。辺りが眩い光に一瞬包まれると、神捺人は背中のマウントから長刀を装備すると一気にブレンネンに向かって加速する。

 ブレンネンは閃光弾によって、メインカメラが一時的に麻痺しているのか一瞬動きが止まる。神捺人は加速する機体のGに耐えながら、長刀を振り下ろした。

 しかし、寸前のところでブレンネンは後ろに一気に加速しながら、突撃砲から弾幕をばら撒く。

 神捺人は機体を屈ませてその弾幕を躱すと、低い姿勢のままブレンネンに追いすがる。しかし、機体性能の差で距離を見る見るあけられる。


「やっぱり、機体性能の差が大きすぎる!」


 そう言って操縦席で愚痴を零すと、突撃砲を構えブレンネンに撃ち込む。36mm弾が幾つか機体に当り火花を散らすが致命的なダメージには至っては居ない。


「ちぃっ!!」


 舌打ちをすると、虎の子の120mm弾を撃ち込んで行く。その一発がブレンネンの左肩に当り、其処が小規模の爆発を起こす。


「これで、左手は動かなくなったはず……一気に行く!」


 撃ちきった突撃砲を捨てると、長刀を構えブレンネンに向かって行く


「此処で奥の手! 機体リミッター解除!」


(機体リミッター解除、これより15秒間出力限界を超えて機動します。カウントダウン三,二,一……)


 機体管制システムのカウントが0になると、先程とは比べ物にならないほどの加速Gが神捺人を襲う。


「くぅぅぅっ!」


 歯を食い縛りながら、加速に耐えると先程まで追いつく事も出来なかっブレンネンに肉薄すると、ハイパーカーボン製の長刀で爆発を起こしている左腕を狙い振り下ろす。強い手応えと共にブレンネンの左腕が斬り飛ばされる。


「まだまだぁ!!」


 機体の腕を返し切り上げるように長刀を振り上げると、胴体をかする様に長刀が装甲を切り裂いた。

 振り上げた長刀を引き戻そうとしたとき、漸くメインカメラが正常に戻ったのかブレンネンも腕に内蔵されたブレードで神捺人の機体の胴を薙ぐ。

 耳障りな音共にコックピットハッチの一部が切り裂かれる。その破片が神捺人の肩に突き刺さるが。それを気にする事無く上段に構えられた長刀を振り下ろす。

 ブレンネンは肩に装備された20mmバルカンを掃射してくる。それによってメインカメラを破壊され視界を奪われるが、切り裂かれたコックピットハッチから直接視認で振り下ろすと。ブレンネンはそれを右腕のブレードで受け止める、凄まじい衝撃音と共に右腕がおかしな方向に曲がるが、それでも長刀を防ぐ事に成功すると、反撃とばかりに肩口のバルカンを撃ち込んで来る。


「此処まで来て、負けられるか!」


 神捺人も残り少ない20mmバルカンを撃ち込んで行く。時間にして僅か2秒の間に全て撃ち尽くすと。管制システムの無常の声が響く。


(機体リミッター解除限界、これにより主機の駆動が停止します)


 神捺人はボロボロになった機体の中からブレンネンを見つめる。そこには同じ様にコックピットハッチを切り裂かれ、こちらを見つめて来るパイロットの姿が僅かに見える。

 神捺人は備え付けれている銃を取り出すと、緊急開放ボタンでコックピットハッチを吹き飛ばすと。銃を構えブレンネンのパイロットに向ける。


「まさか最後は生身で戦う事になるとは思わなかったけど……一応決着は付けておかないとね」


 そう言ってブレンネンのパイロットに呼びかける、同じ様にハッチを開放するとパイロットが銃を構え出てくる。


「まさか、第一世代にやられるとは思ってなかった……良い腕をしている」


 そう言いながら神捺人に向き合うのは、綺麗な金髪を纏め、碧眼に強い意志を持った同い年の位の女の子だった。


「……参った……こればかりはどうしょうもない……」


 神捺人は銃を降ろすと手を挙げる、その行動に訝しげな表情を浮べつつも銃を降ろさず警戒を強くする女の子に神捺人は告げる


「投降する、こちらにこれ以上の抗戦の意思はない」


「いきなり、どうしたのだ? 先程までの勇敢な戦いぶりからは考えられないが……」


「家の家訓なんだ、女は殺すなっていうのがさ……」


「ふん、戦場に出て何を甘い事を……だが、私も誇りあるドイツ軍人だ、投降した者を嬲り者にするつもりは無い」


「それはありがたいね……」


 神捺人は苦笑を浮かべながら、地面に降りると腹ばいになり抗戦の意思がない事を再度証明する。

 機体から降りてきた女の子は銃を突きつけながら、神捺人を後ろ手に拘束用の簡易結束バンドで縛る。そこで漸く銃を仕舞うと話しかけてくる。


「お前の所属と名前を言え」


「独立支援大隊第二中隊の珂風神捺人(かかぜかなと)少尉」


「ほう、色々と噂のある独立支援大隊か……それでは、戦時協定によって、貴様を私の捕虜とする。まず貴様の身柄はこれから我が軍に送られ、尋問を受ける事になる、その後捕虜として本国に送られ、そこで身柄の解放を待つことになる」


「…………」


「なんだ? 何か質問があるのか?」


「いや……」


「何だ?」


 ドイツ少女は不思議そうに神捺人を見つめていると、突然ヘッドセットに声が入る


「今この時間を持って、この戦争は終結した。直ちに戦闘を止め各部隊は本部に戻れ。尚、事前戦争条約により、捕虜、傷病者は速やかにそれぞれの所属軍、所属国に引き渡してください」


「……お前はこれを知っていたのか?」


「こんなにタイミングが良いとは思わなかったけど……もう直ぐ、ここでの戦いが終わるのは知っていたよ」


 神捺人は笑顔でそう言うと拘束された手に視線を向ける。それに気付くとドイツ少女はナイフを取り出し結束バンドを切る


「運の良い奴だ、我が軍の尋問官は大層腕が良いのだが……」


「これからは、ドイツ人にだけは捕まらないようにするよ」


 神捺人は拘束されていた腕をさすりながら軽口を叩くと、肩に刺さった破片を見ると微妙な顔をする。


「うぇ~痛そうだな……」


 そんな様子見守っていたドイツ少女は、神捺人に近付くと肩の破片に手をかけると一気にそれを抜き取る


「痛いよ!?」


「少し位我慢して、男の子でしょ!」


 ドイツ少女は医療キットから抗生物質とガーゼ、消毒薬と包帯を取り出すと慣れた手つきで傷口の処置をしていく、その横顔を見ながら神捺人は戸惑いながらも礼を言う。


「ありがとう、場所が場所だから自分では手当て出来ないと思っていたのに……」


「いいわ、もう戦争は終わったんですもの……この位しても、誰も何も言わないわよ」


 そう言って処置を施していく少女を神捺人は黙って見つめていると、遠くからヘリが飛んでくる音が聞こえて来る事に気付く。


「終わったわ、それにお互い迎えが来たみたいね」


「ああ、そうみたいだ、傷の手当てありがとう」


「気にする事ないわ、それじゃあ、私行くわね」


「ああ、今度はお互い戦場で会わない事を願おう」


「そうね、それじゃね、珂風神捺人少尉」


 ドイツ少女は味方のヘリに向かい歩き出す。神捺人もヘリに向かい歩きだそうとすると、背後からドイツ少女に声をかけられる


「言い忘れてたわ、私の名前はアデーレ・ヒンメル。階級は中尉! アデーレで良いわ」


「うん、ありがとうアデーレ。今度は戦場で会わない事を祈るよ」


 神捺人の返事に初めて笑顔を見せると少女は歩き出す。その後姿を暫く見送ると神捺人も歩きだす。

 互いに進むべく道は反対だが、僅かな心の交流に二人の心は不思議と軽かった。







2257年7月


サウジアラビア北側で行なわれた、企業間戦争はドイツ、ポラール・リヒト社の勝利で戦争が終結


死者、行方不明者、1983名


戦争期間 3ヵ月


後の第一次企業間戦争の始まりとも言われる争いである。

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