表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/31

4 おいしい予感





 パスタを茹でている間、冷蔵庫から卵黄と生クリームとチーズを混ぜて作っておいたカルボナーラソース、それからこの後焼くベーコンを取り出した。


 フライパンを温めて、ベーコンを切って……。う、上手く切れないなあ。結構包丁にくっついちゃうし。フライパンにオリーブオイルを入れて、包丁から剥がしたベーコンを炒めた。ジュージュー言っていい匂いがしてくる。ちょっと私、上手くない?! 実は料理の才能あるのかな。黒胡椒を振りながら、ウキウキした気分で鼻歌を歌う。

 その時、茹で時間を知らせるキッチンタイマーが鳴った。もう4分? どうしよう、ベーコンこのままでいいかな。迷っているうちに多分、5分経ってしまった。

 お鍋のガスを止める。湯切りザルがついているお鍋だから、それを引っ張り出してその場でお湯を切っていると、何だか焦げ臭い。

「あーっ!」

 ベーコンから煙が出てる。片手でフライパンの火を止めると、私の声に驚いた彰一さんが、キッチンに顔を出した。

「どうしたの?」

「大丈夫、何でもない!」

 お願い見ないでー! 慌ててフライパンを隠すようにガス台に背中を向けて、彰一さんに笑顔で言った。

「手伝おうか?」

「ぜ、全然平気だから、遊んでて」

「そう?」

 私に言われた通り、彼はすぐに部屋へ引っ込んだ。彰一さんて、こういうとこいいんだよね。しつこくないというか、からかったりもしないし、あんまり突っ込んで来たりもしない。大人なのかな、やっぱり。


 一先ず麺の入ったザルをシンクに置いて、慌ててベーコンに駆け寄ると、真っ黒ってわけじゃなかった。良かった。焦げ目がついてて香ばしい……で通じるかな。これくらいならいいよね。

 この後、どうするんだっけ? あれ、レシピ本がない。え、え? どこ置いた? 何で見つからないの?! あちこち探すけど、どこにも見当たらない。本当に額から汗が出てきた。


 優菜、落ち着いて。昨日さんざん読んだんだし、思い出してみよう。目の前の少し焦げたベーコンたちを見つめる。

「……」

 ……無理。全然思い出せない。急に頭の中にテレビで何回か見たことある、シェフがパスタを作っている映像が浮かび上がった。確かフライパンの中でソースと茹でた麺を絡めてた。そうだ、テレビで見るたび大体そんな風だったと思う。

 よし、わかった。フライパンのベーコンの中に、さっき冷蔵庫から取り出したカルボナーラのソース、これを入れて、と。

 ガスの火を点ける。ソースが少しずつ、ぐつぐつ言ってきた。ここに麺を絡めよう。ザルから麺を入れようとしたけど、いつの間にか固くなってて上手くフライパンに落ちてくれない。

「あ、あれ?」

 菜箸で麺を移動させ、やっとフライパンに落とす。ジュージュー言ってる中で麺をほぐして絡めてみた。うん、いい感じに絡まってきた。卵黄って生だし、ちゃんと火を通した方がいいんだよね?

 しっかり火を入れた後、パスタをお皿に盛った。

「……」

 ちょっと、本で見たのと違うみたい。お店で食べるのとは……かなり違う。いり卵みたいのが麺にいっぱいくっついてる。ううん、味よ味。見た目はアレだけど味よ。作ったソースを味見した時、美味しかったんだから大丈夫。


 野菜のスープを温めて、サラダを冷蔵庫から出した。あ! レシピ本。嘘、こんなとこにあった。さっきベーコン出した時、ちょっと置こうと思って慌てて冷蔵庫に入れたんだ。意味わかんない……。

 でももういいや。出来たから必要ないもんね。


 ローテーブルにお皿やコップを並べるのを、彰一さんが手伝ってくれた。

 彼はベッドを背にして、私はその斜め前に座って、ローテーブルの上の料理に手を合わせる。彼は興味深そうに、私が作った料理を見つめて言った。

「いただきます」

「どうぞ」


 彰一さんは湯気の出ているカルボナーラを、フォークにくるりと巻いて口に入れた。じっと彼の表情を伺う。

「ど、どうかな」

「うん。美味しいよ」

「あ、良かった」

 何の躊躇いもなく笑って言ってくれた彰一さんの言葉に、心の底から安心して、自分もひとくちパスタを口に入れた。



 え……。


 これ、カルボナーラじゃない。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ