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1 憧れのレシピ本

2009年から連載していたものを転載していきます。




 両手で握り締めている目の前の本の表紙には、かわいい手作り料理が並んでいる。


 タイトルは

『彼と晩ごはんレシピ』

 帯には

『彼と一緒にあなたのお部屋で、すてきごはん』

 って書いてある。


 ふふふ。そう。今夜初めて彼が私の部屋に来るの。今日は11月の三連休の初日。


 22歳にもなって3コ上の彼と、この1ヶ月間すっごく健全なお付き合いだったんだから。この前、初めて彼の部屋に遊びに行ってもキス止まりだったし。だから今度は私の部屋に来てくださいって、言っちゃったんだ。いつも車で送ってくれるのに、絶対に私の部屋には上がらないんだよね。そんなところも大好きなんだけど。

 彼が出来たのも2年ぶり。初カレじゃないけど、でもすごく緊張する。

 大学卒業して就職して、同じ部署にいた先輩。それが彼。もう、本当に素敵で、優しくて、仕事も丁寧で……私にもきちんと教えてくれて……。

 同期の子は皆、全然違う背の高い体育会系の先輩のことがカッコイイって言うけど、いいの。私にとっては彼が一番カッコイイんだから。背もそんなに高くはなくて、小柄だけどいいの。私よりは10cm以上大きいし、がっちり逞しくて分厚い胸板とかより、細身で締まってる人の方がいいんだもん。ま、まだ詳しくは見たことないけど……。顔だって私好みで、見つめられたら倒れそうなんだから。


 初めからいいなって思ってたけど、一緒にランチしたり、お仕事してるうちに大好きになっていって、そしたら……彼が告白してきてくれて。ああ、神様ありがとう!! 私をあの部署に配属してくれて。人事部長にも感謝しなくちゃ。好きじゃないけど、バーコードだけど、タバコくさいけど。


 ……浸ってる場合じゃない。

 実は私、料理は全然出来ないし、掃除もあんまりしないし、……とにかく家事全般が苦手なんだよね。強いて言えば洗濯が好きかな、くらい。

 社会人になって一人暮らしを始めたから、うるさく言う人もいないし、自由が嬉しくて、っていうか自由すぎたかも。夕飯も彼と一緒に外食の日以外は、仲良しの同期とご飯か、お弁当買ってきて済ませてたんだもんね。


 だからこうしてレシピ本なんて買ってしまった。このタイトルに惹かれて。憧れてたんだ、こういうの。彼の為にお料理して、美味しいよなんて言って貰って。ああ、どうしても顔が笑っちゃう。

 メニューは、カルボナーラとスープとサラダ。サラダのドレッシングも手作り。カルボナーラの下ごしらえは終わってるから、後は麺を茹でて絡めるだけ。スープもサラダも出来てる。


 それからコレ。

 雑誌の中にあった、いい女特集。だってやっぱり私、年下だし。今日は彼にいい女だって、余裕のある女だって思ってもらうんだ! 思わず右手をグーにして天井を見上げる。


「あ、いっけない!」

 部屋に下着干したまんまだ。今日は雨が降っちゃって、部屋で乾くかと思ってたけど間に合わなかった。お風呂場に干そうかな。でも、も、もしかしたらシャワー使うかも……だし。あーどうしよう!

 小さめのピンチハンガーを手に持ち、どこに干そうかとウロウロしているとケータイが鳴った。彼からのメールだ。


『もうすぐ着くよ』


 ひいい! もう? 時計を見ると、きちんと約束の時間だった。い、何時の間に……。もうしょうがない。えい、と下着がついたまんまのピンチハンガーをクローゼットに投げ込み、扉を閉めて周りを見回す。


 オイルヒーター点いてる。寒くないよね。よ、よし。新しいクッションカバーよーし。二人で見れそうなDVDよーし。ゲームもよーし。ローテーブルの上、綺麗。靴下とか下に落っこちてないよね? 小さいお花も飾ったし。

 自分、化粧よーし。髪の毛、かなりオーケー。小さいピアスオッケー。ネイルオッケー。手と腕、無駄毛なーし。脚にもなーし。食事作るのに嫌かなと思って、香水はほんの少しだけ。

 上に着たニットは料理の邪魔にならないよう七分袖。シンプルだけど、首の後ろに小さいリボンがさりげなくついてる。ツイードのスカートは、ちょっとふんわりしてて短かすぎないのを選んだ。部屋で穿いててもおかしくない感じの。下着も、何回新しいの買ってんだって言うくらい気合が入ってる。清楚なのなんだけど、いいよね。

 それから……ベ、ベッドもよーし。シーツもカバーも今日取り替えたし。新しくしようかとも思ったけど、張り切ってると思われるのも恥ずかしいからやめた。その代わり柔軟剤多めに入れて洗っておいたやつだから、いい香り。



 その時、ピンポーンとチャイムが鳴った。





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