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DAYS  作者: 水無月燈鈴
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灯理①-④


学校を後にした。今日、友人と帰る約束していたが、なんでも転校生の校内案内を仰せつかってしまったらしい。故に一人で帰宅ということだ。静香にも帰り誘ったのだが、今日は用事があるとのことで先に帰ってしまった。俺寂しい。


 特に俺もすることはないので今日は真っ直ぐ家に帰ることにしましょう。

 ――といったな? あれは嘘だ。


 金銭的に今月は余裕があるので、お気に入りの喫茶店で一杯やってから帰ることにします。喫茶店の名前は【喫茶店ほのか】――娘さんから名前は取ったとのこと。そこの紅茶が絶品で、正直店主が何を話しているのかわからないけれど、何度でも通いたいと思わせるほど素晴らしい店だ。紅茶だけでなく和栗を使った有名パティシエ直伝モンブランと学生にも優しい良心的な値段設定。いったいどこで儲けをだしているのかはてしなく謎だ。


 件の店まで学校から徒歩十分と結構近い距離にある。休みなら兎も角この時間はここの生徒でかなり混み合う。今から行って座れるか分からないけれど、座れることを祈るしかない。失礼かもしれないが、そこまで大きい店でもないので十何人座れば直ぐに満席になってしまう。それだけ小規模の店なのに混雑するのも凄い話しである。


 喫茶店に行くには結構長い下り坂(登校時には凶悪な上り坂)を下っていき、そのまま信号を渡りすぐ右へ。あとは道なりにまっすぐ行けば喫茶店ほのかだ。


 道中。あと数分もしないぐらいで着く距離にて、ガードレールに腰を預けている女性が目に入った。この時間に黒スーツというのは結構目立つ。……誰かを待ってるだろうか、時折コチラを見ながら視線をまた下に戻す。それを数回繰り返したところで――そして女性の前を過ぎようとしたとき、


「――ちょっといいかな?」


 声を掛けられた。女性はガードレールに預けていた腰を上げる。


「はい、なんでしょう?」声を掛けられたからには応じない訳にもいかない。


 俺の方に歩み寄りチェック柄を基調とした名刺を差し出すので、少し警戒しながら女性から名刺を受け取った。


「私、こういう者なのだけれど話し聞かせてもらえない?」


 名刺を見ると、名前は『水川(みずかわ) 白百合(しらゆり)』というらしい。職業はフリーの探偵。見たことも聞いたことも会ったこともないので、こういう名刺は凄く助かる。……というか凄く怪しい。こういう手合いは話しを適当に聞いて流すのが一番良い。そうだ、そうしよう。


 改めて女性を見る。二十代前半か半ばぐらいで艶やかな背ぐらいまで伸ばした髪に、すっきりした顔立ち。印象的にはクールビューティーな女性。仕事が出来そうな感じだ。しかし、そんな女性が俺にいったい何の用だろうか。


「ねえ、君。いきなりなのだけれど、“呪い”って信じる……?」


 ――俺は即座に回れ右をした。

 アカン。これはアカンやつや。少し話し聞こうと思ったけれどこれ駄目だ。オカルトだけは駄目だ。急いで帰ろう!


「やっぱり信じられないよね。なら、君の秘密を少し当てよう」


 家路に付こうとする足を止めた。――秘密?


「確かに、自分も高校生なので人に言えない秘密の一つや二つ持ってますけれど……それが何か?」


「そうだよね」――と彼女は一冊のA4サイズのノートを鞄から取り出した。


「エッチな本をもう読まない漫画の後ろに隠してたり、ご丁寧にラップして保存した漫画の下に隠したりしてるもんね」


「な、なぜそれを!?」


 結にも絶対見付からない自信があったぞ! なぜそれをこの女性が! いや、もしかしたら統計学的ななにかがあるのかもしれない……。


「――一日四回。朝学校行く前と寝る前の二回ずつ。若いからとはいえ……お盛んだわ」


「……OK。話し合いって大事だと僕は思うのです」


 アカンこれは勝てない奴ですわ。というかここまで調べられるということは、も、もしかして……これが噂に聞くストーカーという奴か!


「安心して。ストーカーじゃないから」


「言葉にしていないのに何故!?」


「顔に出てたわ」と彼女は言う。そんなに顔に出てたのか。すこしだけショックです。


「もう、ここまできたら話しを聞きますけれど、いったいその“呪い”とやらがなんだっていうので

す?」


「君の“病気”に関することだよ」


 ――瞬間。俺は即座に戦闘態勢に入った。


「安心して欲しい。私は君に危害を加えることはしないよ。そもそも、女性に手を挙げられないよね――君は」


「――分かりました。俺の負けです」


 両手を挙げて降参のアピール。どうやって俺の“病気”について知ったかは知らないが、聞くだけでも価値はあるかもしれない。……依然と怪しいことには変わりないが、やはり、俺の病気が治るというのであれば是非も無しに。


「素直に聞いてくれて助かったわ。いくら護身術習っている私でも君には勝てそうにないもの」


 微笑む彼女に少し見とれながら、「すぐそこの喫茶店に行きましょう。お金は私が出すわ」と今日の行き先を指定してくださいました。――ごちそうになります!





「――で、どういうことなんです?」


「ん?」店主オリジナルのブレンド茶葉で容れた紅茶をスプーンで優しく混ぜながら一口付ける。ことり、とお皿に置いてから彼女は口を開いた。


「君の“病気”は普通じゃないわ。それは自分自身でもよく分かってるとは思うけれど」


 あたりまえだ。これが発症してから俺は治す方法を探してきたが見付からない。自分の意志を曲げて親に相談して治そうともした。けれども、それだけは出来ないし、しちゃいけない。なによりも俺がそう自分自身に誓ったのだ――出来るわけがない。結局治せぬままこの年になってしまったが。


「病気ではないなら何か……それは……」


「それは……?」固唾をごくりと飲み込む。


「――呪いだ!」


 芸人よろしくずっこけた。


「散々引っ張ってそれか!」


「ええそうよ。真面目な話しそれ以外分からないのよ」


「胡散臭いにもほどがあるわ!」


 思わず敬語が飛んでしまった。いけない、しっかりしないと。


「すいません。興奮し過ぎました」


「別に構わないわ。続きなのだけれど、どうして私が君に近づいたのかを話さないといけないのよね」


「ええ、それを言って頂かないと分かりません」


「――頼まれたのよ」


 ……頼まれた? 誰に? 俺はこの事を誰にも言っていない。結にも両親にも親友達にも…‥本当に誰にも言っていないのだ。だから誰かに頼まれるというこはまずあり得ない。と、すると……俺の病気が誰かに悟られて依頼したのか……? いや、それもないだろう。もしバレていたら結にも両親にもそれが回っている筈だ。なら、いったい誰が……?


「とある男性に。名前は分らない。君もたぶん知っているはず」


「俺が……、知っている……?」


「これを見て」と彼女は自分のカバンからかなり古びた一冊のノートを取り出した。どこにでもあるA4サイズで黄ばんでいるが、もともとは水色だったと伺える。俺はそれを受け取り、一ページ目を開ける。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


   はじめに


 これを見た君は嘘だと思うだろうけれど、実際にこれから君が遭うことだ。その呪いを解く鍵になっているのは七人の少女。

 彼女達の“呪い”を解く事が君の“呪い”から解放される唯一の方法だ。その為にこのノートに少女達と起きた出来事を書いていく必要がある。全て書き終えたとき君は呪いから解放されているだろう。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ……なんだ、これは。どういうことなんだ。


 次のページを捲った。個条書きで幾つか書かれている。その中にはさすがにこれを本物と断定するわけにはいかない。質の悪い悪戯だということの方がまだ信憑性ある。ただ、どうしてもこの文字の書き方が気になってしまう。まるで俺がこれを書いたかのようなそんな……。


 ……そんな訳が無いか。似たような文字を書く人なんてごまんと居るわけだし、そうと勘違いしているだけだろう。じゃなければ、これはあり得ない。俺はこんなこと書くわけ無いというか書いた憶えもない。


「……分かりました。普通ならこんなこと信じないのですが、貴方が嘘を言っているようにもみえないので、一先ず信じます」


「そう――ありがとう」と続いて。


「君ならそう言ってくれると信じていたわ」


 微笑む彼女。


「――これからの事なのだけれど、呪いに関する事で連絡を取ろうと思うの。連絡先を教えてもらってもいいかしら」


 鞄の中からスライド式の携帯を取りだして俺に差し出してきた。……え?


「ごめなさい。私こういうの苦手なの。なんとかメールと電話は使えるようになったけれど、まだ連絡帳やらなんやらの機能が使えないのよ」


 驚いた。まさか、このご時世そのようなオールドタイプの人間がいようものとは。


「いえ、誰にでも苦手なこともありますしそれに――」


 と、携帯をスライドさせて待ち受け画面を見た俺は吹き出した。

 ――なんとそこにはギリギリまで布地面積を小さくした服に包まれている水川さんの姿があった。最早服を着ているというのか付けているという表現が正しいのか分からなくなる。そして、使えない筈の何やらの機能を幾分になく使われた自撮りである。ご丁寧に大切な所を見えないように計算尽くされた角度から撮られているから余計にイヤらしく、男の(さが)を直撃させる。正直欲しいこの画像……っ! 待ち受けに出来ないからせめて画像だけでも……っ!


「……ッハ!?」


 まずい、これは。ストーカーでは無いと言っていたが、この人はもしかして、いや、もしかしなくても……。


「――変態なのでは?」


「声に出てるわよ」


 声に出ていたらしい。可笑しいな。口の堅さで俺の右に出る者は居ないと思っていたが。それは俺の思い違いだったようです。





 ――少しの時間が経ち、アドレス交換も終わり(彼女は普通にスマホを使えたし、名前も百合さんと呼ぶように強制された)ぽろぽろとお客さんも帰り始めた頃、百合さんが紅茶のお代わりをマスターに注文していた。


「そうだ、もう一度さっきのノートを広げてみて」


 言われた俺は端に置いたノートを目の前に持ってきて適当なページを開いた。丁度個条書きで書かれているページだ。それを見た彼女は個条書きで書いてある部分に指をさして、


「これ、年号と出来事が書いてあるでしょ? これから必ず君が体験することだから、殆ど信じていないだろうけれど後悔しないためにも必ず目を通しておいて」――ことりと口に付けていたティーカップを置いた。


 目で指先を追う。確かに年号が書いてある。その下に出来事も……詳細が書いてあったが、要約すると、20XX年6月に灯理が事故に遭うと――


「……そう、ですね。彼女は自分の大切な友人なので気にとめておきますよ」


「ええ、お願いね」と続いて小声で、「一度助けたのに死なれてしまうのは寂しいわ」

 ――どういう意味なのか確認しようと、声かけようとしたら百合さんは立ち上がり、席に置いてある伝票を持って、


「これは約束通り私が持つわ。それをしっかりと確認するのも良いし、ケーキを食べても良いから今日は先に帰るね」


 レジへと向かってしまった。ご丁寧にお代わり代の千円も置いて。


「――ま、まっ……あ、マジか。行っちゃった……」


 とりあえず、行ってしまったのはしょうがない。有り難く頂きましょう。ごちそうさまです。





 《過去2 五年前・大火災(事件発生時)》




 燃える。燃える。燃える。


 辺り一面灼熱の地獄と化しながら燃え続けている。紅蓮の世界。鉄筋コンクリートだった壁は煤で黒くなり、ぬいぐるみや服など商品は跡形無く燃えた。助けを呼ぶ声も、逃げ惑う声も誘導する店員さんの声も足跡もなにもかも少し前は聞こえていたもの全て聞こえなくなった。


 ――いったい何を間違えたのだろう。


 今日は友達二人と私の三人で最近出来たデパートに遊びに来ていた。午前から来て、洋服、小説や漫画、CDショップ、昼食と一息を入れ最後にぬいぐるみを見てから家に帰るつもりだった。だけど、今の現状は何? これは夢?


 そう思いたい気持ちだった。


 この気持ちは私だけではないだろう。私の側にいる友達たちも同じ気持ちだと思う。

 ここから脱出しようにも黒煙によって視界が悪く、前に進めない。今のところ空気は吸えているが、いつ吸えなくなるのか分からない。何処が分からないがところどころ爆発音も聞こえている。――そう長くは持たない。この大型デパートも。


「どうするの?」


「ここから逃げるしかないわね。でも、脱出経路なんて調べてないわよ」


「大丈夫です。一応確認しておきましたから」


 自分もそうだが、私の友達の冷静さに驚愕している。このような大惨事が起きているのに喚いたりせずに現状状況を把握し、どうにか動こうと頭を働かせていた。普通の人なら錯乱しても可笑しくない状況なのに。私は全てを通り越して逆に冷静になってしまっているので、もしかしたら彼女たちも同じような状態なのだろう。


 持っていたハンカチを口に当てて、なるべく下を通り煙を吸わないようにする。ホントなら大きめのビニールがあれば良いのだろうけれど、あたりにはそんな贅沢なものはない。


「店員さんが居てくれれば良いのだけれど、この状況じゃあ、ね」


 お店の出入り口に大きなコンクリートの塊。脱出経路は潰されている。他に出口は無いか辺りを探しても煙が酷くてまともに見えない。


 不意に見えた。瓦礫のある隣に一人入れる大きさの穴がある。いつこの穴がつぶれてしまうのかも分からない。彼女たちにハンドシグナルで場所を示す。頷き、近づく。先ずは見つけ出した私が先に覗いて危険は無いか調べる。


 コチラは火がまだそこまで深刻ではないのかすこし明るい。身を引っ込め、彼女たちを先に通らせた。二人が通り過ぎたのを確認した。私は何歩か後ろに下がる。


 ――予感があったのだ。ここを通れるのは二人だけであると。私が通れば二人の内どちらかがここを通ることが出来ない。それだけはダメだ。彼女たちは私の親友なのだ。どちらが欠けては私の心に大きな溝が出来てしまう。そんなものは認められない。ならば、私がこの場に残る……それが最善の選択なのだから。


「さあ、早くここを潜って! じゃないと……っ!」


 と、彼女の言葉が紡がれる前に壁は崩れ落ちた。轟音とともに、砂塵とともに。


「―――――――――――――――ッ!!」


 声が聞こえる。泣き叫ぶ声だ。彼女たちは無事なのだろうか――否、無事であろう。その甲斐があったというのもだ。粉塵の影響なのかそれとも崩れた衝撃で破片が目にあったたのか定かではないが、私の命を犠牲にして彼女たちを助けられる事が出来たのなら。



 ……だから、せめてどうか無事で。




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