Phase 01: 新入生(ニューフェイス)
お待たせしました、第一話です。
一人の青年が変わった形のスケートボードを持って校門の前に着いた。前髪で右目を隠している。
「ここか・・・」
『おい、総一。何でワザワザ俺達が学校何ざ行かなきゃならないんだ?』
『そうだよ、面倒臭いじゃん!』
『文句・・・・言うな・・・・』
青年の頭の中で三つの声が順に響いた。それはどれも彼であり、『彼』では無い。
『ミカド、シュン、コウイチ、良いか、俺だって嫌なんだよ。あの組織が設立された以上、従うしか無い。メリットはある。こっちだってバックレる訳にも行かないからな。』
『会話』を早々に切り上げると、教室に向かった。制服はこれと言ってこの学校には無いが、『職業』柄、カジュアルでセミフォーマルな服を着ている。革靴に真っ黒なジーンズ、麻で出来た薄いグレーのカッターシャツ、その上にはブレザー。模範服として地味な色の制服を着ている大多数の生徒の中でこれはかなり目立つ。だが本人は全く気にせずに安定したブレない足取りで教室の前で待たされた。その様子はまるで面倒な会議に出る事を余儀無くされた重役その物だ。入る様に合図されると、教室は水を打った様にしんと静まり返った。
「志貴総一だ。今日からここに入学する事になったから、まあよろしく。(こう言うのは適当で良いか。アレが現れれば直ぐにパニクる平和ボケしてる様な奴らだ。)」
空いてる席は幾つかあったので、窓側にある唯一の席に座った。一限目は質問等の受け答えがあったので総一は余計に体力を消耗した。だがそれを悟られない様に、自前の魔法瓶に入ったアイスカフェオレを一杯飲み干した。砂糖はかなり入っている為常人が飲めば胸焼けを起こすであろう物を平然と飲んだ。エネルギーを充填し、思考がクリアーになる。
『ウェ〜・・・またそれ飲んだぁ〜〜!!』
『何度も辞めろっつってんのに・・・!』
『胸焼けが・・・・酷くなる・・・』
「と言っても、俺が甘党なのは今になって始まった事じゃない。」
すると、携帯の着信音の様な音がポケットから発された。取り出したのは耳に付けるブルートゥースの様な物で、それをトンと指で押すと、折り畳まれたレンズが左目の前に展開した。
「はい。どうした?」
『定期連絡よ。初日はどう?』
総一の耳に飛び込んで来たのは若い女性の声だった。
「最悪。こんな所にはあまりいたくないな。息が詰まる。」
『またまたそんな事言っちゃってー。』
「珠理、いい加減にしろ。冗談を言う奴は俺の中にも少なくとも二人いる。その二人で十分だ。兎に角、俺は特に問題は無い、以上。もう切るぞ。」
一方的に通信を切り、腕組みをすると目を閉じた。少しでも休息を得る為に。
「さてと・・・・」
ミリタリーファッションの様な白いフード付きの薄いジャンパーを着た人物がポケットから巨大な鍵束を取り出した。その内二本の鍵は既存の鍵とは全く異なる形している。一つは黒曜石の様な光沢を放ち、鍵のブレード部分に付いている歯がセレーションの様に返しが幾つも付いている。もう一つは断面が十字架になって四方のブレードに歯が並んでいる白い鍵だ。どちらも十センチ以上はある為、掌からはみ出てしまう。
「おっ。良さそうなのがいた。」
その人物は、ゴミ捨て場に倒れていた中年のサラリーマンを見つけた。吐瀉物と酒の匂いで鼻がひん曲がったが、我慢してその鍵を男の胸に差し込んだ。まるで始めからそこに入るかのように。当然血は出なかったが、代わりに鍵は男の中に吸い込まれて行った。
「さて、どんな絶望が生まれ落ちるかな?見せて貰うよ。」
男は薄い不気味な笑みを浮かべてコートの裾を翻すと、姿はまるで始めからいなかった様に掻き消えた。
「はー・・・・ようやく終わった。単純で退屈な内容だったな。」
総一は学校を終えて机に突っ伏していた。昼休みも授業の合間にある時間にも引っ切り無しに質問の嵐を食らっていたので無理も無いだろう。おまけに同好会やら部活に入ってくれとせがまれているのでほぼノイローゼだ。それを忘れさせないかの様に右の側頭部が鈍痛に襲われている。
(いっその事コウイチに任せた方が良かったか?これは・・・・)
すると再び着信音。
「珠理、アレが出たか?」
『うん。いるよ。総一がいる所から少し離れた所にいる。エリアA-2、ポイント960。まだ分離はしてないからどうにも出来ないけど・・・・』
「見つかっただけマシだ。今から行く。」
総一は通信機をポケットに押し込み、リュックを背負って校門を出ようとした所で行く手を阻まれた。相手は複数、恐らく自分より年上だろうが、障害にすらなりはしない。
「何の用だ。(こいつらここの非行グループか・・・随分と墓の手前で生きてる様な阿呆ばかりだな。)出来るだけ簡潔にして欲しい。用事があるんだ。」
「俺ら君にちょっと用があってね。ゲーセンに行く為の金、ねーんだわ。」
その内の一人が進み出て。わざとらしくそう言った。明らかに自分は格上だとアピールしようとしているが、寧ろ総一『達』には逆効果だったが。
『コイツ只の阿呆だな。』
『バーカバーカ!!鶏の出来損ない!』
『・・・・・一遍殺されて来い。』
ミカド、シュン、コウイチも罵倒を浴びせた。
「だから何だ?俺には関係無い。そもそも初対面の相手に物乞いとは随分と変わった事をするな。お前らの財政はそこまで逼迫しているのか、浪費家共?それで俺を恫喝出来ていると思うなら大間違いだぞ。範疇にすら入っていない。暴力に物を言わせて事を解決しようとするなら、当然同じ暴力で対抗されて最後潰されてしまっても文句は言わないだろうな?」
「こいつ・・・・チョーシ乗りやがって・・・」
「用がそれだけなら俺は行く。」
総一はいつの間にか壁を作っていた数人の背後に立っていた。ボードを外すと人込みをスイスイと避けながら先に進んで行く。
「何だったんだ・・・あいつ?」
「てかどうやって後ろに・・・!?」
「珠理、ポイント到達。」
『遅い。』
「うるさい。邪魔が入ったんだよ。初日で問題は起こしたくないから出来るだけ穏便に済ませた。奴はどこにいる?もう分離したか?」
『ええ、もう分離したわ。ブレイクする以外に手は無い。』
「その方が俺にとって簡単だ。」
右腕の袖を捲り、前腕部に付いている機械が露わになった。篭手の様に見えなくもないゴツい物で、それに付いているボタンを押した。すると、突然粒子の様な物が総一の腹部に現れ、メカニックなベルトが腰に現れた。右の拳を左手に打ち付け、
「フェイズコマンド。」
『PHAZE COMMAND, START UP』
機械から発せられた低いくぐもった電子音声が響き、その機械を左腰のスロットに差し込んだ。
『PHAZE ON』
すると、総一の目の前に虚像の壁が現れ、それに左腕を通すと虚像が割れた。破片が体中に纏わり付き、現れたのは、仮面と奇怪なスーツに身を包んだ不思議な姿をした人物だった。
メタリックグレーの飾り気の無いシンプルな装甲、それの表面を走る血管の様な黄色いライン、顔の殆どを占める昆虫の様なロイヤルブルーの複眼、細かい歯の様なクラッシャー、側頭部にある機械的な上下二連のセンサー。全体的に細いフォルムは、スマートさを強調している。
「さて、行くか。」
エコーのかかった声で首を軽く回し、ボードを地面に置くと、それは数センチ中に浮かんだ。それに飛び乗ると、ボードの面積が広がり、スピードも上がった。
「珠理、どこだ?」
『貴方の進行方向五十メートルにデスペアがいるわ。デスパレートも約十五体。早くしないと、後々面倒よ。』
「言わずもがなだ。見えた。」
総一が見たのは、一言で言ってしまえば特撮で見る様な怪人だった。見た目はイノシシと人間を合成させた様な物だ。実際に見なければその恐怖は伝わらないだろう。現に人が『ソレ』によって殺され、逃げ惑っているのだから。それを取り巻くのは、体中に鍵穴の様なデザインを持つ兵隊らしき物。ボードで突進し、衝突する直前でボードから飛び降りた。ボードはその怪人を吹き飛ばし、壁に激突させた。
「挨拶は抜きだ。さっさと終わらせてやる。来いよ、雑魚共。フェイズディバイダー!」
『PHAZE DIVIDER, READY』
左腕を覆う楕円形の楯に収納されたグリップを引き抜くと、一メートル近くの刃渡りを持つメカニカルな剣を引っ張り出した。次々に襲いかかるデスパレード十五体は、いとも簡単に斬り伏せられた。
「さて、次はあのイノシシ野郎か。時間もないしさっさと決めるか。フェイズアロー!」
『PHAZE ARROW, READY』
フェイズディバイダーを楯の中に収納すると、今度は両側面から弓の様な緩やかなカーブを描くパーツが二つ飛び出した。
「フェイズブレイク。」
『PHAZE FINAL BREAK』
収縮された三叉状の黄色いエネルギーの矢が放たれ、デスペアを貫いた。
「ブオオオオオオオ!」
デスペアは砂の様に崩れ去り、その中にあった鍵を握り潰した。
「リバース・キー破壊確認。状況終了だ。」
『お疲れ様。』
「フェイズアウト。」
『PHAZE OUT』
左腰の機械を取り外して再び右腕に取り付けると、再びあの虚像の壁の破片が体からはがれ落ちるエフェクトと共に総一の姿に戻った。
「残りは回収班に任せるとするか。」
グダグダとは存じますが、ご了承下さい。早速ですが、名称の由来を説明したいと思います。
デスペア:英語で絶望を意味します。この二つをデス(死)とペア(二つで一つ)に分ける事も出来ます。
デスパレート:英語で必死と言う意味です。パレートはパレードをもじり、大人数を意味します。また、セパレートも『隔離』を意味するので、人間の陰と陽の分離を意味します。
フェイズ:顔をもじり、英語でphase (フェイズ)面、様相を意味します。総一の多重人格と言う特異体質を強調します。
ヤヌス:神話に登場する二つの顔を持つ神。本作の二面性の意味を引き立てます。選択、入り口と出口、始まりと終わりも象徴します。
と言う感じです、如何でしょうか?
感想、質問、報告、その他、お待ちしております。