最終話
死亡認定を受けた誠二の死体がワラブキの地下への緊急降下エレベーターで運ばれて行く。
「……生体反応はあります。転用処理が早かったのは行幸ですね。脳組織に若干の障害は残るでしょうが、耐用には問題は無いかと」
「だとすると、問題は本人の意志の問題か。セッション五六から五八までは全部、被験者の拒絶反応でコネクトが遮断されましたからね」
「……可哀想だが、彼ならやるさ」
「この事態です。やってもらわないと、皆、死にます」
再び混濁した意識の中で明瞭に響く声が聞こえた。
鈍く輝く闇の中で、その声を思い出そうと記憶を手繰る。
「……高藤誠二君だったね。私だよ。神林だ」
カンバヤシ。
のぞみと常に一緒に居た技術者だ。それだけを思い出す。
「のぞみは悲しんでるよ。これ以上なく」
やはり、か。
ため息をつく喉はもう、無い。
「だけど、我々には悲しむ時間もなく、生きることを手放すこともできない。だから、のぞみを再び棺桶に乗せる」
のぞみはまた、何かを失うのだろうか。
「のぞみの足を断ち、目を潰し、腕を切り、腹を裂き、その上で今度は命を奪う」
やりきれない思いがした。
「棺桶という分厚く冷たい鉄の中で、その体を侵され、躙られ、激しい苦痛の中で死ぬ」
何もできない自分が悲しかった。
「もし、君が彼女の為に何かをしたいと思うなら……」
喉が、震えた。
「人として、死んでくれ」
「はい」
総力防衛に一区切りがついた。
腹を裂き、肺を抉られ、そうしてのぞみは幾ばくかの時を得た。
だが、誠二は戻ってこなかった。
死亡通知書。
何も教えてくれず、何も伝えられず、現実だけを伝える紙を残す。
「ちゃんかちゃちゃんかちゃちゃんかちゃん……手拍子あわせて……ちゃちゃんかちゃん」
生きることが嫌になる。
失って、理解できることもある。
誠二はずっとこの深い深い憎しみを引きずっていたのだ。
尊い人を亡くす痛みは胸を裂き、胸から流れる血を止める術は無い。
血が流れきると人は死に、骸が残る。
生の残滓を強く訴える死臭は排泄すべき澱の強い臭いを先に、渦を巻く。
流されて消えるには長い時間が必要だが、それを求める暇も無い。
「……神崎のぞみに軍名でもって告ぐ。明朝〇八〇〇、『棺桶』にて再出撃せよ」
神田彰は沈むのぞみにそう告げた。
「なお、本作戦に生還はない。特例でもって遺書を残すなら便箋と封筒を支給する」
恨めしくて、笑えた。
「……いまさら、誰に別れを告げるんですか」
夕日にゆらめく幽鬼は癒えぬ傷を涙で訴えた。
だが、彰は厳しくも告げた。
「生きたことを残せ」
静かなものだった。
ワラブキの維持能力に決定的な打撃を与えた侵攻を防いだ後、ワラブキを取り囲むように神源地が出現した。
その数、百八。
整然と並び、ワラブキを取り囲むように神は地に腰を下ろす。
人は神の気まぐれに幾ばくかの時を与えられた。
ワラブキを捨て、逃亡することを決めるのにそう、時間はかからなかった。
今の環境で生きることができなければ別の環境へ移り、変わる。
生物が生物として繰り返してきたことを行う。
そして、人は僅かな時間、ワラブキを惜しんだ。
誰かがワラブキの頂上に火を焚いた。
その火の回りに集い、飯を食う。
酌み交わした酒に酔い、歌を歌う。
別れを惜しみ、肩を抱き合う。
去った者を悼み、涙を流す。
愛を語り、友情を改め、絶望に暮れ、悲哀に涙し、明日を望み、笑う。
多くの神々が鎮座する中、人は僅かな時間を生きる。
そして、人は鉄を手にし最後の戦いを挑むことを決める。
夜が最も深くなる頃、神が腰を上げた。
咆哮が空を歪め、雲が散る。
満天の星の中、煌々と輝く月が冷たく柔らかな光を放つ。
月は空を駆ける神の影に陰るまで、地を照らし、そして、空はその姿を閉じる。
踏み出した足は砂塵を巻き起こし、巻き上がった砂塵は竜巻となる。
空まで伸びた竜巻は山を砕き、地を穿つ。
吹きすさぶ風の中、人は神々に鉄を向けた。
「『御輿』を出す」
それを形容するなら『戦車』が最も近い。
次に近いのは『列車』だろうか。
無限軌条で車輪を包み、後部に何本ものロケットエンジンを積載している。
鋭角に尖った装甲の先には衝角が突き出ており、胴体の中程から一二〇ミリの砲身が伸び出している。
機関砲が機体の左右に計六門、機体の上部にはミサイルの発射管が八門。
外見からは用途不明のボックス部がいくつも点在している。
「化け物みたいな『棺桶』だな」
「『御輿』だよ。圧倒的物量に対抗するにはそれを圧倒できるだけの個力。遙か昔にそういうコンセプトで開発された戦車だ……だが、それでもあの圧倒的な物量を覆すのは無理だろう」
彰と神林は歪なまでに凶暴なシルエットを見上げながら目を細めた。
「……あかりのときに御輿が完成していれば、あるいは……」
「かわらんよ。一年先になるのが三年先になるだけだ。それが今か昔になる違いしかない。私は娘を失う」
上部で開放されている装甲板に、『産屋』が納められていく。
「……管制システムはどうにかなったのか?」
「さぁな。私も、正直、わからない」
「わからないって……どうすんだよ」
「……どちらにしろ、後が無いんだ。実戦で試す他にどうできる?」
神林は自嘲するように呟いた。
「これだけの物量を自動で飛ばすには複雑な姿勢制御が必要になる。ハードはクリアしても、ソフトがどうにもな。演算を人力で組むには相当の時間と労力が必要だ。残念だが、それは叶わなかった。だが、一つ、可能性が無かった訳ではなかった」
「……人間の脳髄をソフトとした随感管制機構だな」
「ああ。当初は培養過程にある第八期を候補としたが、人間の姿勢制御は産まれてからの経験則で得ていくもので、演算空間でいくらそれを随感管制に教えたところで習得はできなかった」
「……次に、生きた人間の脳髄を移植したんだろう?」
「ああ。だが、これもだめだった。拒絶反応が激しすぎる。人の器から鉄の塊に体を変えることにどの随感も拒否し、自ら死を選択した。中にはこちらに銃砲を向けた者も居る」
禍々しいシルエットがライトの中で拘束索をかけられていく。
ロケットの連結が終了し、カバーが外されてゆく。
「人は、結局のところ、人なんだよなぁ」
神林は棺桶の傍らで俯くのぞみを見上げてそう独りごちた。
「……あかりも、のぞみも、ひかりもいなくなってしまう。それでも、我々は生き続けるのだろうな」
彰は星の瞬く空を見上げて、呟いた。
「……いっそ、死ねばよかったのに」
のぞみは棺桶の僅かな採光窓からの空を見上げる。
星の瞬きを数えるのもこれが最後。
せめて、誠二の遺体に手をあわせてくればよかった。
ワラブキが無くなればそれすら無為なことであるのに、そうしたいと思うのは何故だろう。
彰たちは御輿が担ぎだされる姿を機銃を肩にしながら眺めていた。
ワラブキを後にするトラックの列を遠くに眺め、軍部は地上に集結する。
御輿を中心に、ヘリがローターを回し、戦車がエンジンを唸らせる。
動く車両は全て集結し、機銃を抱えた歩兵の搭乗を待つ。
歩兵は機銃を下げ、整然と列を成し、そして、号令が響いた。
「敬礼」
兵隊ならまず最初に覚えさせられる、敬意を表す意思のあらわれ。
遠く走り去るトラックがライトを明滅させる。
誰しもが、朝焼けを追いかける人たちに腕を上げていた。
地平線は姿をゆらめかせ、徐々に迫ってくる。
煌々と赤い瞳を輝かせ、飢えた目で人を見つめていた。
スピーカーがざりざりと音を立て、空気を震わせる。
「これより『神風作戦』を開始する」
風が吹いた。
「本作戦はワラブキ避難民の第二四予備ケイヴまでの避難を最優先とし、複数型神源標的『八百万型』の殲滅、敵勢力の掃討をもって完了する」
人としての言葉が流れる。
「生きてゆく人々の前に道を拓け。死しても意思は繋がる。人としての尊厳を取り戻せ。退路は無い。戦って戦って、そして、死ね」
朝日すら届かぬ中、戦いの火蓋は切って落とされた。
景色が歪む。
震える空気が鈍色の輝きを放ち、咆哮がうねる。
人の炎が迸り、闇を払うが闇は炎を飲み込み人を喰らう。
鋼が爆ぜ、それでも闇の中に道を拓く。
「旋風四、五、神風」
「神風了解」
「殲嵐三、六、七神風」
「神風了解」
「牛炎、神風を送る」
「了解」
地上から炎が伸び、連なる神を焼き払う。
ローターが空を切り裂き、核を積載したヘリが編隊を組み神の群れに切り込む。
「万歳」
大きな花が空に広がる。
津波のように押し寄せる神の中に、細い道ができた。
その道に次々とヘリが飛び込む。
「閃光一、二、四、神風」
「激雲三、八、九、神風」
夜の空に核の花畑が広がる。
採光窓から見るその景色に、のぞみは息を漏らした。
人が、死んでゆく。
「『御輿』始動。発進まで六十」
御輿のロケットエンジンが静かに唸り始める。
「牛炎、山鯨、岩鷲、御輿の走行線上に大型標的出現、効力射」
「了解」
開いた傷口を塞ごうとする神々に迫撃砲の炎が伸びる。
ゆらりと崩れる影に容赦なく弾丸の雨が降った。
地面が破れ、蛇が現れて戦車を食い破る。
八つの頭を持つ蛇が御輿の下から現れ、炎を吐いた。
「大蛇型標的出現。御輿の護衛を最優先とする」
歩兵の持つ迫撃砲が大蛇の頭で爆ぜる。
大蛇の首が伸び、歩兵を食いちぎり、胴が御輿の衝角を絡め取る。
分厚い鱗の上で機関銃の弾丸が弾ける。
御輿のロケットの炎が勢いを増す。
「発進まで三十。進路、確保せよ」
大蛇の牙が御輿に深く、突き刺さる。
歩兵の何人かが機械鋸を手に大蛇の体に手をかけた。
暴れる大蛇に跨り、体に機械鋸を突き立てる。
飛び散る鱗の破片が体に突き刺さり、頬を破るがそれでも深く、深く刃を突き立てる。
大きく身をうねらせる大蛇により、御輿の装甲に挟まれ潰され落ちてゆく人を踏み越え、爆薬を抱えた兵士が登る。
僅かに開いた大蛇の傷口に爆薬をねじ込み、爆薬が振り落とされないように抱え込み、爆散する。
ちぎれた四肢が装甲の上で跳ね、めくれあがったコンクリの上に落ちた。
その上からずるりと力を無くした大蛇の頭が遅れてやってきて、肉片を潰す。
「拘束索、緊張一杯!ぎりぎりまで溜め……ひぎぁっ!」
御輿を拘束する鋼線を守衛していた兵士がわき出た百足型標的に腹を食い破られる。
「あと二十」
百足が拘束索を食い破り、御輿が僅かに傾ぐ。
他の拘束索にも同じように神が取りつき一斉に食い破ろうと試み、銃弾でこそぎ落とされる。
標的を銃を放つ人へと変えた神により、御輿の側で悲鳴と鮮血が弾けた。
死ぬとわかっていてそれでも戦うしかない人に何故だか悲しみを覚える。
狭い鉄棺の中でのぞみは声を殺して泣いていた。
「あと十、九、八……」
鎌首をもたげた大蛇型標的が御輿の前に立つ。
御輿の進路を確保しようと兵士が機銃を大蛇に向けて引き金を絞る。
「七、六、五……」
傷ついた拘束索がロケットの推力に耐えきれず、断線を始める。
武器の無い兵士は拘束索を抱え、引っ張る。
「四、三……」
御輿を抑えつけていた鉤が外された。
「……発進、よいやっさ」
無限軌条がコンクリを削る甲高い音が響き、ロケットが爆発した。
大蛇型標的の前に立つ兵士を轢き、肉片に代え、拘束索を振り回す。
拘束索を抱えていた兵士は宙を舞い、コンクリに叩きつけられる。
進路に立つ大蛇型標的を鋭利な衝角が貫き、胴体を貫く。
無限軌条が引き裂いた大蛇の体の上を蹂躙し、巨大な体躯を跳ねさせた。
宙を舞う御輿に神が群がり、御輿の機銃が一斉に吠えた。
大口径の機関銃が神をなぎ払い、衝角が貫き、装甲で潰す。
進路に立つ神を相手にする兵士ごと無限軌条は踏みつぶし、御輿が走った。
神風で切り開いた神の切れ目に躊躇なく飛び込み、御輿は神を登る。
神がようやくその切れ目を閉じようと群がるが、御輿の巨大砲身が火を噴いた。
撃ち出された弾丸が巻き起こす衝撃が神を巻き込み、交戦中のヘリの細いローターをへし折る。
一拍遅れて爆散するヘリの炎を破り、御輿は神の嵐の中を飛翔していた。
「……生きて、死んでこい」
神の群れを貫いていく御輿を見上げ、彰は目を細めた。
御輿の衝角が大型標的を次々と断ち切ってゆく。
大気の壁を破り、巻き上がる旋風が追いすがる。
人の放った黒金の矢となった御輿が、立ち塞がる神を貫いて進む。
切り離された燃料タンクが空中で爆散し、火花が飛行標的を飲み込む。
機銃はひっきりなしに弾丸を吐き出し続け、神の波を掘る。
主砲が火を放ち、放たれた弾丸が神々を貫いて道を造る。
無限軌条が神々の波を踏みしめ、ロケットが後ろから後押しする。
広がる炎は黒煙を纏う翼のように広がり、御輿を前へ前へと進める。
激しい振動が襲う中、のぞみは棺桶の中で泣いていた。
最新式の棺桶は内部にモニターが備え付けられていた。
モニターにはひっきりなしに文字が流れ、何を訴えているのかわからない。
のぞみにとってはそれは全て外の世界の出来事で、自分にとっては最早、どうでもいいことだった。
「……何のために、生きるんでしょうね」
ゆかりが最後に呟いた言葉が深く、深く胸の奥を抉る。
滲み出た黒い澱は静かに広がり、素早く染みてゆく。
神崎ゆかりをはじめて理解し、そして、それでも生きようとする人間を恨んだ。
何かを訴えるように明滅するモニターに消えてはうかんでゆく文字。
英語と呼ばれる言語はつい、先日、『ラウンド』が消滅した際に使う人種は居なくなった。
それは、僅かな生き残りであったヘンドリック・ウォルパーが随感管制に使用したものだった。
のぞみ自身、簡単なフレーズくらいは理解できるが、今はそんなことどうでもよかった。
モニターの下にある内部観測カメラの絞りが音を立てて絞られる。
「……誠二さん」
俯き、モニターに頭を預ける。
御輿の放つ砲声がどこか遠くの世界の叫び声のように聞こえる。
「……憎いです」
ぽつりと、澱が零れた。
「憎い、憎い、憎い……」
歪んだ双眸が磨き上げられたカメラのレンズに映る。
「あなたを奪った、全部が、憎いよぉお……」
最も、原始的な欲求をのぞみは吐き出していた。
「憎い、憎い、憎い、憎い……憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い」
あふれ出した憎悪に身を任せてしまうのが、こんなに心地良いものだとのぞみは知らなかった。
「死んでしまえぇぇぇっ……」
抜け殻になった、のぞみの中に残っていたのは憎悪だけだった。
だが、それでも、生きていける。
ろくな止血をする暇の無かったのぞみの体から零れた血が零れてゆく。
必死に何かを訴えかけるモニターに死ねと描いたのぞみは目を見開いてしまった。
『I WILL CRY BY SEZI』
こびりついた赤い死ねの字下で、明滅を繰り返す白い文字が初めて、意思を見せた。
何のことであるか理解できなかった。
いや、理解するのが一瞬だけ遅れたのだ。
「……せいじ、さん?」
そう呟き、確信する。
のぞみの中の蓋が弾けた。
はらはらと、頬を伝って涙が零れる。
「ああ……」
外では鉄の砲身が啼いていた。
モーターを激しく震わせ、弾丸を吐き出し、神を砕く。
棺桶に伸びる神の顎を傾いで庇い、無限軌条がはじけ飛ぶ。
鉄の棺桶を載せた御輿はその全貌を神の血で染めながら、槍をかざし、啼いていた。
「誠二さんっ!せいじさんっ!せいじさんっ!ああっ……ひぐっ、あああっ!ああああああああああっ!」
冷たく鈍色に輝く鉄の棺桶は神の振るう暴力に身を削り、走る。
穿たれた装甲板がめりめりと剥がれ、中があらわになる。
用途不明のボックスの装甲版が弾け飛び、中から凶悪なカットソーがせり出す。
突き出されたカットソーがのぞみを喰らおうとする神を切り裂き、その体液で装甲を汚す。
喰らいつかれたロケットが火を噴き、爆散する。
爆炎が御輿を飲み込み、装甲を舐めるが御輿は中に居る巫女を必死に守った。
ロケットを切り離し、無限軌条で神の柱を登り、砲身が力の限り叫ぶ。
これでもかと機銃を振り回し、機械鋸を振るい、全身の装甲をずたずたに裂かれながらも、巫女を守るために御輿は吠え続ける。
「せいじさんっ!せいじ……さんっ!せぇじさぁんっ!」
のぞみはモニターを叩く。
亀裂の走った液晶に、誠二はこう記した。
『I L VE YOU』
のぞみの咆哮が響いた。
「ああああああああああああああああああっ!」
かつて、人が鉄を持たぬ時の話だ。
人は自然の災厄の前になすすべを知らず、その全てを司る神に生きる望みを託した。
崇め、奉り、そして、生きていることを感謝し、喜ぶ。
だが、いつしか神は鉄にその心を奪われ、そして、生き場所を失う。
神の代わりに、鉄が人に寄り添い時を経る。
再び、災厄の前になすすべを無くした人の隣に既に神はおらず、弱い人は鉄にすがる。
だが、それでも、確かに存在するそれを信じる者だけが、生きることができる。
神々の群れが御輿を追う。
東の空に陽が昇り、御輿は巫女を載せてひたすら走る。
力なく見上げる人々は暁の中に浮かぶ神の車を見てあまりの眩しさに目を瞑る。
風が吹き、雲が散り、嵐はどこか遠くへ行ってしまった。
太陽は疲れ切った人々を優しく照らし、人々は生きていることに泣いた。
荒れ果てた荒野に再び放り出された人は声を上げて喜んだ。
喜び疲れて、二度と起き上がれぬ者もいた。
だが、それでも、人は生きていることに喜びうち震えた。
地上に落ちた鉄の棺桶の前に立ち、神田彰は煙草に手を伸ばした。
紫煙を胸一杯に吸い込み、空に向かって吐き出す。
鈍く響く痛みは生きているが故に。
亡骸を抱えた棺桶はあるべくして棺桶でありつづける。
冷たく、そして、優しい風が吹く。
白き雲を従えたどこまでも高い空を見上げる。
いつまでも変わらぬ景色に彰は告げた。
「どうしょうもなく……生きてる。なぁよ?」
読了戴き、ありがとうございます。
一年前に書いた物ですが、特段、手を入れておりません。
当時の感性をそのままにしておくことで自分自身が当時、物事にどう感じていたのかを思い出しながら投稿しました。
ですが、僭越ながら誤字脱字や致命的な間違い以外で一つだけ、修正した部分があります。
最後の英文からアルファベットを一文字だけ、抜きました。
当時の自分が描いたアルファベットと違うアルファベットが、今の感性の自分だと入れてしまいたくなったからです。
ですが、その当時は別のアルファベットを入れていて、その感性も確かに、間違いではなく、誠二という自分の側面が訴えたものでした。
きっと、皆様の間で色々なアルファベットが入ると思います。
それは、いずれも間違いなく正しいものなのでそのまま読み進めて下さい。
重ね重ね、ご読了、ありがとうございます。
この作品が初めての方は他にも、稚拙ながら長編、短編ともに一作づつ寄稿しておりますので興味を持って下さいましたら是非、お読みになって下さい。
今後の予定としては、純正のファンタジー物を一つ、書きかけですので完成次第、あるいは、完成させることを覚悟の上、完成前にお届けするか、SF物で一つ、未完の物を改稿し皆様にお届けできればと思っております。
あるいは、新しいシリーズを勝手にはじめてみたり。
読んで下さる方が少しでも『面白い』と思えるように、努力していきたいと思います。
長々と、失礼致しました。