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夜散歩  作者: 野狐
7/11

ネズミの国 その四




 私は陛下に頼み込んで外出の許可をもらおうと思いましたが、国民が騒ぎになる、という理由から外には出させてもらえませんでした。しかしながら私のことを気遣った陛下は宮殿の一番高いところへ昇ることを薦めました。そこなら国が見渡せるというのです。私はさっそく一番高い部屋から窓を開けて外を眺めました。

 そこからは都が見渡せました。外壁の大門から一本立派な大きな道が走っていて、それが宮殿まで続いています。そこから細い道が左右に走っていて、街が形成されていました。一ブロックごとはほぼ四角形に区切られていて、上から見るととても計算された作りだと分かります。その道と道をネズミたちが生活しています。大門から入ってすぐの所には市場が設けられ、一番活気があります。また外壁の外には畑が作られ、道が遠くまで続いています。私がブラヴァと共に来た道も見えます。

 ネズミだと最初は思っていましたが、姿形が違うだけで彼らもまた人間なのだ、とそう思いました。素晴らしい文明なのです。

 ある日のこと、朝起きてまた一番高いところに昇ろうとしていると、城下で角笛が鳴り響いていました。何事かと城下を見るとネズミたちが慌ただしくしています。それに城門に大勢の兵隊ネズミが集まって隊列を組んでいます。また私が最初に来た、村に続く道の方角から、アモニを連れたり荷車を引いたりするネズミたちが二・三十匹、列をなしてやってくるではありませんか。私は驚いて陛下のいる間まで降りていきました。ヴェスペーロを見つけて私は聞きました。

「何事なんだ?向こうから来るクレマージたちは何なのだ?」

「大変です。悪魔が出たのです」ヴェスペーロは震えて言いました。

「悪魔?何のことだ?」私は聞きました。

「悪魔は突然山から下りてきて里を襲い、クレマージやアニーモを食べて行くのです。彼らは襲われて無事だった里のものたちでしょう」

 私は宮殿内が落ち着くのを待ちました。逃げてきたのはブラヴァたちでした。城壁内に迎えられた彼らは疲れ切った様子で介抱されていました。幾らかすると陛下は二匹の偉い学者、三匹の政治家、将軍と隊長三匹、それに里を代表してブラヴァを呼びました。私もその会議に参加することを許されました。

 ブラヴァによると襲ってきたのは大勢のクレマージと一匹の大きな悪魔で、こちらの制止を聞くこともなく突然破壊を始めたそうです。

「悪魔と共に来たクレマージたちは何やら様子が変で、まるで魂が抜けたみたいだった。悪魔は子供を含めた七匹のクレマージを殺し、二匹を連れ去った。また地の底から聞こえてくるような声で、また来る!話し合いは聞かない!自由にさせてもらう!と言った」

ブラヴァはこう発言しました。またそのときにブラヴァは一匹のクレマージをサーベルでやっつけたそうですが、傷つけるとはっとして我に返り正気に戻った後、眠りに落ちたというのです。

 会議は進みました。悪魔の配下たちはどうやら洗脳されているらしい、と全員が一致しました。

「話し合いで解決したい」政治家が発言しましたが「またすぐに襲われる」と反論されました。

「城門内にいれば平気だ」兵隊長が一匹言いました。

 しかし学者は反発し「その保証はない。城門など一跳びで越えられる恐れがある」こう切り替えします。

「兵を募って退治するほかに道はない」将軍は立ち上がって言いました。すると議会はしんと静まりました。誰も悪魔の所へなんて行きたがらないのです。政治家は首を振りますし、学者は知らんぷり、隊長たちは下を向きました。

「ならば私が行こう」将軍は怒った顔で片耳だけを震わせながら言いました。

「将軍は動いてはなりません!」学者が言います。

「命が危ぶまれます」隊長たちが言います。

 会場はざわつきため息に包まれてしまいました。陛下も決めかねている様子で腕を組んで巨大ドングリの豪華な作りの王冠が揺れていました。

「私が行きましょう」そう言ったのはブラヴァでした。「私が退治に行きます。襲われたのは私の村ですし、私ならば心配することはないでしょう」

 会場では口々に意見が飛びます。格好を付けて、無駄なことだ、勝手にすれば、などの野次もありましたが、ブラヴァは真剣な目で訴えました。私はブラヴァの勇敢な心は素晴らしいと思いましたし、またこうやって野次を飛ばすようなものはどこにでもいるんだなぁと思いました。

 陛下はブラヴァの勇敢な心に打たれ、また心配もしました。しかし議会は進まず、結局退治することになったのです。しかも私もその悪魔退治に同行することになりました。陛下に頼まれ、さらにブラヴァに命を救ってもらった恩を返すためには同行せざるを得ないと思いました。私たちは他にヴェスペーロを付き従えて退治に出ました。




 ここで簡単にこのネズミの国について話しておきましょう。彼らネズミたちは自分たちのことをクレマージと呼びます。私たちが自分たちを人間といっているようなものですね。この国の名前は「春風の国」といいます。この国から西の方角にある山脈を隔てて向こう側を「秋空の国」、また南の海を二百五十ヤードほど隔てた先にある島にも国があり「夏海の国」といいます。どの国とも交流があり、三国は同盟国で過去二百年、戦争は起きてません。

 この国の王をフィロゾーフォ王といい、王女はリリオ姫といいます。

 この国には牛に似たアニモや、他に馬に似たもの鹿に似たものがいますが、どれも初めて見る動物です。逆に彼らは象や猿を知りません。犬もいません。森には膝ほどもある大きな虫がいますが、ブラヴァは当たり前のようにやり過ごします。動物の中でも特にアニモは食用であったり農業を手伝ったりしています。

 文字は彼ら独自の文字で理解するのは難しいです。彼らは羽ペンを使って文字を書きますが、私たちと同じように左から右へと書いてゆきます。

 ネズミたちは暗いところでもよく目が利きます。ですから夜になっても必要以上に火はおこさず、街全体を見下ろしたときの灯りはとても落ち着いたものでした。私たちがあんなにギラギラと街を明るくするのを考えると、思わず吹き出しそうです。

 彼らは尻尾を何よりも大切にしています。尻尾は彼らにとっては誇りで、挨拶するときには上へ持ち上げます。自分よりも位の高いものと挨拶をするときは、自分の尻尾を相手よりも低くします。一度彼らに尻尾を結んだら嫌がるか?と質問しましたが、顔を赤らめてしまいました。彼らにとっては、私たちが髪の毛を全部引っこ抜かれたみたいなものかも知れません。彼らは何かに誓ったりするときには「この尻尾に誓って、あなたの尻尾に誓って」と言います。

 誰かが死んだときには葬式が開かれますが、木の実をたくさん死んだものの周りに並べ、尻尾を高く上げて振りながら

 ダーキン

 ダーキン

 こう言います。ダーキンはネズミの言語で「ありがとう」の意味でもあります。

 この国で一番重い罪は「裏切り」です。つまり相手を騙すことです。ですから彼らは誰も非常に正直です。次に重いのは「家族への冒涜」です。彼らはとても家族や親類を大切にします。子は親を敬い、親は子を尊びます。

 文献によると国王は世襲ですが、オスが勤めることになっています。つまり次の国王はリリオ姫のお婿さんということです。政治家たちの役職は国民によって推薦され、最後は国王が決定します。陛下は「上に立つものの最も大切な能力は、強い心、徳を備えた心、支える力を感じ取る心である」と仰いました。







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