ネズミの国 そのニ
彼らネズミたちは大変親切にしてくれました。言葉は分かりませんでしたが身振り手振りで私を案内し、一緒に食事もしました。しかも驚いたことに食事の中にはフルーツだけではなく肉もありましたし、それに焼きたてのパンもありました。食後には葡萄酒に似た味のするお酒も出てきて私は大変に驚かされたのです。どうやら彼らもまた我々人間と同じように文化・文明を発展させてきたようです。私は大いに感銘しました。
話しを聞く内にこの大きなネズミは「ブラヴァ」と呼ばれていることに気がつきました。どうやら彼の名前は「ブラヴァ」らしいのです。私が彼を指して「ブラヴァ」と言うと、彼は笑って自分を指して「ブラヴァ」と言い。私は自分を指して「ジョナサン」というと、ブラヴァは私を指して「ジョナサン」と言いました。彼は毎朝早く起きて庭で剣の稽古をしているようでした。私たち人間のような剣さばきではなく、ネズミ独特のまるで踊っているようでした。
小さな黄金色の毛をしたネズミは物珍しそうに私の体をじろじろと見てきましたが、私が話しかけると子ネズミは恥ずかしそうに下を向いてしまいます。それを見て他のネズミたちは甲高いチューチューという声で笑うのでした。この小さなネズミは名前を「ブロンダ」といい、一番年老いたネズミを「テネーラ」といいました。彼らは家族で、テネーラはお母さんネズミ、ブラヴァはその息子、ブロンダは妹のようです。
彼らは私の荷物を小舟から全て保管していてくれたようでした。
私はもう一晩、先のベッドで眠った後、体も完全によくなっているようでしたので、ブラヴァに「外に出たい、探検がしたい」とスペイン語で必死に伝えると、最初は悩んでいたようですが、一緒に外へ行くことをどうやら了解してくれたようでした。
外に出るとなお驚きました。ネズミたちは私を助けてくれた三匹だけではなく、大勢いたのです。彼らは私たちが国で街や村を作るのと同じで彼ら自身の集落を作っていました。大きなブラヴァのお陰で私が皆に敵視されることはありませんでしたが、すぐに大勢のネズミが集まってきました。毛色は灰色、黒、小麦、斑模様と様々で、大きさもバラバラでした。
私はすぐに皆の人気者になりました。特に子ネズミたちからは毎日のように追いかけられ子ネズミたちは足下を走り回りました。子ネズミたちは私が炭で気の平らな板に、帆船の絵やキリンや象など珍しい動物の絵を描いたり、歌を歌ったりするのを興味深く聞きましたし、大きな大人ネズミたちは私が持ち込んだ航海図を好みました。
ネズミたちの村には生活がありました。朝早くから畑を耕しているネズミ、森へ行って木の実や果物を採ってくるネズミ、木で出来た押し車に麦などを積んで引っ張るネズミ、様々でした。雌のネズミたちはその木の実などでパンを焼いていましたし、裁縫をするものもあります。
私はブラヴァに着いて森へ狩りに出かけることもありました。ブラヴァは木々の間をすばしっこく走り、鹿に似た斑模様の動物に飛びつき、捕らえます。また弓と槍を混ぜたよう道具を使い、上手に仕留めました。彼は手足を結び担いで帰りました。また、そこには珍しい虫や鳥の姿もあります。私は麻布にそれらの絵を描いたり、枯れ木で出来た虫かごに捕らえました。その他、私は森の中で硝石など火薬の元となる材料を見つけ持ち帰りました。
他にこのネズミたちの村には私が見たこともない動物もいました。全身が茶色く長い毛に覆われていて、二本の大きな牙が生えています。見た目はマンモスかバッファローのようで、大人しく、青草や果物を食べています。ネズミたちはこの動物に荷車を引かせ、畑を耕すのを手伝わせています。この動物は「アニモ」や「アニーモ」と呼ばれました。どうやら私たちの国では牛のような役目を果たしているようです。
私はネズミたちに数学を教えました。簡単なものでしたが大抵のネズミは関心した様子でした。夜になると星々の話しも聞かせてやりました。星座の絵を描いて空を指さすと子ネズミはワッと声を張り上げました。火薬を少しだけ使って、花火を作ってやると、ネズミたちは尻尾をピンと伸ばし、皆が驚嘆しているようでした。
私はこのネズミたちの暮らしが随分と気に入ったものですから、しばらくここで暮らすことにしました。何しろ本当に素直でよく笑うのです。
この島へ来て二週間が経ったときのことです。朝に私がブラヴァと共に狩りへ行く準備をしていると何やら騒がしいざわめきが聞こえてきます。外へ出てみると他の村人たちも何事かと外へ飛び出していました。道には馬そっくりの(馬そのものかも知れませんが)動物に乗ったネズミが三匹やってきました。彼らは革の鎧を着ています。それに一匹は腰に剣を指していて、残りの二匹は長槍を立てています。見た感じでは村人よりも綺麗な格好をしていました。
剣を持った一匹は大きな声を上げると紙を広げて回りを見渡しました。それから私を見つけると近づいてきて、馬の上から私を見下ろして何やら言いました。さっそくブラヴァが間に入って話しをします。ブラヴァは紙を受け取り、三匹のネズミたちは去っていきました。
話しによると、この国の王様が私の噂を聞いて是非会いたいと言っているようでした。何しろ私は彼らにしてみれば不思議な生物なのです。王様は私に城へ来るように、というのです。この島へ来てしばらくと経っています。何となくですが言葉は理解できるようになってきました。