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夜散歩  作者: 野狐
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ネズミの国 その一




 一七一七年の四月が始まってすぐの日のことでした。色々な外国を旅してきた私は、多くの危険な目に遭ってきて、気が滅入っていました。しかししばらく時間が経つと私の気持ちは抑えることが出来なくなって『セイレーン号』に乗り込んで再び航海に出ることになりました。

 私は医学や数学、それに航海術、外国語なども航海のために心得ていましたので、『セイレーン号』の船長は、私が乗組員になることにすぐに賛成しました。

 こうして一七一七年四月二十七日に『セイレーン号』はイギリスの港を出帆しました。しかし港を出て三日は大変よい天気でしたが、大西洋進んでいく内に海は荒れ出しました。舟は南へ西へ流され、航路から随分と外れてしまいました。ようやく嵐はおさまりましたが船員たちは疲れ切っていましたので、船は南アメリカの小島につけ、少しだけ休むことにしたのです。

 この小島での休息は失敗でした。我々は疫病をもらい、船では一人また一人と倒れていったのです。疫病は猛威を振るい、一週間もすると船には船員は四人だけ、しかもまともに動けるものはおりません。船はどこも知れない海の上をただ風任せに進んでいきました。

 ある日私は甲板で海風に当たっていると、遠くに陸が見えたのです。そのころには船員は船長と私だけでした。

 翌日になると陸ははっきりと見え、太陽が一番上に昇った頃にはもうすぐそこでした。私たちは錨を降ろすと、少しの荷物、それを小舟に乗せて島へ向かいました。

 ところが島に着くと私にはもう体力が残っていません。船長と同じです。必死に浜辺を這い上がって、砂浜に倒れ込むようにして寝そべりました。

 そして意識を失いました。

 どれくらいの時間が経ったでしょうか。

 はっとして目を覚ますと周りはしんと静まりかえっていました。しかも私はどうやらベッドの上に寝かされているらしく、額には冷たく湿った布が置かれていました。体は病気が治まり始めたらしく、幾分楽です。

 私は音を立てないよう、そっと目だけを動かして周りを伺います。テーブルが置いてあり、その側に私が船から降りたときに持ち込んだ頭陀袋が置いてあります。窓が開いていて外が見えました。夜のようでしたが、月明かりと星の灯りで随分明るく見えます。一緒に来たはずの船長の姿はなく心配でしたが、私にはどうすることも出来ません。ひとまずどこかで生きていることを祈るしかありませんでした。よかった、助かった、と私は安心してもう一度眠りにつきました。

 陽が昇り目覚めた私はお腹が空いていることに気がつきました。ふと横を見ると、小さなテーブルにリンゴやブドウなどのフルーツが盛られています。私は脇目もふらず手を伸ばすと、リンゴにかぶりつきました。

 そうしている内に誰かが話す声や歩く音が聞こえてきました。私は食べるのを止め、じっとその音が近づくのを待ちました。音は扉の前で立ち止まると、音を立てないようゆっくり扉を開けました。

 その入ってきた物を見て私は驚きました。体は全身白と灰色の混じった毛で覆われ、頭の上に耳が二つぴんと立っています。鼻は前に飛び出し、立派な髭が鼻先で揺れていました。それに口の先には歯が見え隠れし、真っ黒の両目が私を見ていました。それは巨大なネズミでした。私たち人間くらいの大きさのネズミです。しかもネズミは服を着ていて、前掛けまでしていたのです。

 当のネズミにしても私を見てびっくり仰天した模様。手にした盆を落とし、甲高い悲鳴を上げました。

 その声に次いでネズミがもう二匹部屋へ飛び込んできました。一匹はもっと大きくて、綺麗な灰色の毛をしたネズミ。もう一匹は先の大きなネズミに隠れるようにした小さなネズミで、その毛は可愛らしい金色をしていました。どちらのネズミも最初のネズミと比べると、幾分か若いネズミのようでした。どうやらこのネズミたちが私を助けてくれたのでした。

 大きなネズミが他の二匹を守るようにして立ちはだかり、私が動く度に警戒しています。私は何とかしようとオランダ語、英語、フランス語それに拙い日本語などで話しかけましたが、伝わりません。最後にスペイン語で話しかけると、警戒が和らぎました。後から知ったことですが、スペイン語のミス・カマラーダス(我が同士たち)(ミス・ソシアス、ミス・コンパニューラス 我が仲間たち)という言葉が、何となく理解できたのだそうです。

 大きなネズミは私に近づいて来てじろじろと顔を見ました。それから私が動こうとすると必ず正面に立とうとします。私も彼らを見ました。大きな若いネズミはなるほど立派な毛に覆われていて、目は鋭く強い目をしていました。

 私は彼に笑いかけました。すると彼は一瞬構えましたが、体を少し斜めにして、尻尾を真っ直ぐ上に立てました。私はそれを見ると頭を下げて感謝しました。







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