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夜散歩  作者: 野狐
3/11

君の欲しいものはこれかい?




 それは真っ白な雪が舞うクリスマスの夜のことです。その中を優しい鈴の音を鳴らしながらサンタクロースたちは大忙し。一晩掛けて街中の子供たちにプレゼントを届けるのが仕事です。

 雪が止み、雲が晴れ、群青色の空には星が瞬き始めた頃、サンタクロースたちの仕事は終わりに近づいていました。まだプレゼントを届けていない街の子供は後一人、街はずれに住む男の子、アルフだけでした。

 サンタクロースは大きな白いプレゼントの袋を抱え、家の屋根にそっとソリを止めました。サンタクロースの袋は欲しいプレゼントが何でも手に入る秘密の袋なのです。サンタはにこやかな笑顔を浮かべながら、アルフの部屋へと入りました。

 部屋へ入ったサンタはびっくりしました。ベッドの上に誰かが座っているのです。「親子の時間は子供は寝ているはずだぞ?」そんな風に思いながら目をこらしてじっくり見ると、それはアルフでした。

「こんばんは、サンタさん」アルフは言いました。

「やぁこんばんは」サンタは答えました。「クリスマスの夜だよ、まだ起きているのかい?」

 アルフは首を振りました。「ごめんなさい、でも眠れないんだ」

 サンタは長く白い髭をさすりながら思いました。「そうだそうだ、プレゼントが待ち遠しいんだな。そうだそうだ」と。

 白く大きな魔法の袋をよいしょと床へ置き、サンタは袋の中をガサゴソ、ガサゴソ。そしてその中からサッカーボールを取り出してアルフに差し出しました。

 ですがアルフは嬉しくありません。首を左右に振ってため息をつくばかり。

「こっちの方がよかったのかな?」そう言ってサンタは袋の中から格好いいロボットを取り出して差し出しました。

 ですがアルフは欲しくありません。首を振ってふうっと息を吐きます。

「だったらこっちはどうだろう?」そう言ってサンタは袋の中からとっても美味しい二十種類も味の変わるキャンディーを取り出して差し出しました。

 ですがアルフは食べたくありません。「いらないんだ」とそう一言。

 困りに困ったサンタは白く太い眉を上下させながら考えました。そして他の街にプレゼントを配りに行っている、他のサンタを呼ぶことにしました。

 星は黙ってきらきら見つめ、すぐに他のサンタはやって来ました。

 にこやかな笑顔で新しいサンタは髭をさすります。

「どれどれワシに任せると良いよ。この子はきっと新しい服が欲しいんだよ」そう言って袋の中から真っ赤なセーターをとりだしてアルフに差し出しました。

 だけれどもアルフは着たくありません。手を突き出してプレゼントを押し返しました。

「違ったのかな?だったらこの子は遠くへ行きたいんだな?」そう言って袋の中から青くきらきらした自転車を取り出しました。

 しかしアルフは乗りたくありません。目をつむって下を向いてしまいました。

 さぁ困ったのはサンタです。この頃になるとまだ帰ってきていない二人のサンタを心配して、色々な街のサンタが駆けつけてきました。アルフの部屋には七人のサンタ達が集まって、アルフのベッドを囲みながらあぁだこうだと話し合いました。

「この子は笑いが欲しいに違いないよ」一番太ったサンタは言いました。そして袋から世界で一番面白いピエロを呼び寄せて芸をさせました。

 それを見てもアルフは笑いません。ただ黙っているばかりです。

「この子は自慢できるような靴が欲しいんだよ」西の町へ行っていたサンタは言いました。そして袋から赤いラインの入った格好いい靴を取りだして差し出しました。

 その靴もアルフは履きたくありません。口を紡いでしまうだけです。

「病気なんじゃあないか?」そう言ったのは背の高いサンタです。「寒いから笑わないし、それに何も欲しくないんだよ」そう言ってフカフカの布団を取り出して、アルフに着せてあげました。

 だけれどもアルフは首を振ってフカフカの布団をどかしてしまったのです。

「きっとこれだよ」残った二人のサンタは自信満々に言います。「きっとわしらのソリに乗って空を飛びたいに違いないよ」

 この意見には他のサンタたちも賛成、アルフをソリに乗せてあげるとトナカイにムチをぴしゃり。そして星の瞬く夜の空、きらきら静かな夜の街を駆け巡っていったのです。風はゆったりと吹いていましたし、月はまん丸で綺麗でした。

 ところががどうしたことでしょう、アルフは嬉しがるところか「家へ帰りたい」そう言って泣き出してしまったのです。慌てたサンタたちは急いでアルフを家へと送り届けました。

 サンタたちはくたくたになって床に座り込んでしまいました。こんなことはこれまでになかったものですから、もうどうして良いのか分かりません。途方に暮れてしまったそのときです。玄関の方から鍵を開ける音がしてきました。サンタたちは大慌て、急いでそれぞれが魔法の袋を抱えると部屋から飛び出していきました。

 最期のサンタが部屋を出たちょうどそのとき、アルフの部屋のドアがゆっくりと開きました。そこに入ってきたのは手に小さなクリスマスケーキの箱を抱えたアルフのお母さんでした。

 それを見た途端、アルフはベッドから飛び出して一目散にお母さんの所へ走っていき、そして抱きつきました。

「あらあら、坊や、遅くなってごめんなさいね」お母さんは優しくアルフの栗色の髪の毛を撫でました。

「全然寂しくなかったよ、空も飛んだんだ」アルフはそう言ってお母さんから離れようとしません。きっとお母さんはアルフが夢でも見ていたんだろうと思いました。

 サンタたちはソリの上からその様子をそっと眺めて、ほっとしました。

「なぁんだ、そうだったのか」

「いあやぁ、よかったよかった」

 皆にこにこしながら家へ戻り、来年のことを考えながらぐっすりと眠りました。







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