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夜散歩  作者: 野狐
2/11

三毛猫と少女の人形 そのニ




 三毛猫は鈴の音も高らかに庭の木々や草花に教えてもらった、少女が行ってしまったという方向へ進んでいきました。長い長い道を通り、大勢の人が歩く大通りも越えて行きます。その間一日、二日経ち、三毛猫の体はどんどん汚れていきました。

 ふと裏路地を通り過ぎようとするところで、三毛猫に話しかけるものがありました。それは蜘蛛の巣に捕まってしまった一匹のモンシロチョウでした。

「三毛猫さん、三毛猫さん。そこの三毛猫さん」モンシロチョウが言いました。

「何だ?俺に何か用かね?」

「お願いがあるのです」モンシロチョウが震える声で言います。

「お願いなど聞いている暇はないね。俺はこれから用事があるのだ。大急ぎで用事を済まさねばならん」三毛猫は冷たく言いました。

「お願いです。聞いてください」モンシロチョウが言います。「どうか私をこの恐ろしい蜘蛛の巣から助けてはもらえないでしょうか。このままでは私は恐ろしい蜘蛛に食べられてしまい、もう二度と自由に羽ばたくことはできません」

 三毛猫はさすがに可哀想だと思いました。このモンシロチョウが少女の人形と同じだと思ったからです。自由がないことの恐ろしさは、これまで自由の中で生きてきた三毛猫には恐ろしいほどに分かりました。そこで三毛猫はモンシロチョウを蜘蛛の巣から逃がしてやりました。

「ありがとう、ありがとう、これでまた青空を自由に飛ぶことができます。ありがとう」モンシロチョウはひらひらと三毛猫の周りを飛び回って、額に軽くキスをしました。

 すると三毛猫はまたしても不思議な感覚を覚えました。自分は少女の人形が可哀想だと思っただけだったのに、と三毛猫は思いました。感謝をしながら舞っているモンシロチョウを見ながら、三毛猫の体の中にまた一つ、暖かいものが灯りました。

「モンシロチョウや、一つ聞くが赤い水玉模様のドレスを着た、お姫様を見かけなかったかね?」

「それなら知っていますよ、優しい三毛猫さん」モンシロチョウはそう言ってひらりひらりと三毛猫の頭の上を舞いました。

 三毛猫はモンシロチョウと別れ「赤い水玉模様のドレスを着た人形を見た」というモンシロチョウの言う通りにその方向へ進んで行きました。また大通りを越え、今度は橋を越えました。その間一日、二日経ちましたが、しかしながらなかなか少女の人形の行方は知れませんでした。

 さすがの誇り高き三毛猫も疲れ果ててしまいました。

「この辺なんだがなぁ」三毛猫はうなだれます。

さらにフラフラと歩いていると、運の悪いことに雨までもが降ってきました。

「天は俺に味方しようとはしないのだな」とそう呟きながら三毛猫は急いで民家の軒下へと雨宿りしました。しかし可哀想な三毛猫は雨宿りをしたものの、もう駄目だ、と一人思うのでした。今まで軒下で一人雨宿りをしていても悲しいなどと思ったことは一度もなかったのに、このときばかりは涙がこぼれます。

「俺は強く誇り高い三毛猫なんだ」そう思ってもやはり無駄でした。

 そのとき、突然家の中から聞き覚えのある可愛らしい笑い声が聞こえてきました。三毛猫は大きく目を見開いてその声の主を追います。そうして家の中をのぞき込むと、なんと、あの少女が居るではありませんか。しかも棚の上にはあの少女の人形が腰を降ろしています。雨宿りに入ったこの家は少女たちが引っ越しをした家だったのです。

少女の人形の姿を見た三毛猫はまた不思議に思いました。少女の人形を見た瞬間、胸の奥底が熱くなったのです。

 三毛猫は必死に窓ガラスをその素晴らしい爪で引っ掻きました。人間の子供すらも驚くような声で唸りました。こうなると雨の音との一騎打ちです。どちらが少女に気づいてもらえるのか、雨風は意地悪にも邪魔をしましたが、三毛猫は必死に呼び続け、呼び続け、するとやっとの思いで少女が三毛猫に気づいてくれました。

 少女は窓へと駆け寄って、三毛猫を家の中へ入れました。

「まぁ、こんなに濡れちゃって」少女は言いました。そして三毛猫の首に掛かった金色の鈴に気づいて言いました。「あら、この鈴、なくしたと思ってたのに。あなたが届けてくれたのね?」

 少女は大変喜び、三毛猫をきれいに洗ってくれました。さらに三毛猫の体を拭いて、ミルクまでご馳走してくれました。誰かの助けなど、と思っていた三毛猫でしたが、お腹が大変空いていたものですから、仕方ない、と自分に言ってミルクを飲みました。そのミルクのおいしかったこと。

「こんなにおいしいものは初めてだ」三毛猫は喉を鳴らしました。

それから少女が三毛猫を優しく抱きしめて「今日からお前は私たちの家族よ」と言うと、三毛猫の中にまた一つ暖かいものが灯りました。三毛猫はそれがなんなのかは分かりませんでしたが、とても優しい気持ちになれました。ただ誰かに抱きしめられることなんて三毛猫には初めてのことでした。

「それにしてもお前はなんてきれいで珍しい毛色をしているの?」少女が言いました。

 三毛猫は嬉しくて棚の上の少女の人形をちらりと見ました。すると少女の人形も三毛猫の方を見ていて微笑んでいます。三毛猫も微笑み返しました。

「この鈴はお前のものよ」少女が三毛猫にそう言います。「あの子には赤いリボンを付けてあげたから、この鈴はお前のものなのよ」

 三毛猫はそれを聞くと歌うように鳴きながら、鈴を揺らしました。

 それからというもの三毛猫はこの家に住むようになりました。この家のお父さんもお母さんもとても気のいい人で、三毛猫を心から可愛がりました。しかし体はちゃんと自分で川へ行って洗います。食べ物もご馳走になることもありますが、自分で用意することもあります。何と言っても誇り高い三毛猫ですから。




「三毛猫はこの家で幸せな時間を過ごしました。窓際に外を向いて座った少女の人形に、川のことや森のこと、それに丘の向こうのことや街のことを話して聞かせ、流れる雲や星空を二人して眺めました・・・あらあら、寝ちゃったわね」

 お母さんが話し終える頃、男の子はすやすやと眠りについていました。お母さんはまた男の子の頭をなで、額に軽くキスをすると、優しい声で「おやすみなさい」と言いました。

 お母さんが部屋を出て行ってからも、月明かりはしばらく男の子のお腹の辺りを照らし続けました。

 男の子は少し微笑んでいるような表情を浮かべ眠っています。きっと夢を見ているのでしょう。三毛猫の夢かも知れません。星々や月の夢かも知れません。







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