もうお前だけでよくね? とパーティを追放され続ける最強冒険者は、それでもパーティーを組みたい
「ファントム……すまないが、ウチのパーティを抜けてくれ」
冒険者ギルドに併設された酒場、喧騒に包まれる中でその言葉は重苦しく告げられた。
「……なんでだ?」
ファントムと呼ばれた男は飲もうとしていた酒のジョッキをテーブルに置き、一拍置いた後に尋ね返す。
「ルネ、俺はこれでもパーティの役に立てるよう精一杯やってきたつもりだ」
「……あぁ」
真っ直ぐ見つめてくるファントムに、ルネはここも重々しく頷く。
「俺の掛ける補助魔法で皆の戦力は概算で倍程度に上がり、敵の戦力は半分くらいにまで下がっているはずだ」
「あぁ、おかげで以前とは比べ物にならないくらい戦いが楽になってる」
「斥候もやった。どんな罠だって見逃さなかったし、索敵をミスったことは一度もない」
「あぁ、何度も命を救われた」
「タンクの役割もこなせる」
「あぁ、アンタが前にいてくれることほど安心なことはない」
「アタッカーとしても、十分に貢献できるはずだ」
「あぁ、ウチで一番の火力だ」
「ヒーラーだって任せてくれていい」
「あぁ、完全に死んだと思ってた傷が一瞬で治った時はちょっと引いたよ」
「望むなら、司令塔だってやろう」
「あぁ、アンタの指示は的確で効率的。従うのに否なんてない」
滔々と己の価値について語るファントムに対して、ルネは心からの同意を示すかのように毎度深く頷いていた。
「なのに……なぜだ?」
そんなルネの様子に、ファントムは眉根を大きく寄せ再度尋ねる。
「うん、オーケーオーケー。答えはシンプルだ」
一方のルネは、ニッコリと笑みを浮かべた。
「だ! か! ら! だ! よ!」
そして、それを悲壮な表情へと一変させながら叫ぶ。
「だから……だよ……?」
対するファントムは、ますます疑問の色を強くしていた。
「アンタ、何でも出来すぎるんだよ! バッファーもデバッファーもスカウトの役割も、タンクにアタッカーにコマンダーまで!」
ルネの叫びは、そんなファントムに対して溜め込んでいたものが一気に吹き出したかのような勢いだ。
「みんな言ってるんだよ……!」
続く言葉は、絞り出すようなもの。
「もうこいつだけでよくね? ってさ!」
言いたくはない、けれど言わずにはいられない。
そんな調子だった。
「いや……けど、俺は一人しかないから。全部の役割を同時にこなすことは出来ない」
「そりゃそうではあるんだけどさぁ……!」
ここにルネは、ずっと口を付けていなかったジョッキの中身を一気に煽る。
「セリーナは、最近いっつも「わたくしのバフなんて、ファントムさんに比べればカスですが……」って言いながら魔法かけてくれんだぞ!? ちょっと前まで、「世界で三指には入るわたくしの補助魔法を受けられること、光栄に思いなさい」が口癖だったのにさぁ! いやまぁ、その頃の性格もちょっとどうかとは思うけども! 今の卑屈な笑みは見てられねぇよ!」
飲まなきゃやってられない、といった雰囲気がありありと表れていた。
「元々引っ込み思案だったヴェリスなんて、今や物理的に盾の向こうに引っ込むようになっちゃったよ! 「ボクがいなくても、ファントムさんが全部防いでくれるんでぇ……」ってさ! それでも、ちゃんとタンクやってくれてるだけ偉いんだけども!」
いつの間にか、その目の端には涙が浮かんでいる。
「リュナに至っては、熱心なモリフィナ教だったはずがいつの間にかファントム教に宗旨変えしてやがる! 「信じれば、私もいつか死人を生き返らせられるように……!」とか祈ってる時の目はだいぶイちゃってるよ!?」
再びグビグビとジョッキの中身を飲み干しながら、一息。
「かく言うオレだってね!? かなりキてるからね!? 剣士としての腕も負けてれば、ひとたび指示させればこっちよりよっぽど的確ってさぁ! 自信なくすってレベルじゃないんだよねぇ!」
ドン! とジョッキをテーブルに叩きつけるルネの顔は、だいぶ赤らんできていた。
「これでもウチは、国に三つしか無いS級パーティ『竜の息吹』のはずなんですけどねぇ!」
怒号と共にゲプッと噯気を吐き出したルネは、手振りでジョッキのおかわりを注文。
次いで、だいぶ据わってきた目でファントムを睨めつける。
「というわけで……悪いが、パーティを抜けてくれ」
そして、最初と同じ言葉を再度告げた。
「……どうにか、ならないか?」
ファントムは、縋るような視線を返す。
「頼む、雑用でも何でもするから」
「だーかーらーだーよー!!」
再び叫んだ後、ルネは新たに運ばれてきたジョッキの中身を先程以上の勢いで流し込んだ。
「だからアンタが何でもやりすぎて、こっちのやることが何もなくなっちゃうのが問題なんだよ! つーか、なんで雑用まで完璧なんだ! マッピングは詳細で、無限に収納出来るんじゃねぇかって空間魔法でポーターとしてもクソ優秀、消耗品の管理も全部やってくれてるし、しかもなぜか普通に買うより全然安く仕入れてくるときた! 料理も美味しい上にお裁縫や洗濯はいつの間にか全部済んでて、気が付きゃキャンプに綺麗なお花まで活けてある! 逆に聞こう! 何なら出来ない!?」
半ば以上ヤケクソのようなルネの問いかけに、ファントムは一瞬視線を上向けて考える仕草。
「……パーティを追放されないこと、かな」
「うぐ……!」
次いで寂寥の笑みと共に返ってきた答えに、ルネは罪悪感が見て取れる表情で胸を押さえる。
「えーと……前に所属してたパーティを追放されて、ウチに来たんだっけ?」
「あぁ」
「なんで……あーいや、やっぱいいです」
理由を尋ねかけたルネの言葉は、自身の苦笑と共に撤回された。
今まさに自分が追放した理由を散々述べたところなのだから、さもありなんといったところであろう。
「あーその、なんていうか……ちょーっと、ウチのパーティとは……あと、前のパーティとも? 合わなかったわけだけどさ。きっと、アンタに合うパーティがそのうち見つかるさ」
「どうだろうな……これまで、数々のパーティに追放されてきた俺だからな……」
「……そんなに?」
「そんなに、だ」
ルネの疑問の視線に対して、ファントムの悲しげな笑みが深まる。
「んー、まぁ確かになー……普通のパーティじゃ、持て余すっていうか……自信なくしちゃうもんな……」
まさに、自分たちのように。
言外に、そのような意図が感じられた。
「あっ、そうだ!」
次いで、いいことを思いついたとばかりにルネの表情が明るくなる。
そこには、ここまでの罪悪感を払拭したいという思いもあるのだろう。
「アンタ、何でもやっちゃいすぎるのが問題だと思うんだよね。だから、実力を隠す……っていうと、ちょっとイメージが悪いか? でもほら、役割を限定するっていうか。タンクならタンク、アタッカーならアタッカー、それしか出来ませんっつって実際それだけに徹すればいいじゃん。したら、その役割を欲してるパーティからすりゃ超優秀なメンバーが入ってくるだけなんだから万々歳っしょ?」
「うん、そんな風にしたこともあるんだが」
ファントムの苦笑が深まった。
「……あるんだが?」
なんとなく先に続く言葉が読めたのか、ルネの明るかった表情にも少し影が差す。
「それなりにダンジョンなんかに潜ってると、パーティの危機というのは必ずどこかで訪れると言っていい。だろ?」
「……あぁ」
自身にも覚えがある様子で、ルネは少し硬い調子で頷いた。
「そんな時に……例えば、タンクが気絶してしまって前線が今にも崩壊するって場合。俺がヒーラーとして所属しているからといって、それを放置出来るか?」
「あー……」
言わんとしていることはわかるのか、ルネの表情が微妙なものとなっていく。
「そうして時にタンクの役割を代わりにこなし、別のピンチにはバッファーとして補助したりあるいはアタッカーを担ったりして……」
「あー………………」
その先は、結局自分たちと同じ。
そう察したのであろう、ルネの「あー」だった。
「あっ、それじゃあさ!」
かと思えば、また何かを思いついた様子で声を明るくする。
「めちゃめちゃ安全マージン取って、常に自分のランクより下の依頼しか受けないパーティっているじゃん? 言っちゃ悪いけど、もうBランクで満足しきって上がる気がないような奴ら。そういうパーティに入ればピンチにもならないし、最初に申請した役割に徹することが出来るんじゃないか?」
「もちろん、そういうパーティに入ったこともある」
「もちろんなんだ」
深く頷くファントムに対して、早くもルネの顔には半笑いが浮かびかけていた。
「で、どうなったわけ?」
「安全マージンを取るって言ってもさ、リターンとの兼ね合いは考えるわけだろ? 例えばBランク冒険者がFランクの狩り場に行くっていうのは、安全ではあってもリターンが少なすぎる。安全マージンを取ってようが、実力が上がっていくにつれてより上のステージに移動してはいくわけだ」
「うん」
「その時の俺の役割が、バッファーだったっていうのも大きいかもしれない。パーティは、どんどん上の討伐区域に行くようになった」
「まぁ、アンタのバフがあるならそりゃそうなる……なるほど?」
自らの言葉の途中で、ルネの表情に納得の色が宿る。
「たま~に聞く話だ。特定のクラスが優秀なだけなのに、それを自分たちの実力だと勘違いする。特にバフなんてのは、自分の力との区別が付きづらい。常にアンタのバフを貰うのが当たり前になってた奴らは、それを自分たちが強くなったからだと勘違いして……やがて、『こんだけ強いんだからバフなんていらなくね?』なんてアホな勘違いを起こすようになる。結果、完璧に仕事をこなしていたアンタは追放されることになった……だろ?」
「いや、そういうことじゃない」
「違うんかい」
ドヤ顔で「だろ?」などと言っていたルネの頬が朱に染まった。
「パーティメンバーは、俺のバフの力を正しく認識していた。最初は、より上の依頼を受けられることを素直に喜んでいたんだ。けど、やがて恐怖を覚え始めたらしい。自分たちは今、明らかに実力以上の依頼を受けている。当然、報酬はめちゃめウマい。けど、それはあくまでバフのおかげ。いずれ何かしらの理由で俺が抜ける時なんかが来た場合、一度経験してしまった贅沢を忘れることが出来るのか? かつての依頼帯に戻ることが、本当に出来るのか? もしそれが出来ず、実力に見合わない依頼を受けてしまったら……だけど俺のバフがあるのに、本来受けられるはずの依頼を受けないのもあまりに勿体ない。それなら……自分たちが今の状況を当たり前だと思ってしまうようになる前に、俺に抜けてほしい……って」
「めちゃめちゃ真っ当な連中だった……」
「そもそも、命知らずがほとんどの冒険者の中にあって正しく安全マージンを取れてた奴らだからな。真っ当な思考もしてるさ」
「それは確かにそう」
ルネも納得の表情である。
「いやでも、それはアンタがバッファーやってたからだろ? タンクとかアタッカー……は、結局同じようなことになりそうか。じゃあ、ヒーラー! ヒーラーなら問題ないんじゃないかっ? いくらアンタが死にかけの状態から復活させられるっつっても、一回死にかける以上はそれが適正な依頼じゃないって身体で理解出来るだろ?」
「そもそもの話なんだが」
再び閃きの表情と共に指を立てるルネに対して、ファントムはゆっくり首を横に振った。
「現状、俺が役割を限定してパーティに入るってこと自体が難しいと思う」
「? なんで?」
「キミたち『竜の息吹』が俺をパーティに加えてくれた理由は?」
「そりゃ、『どんな役割でも完璧にこなせるやべぇ奴がいる』って……あー」
自らの言葉の途中で、ルネも気付いた様子である。
「『万能のファントム』か……」
それが、いつしか呼ばれるようになったファントムの通り名である。
「いや待て、そうだ!」
額に手を当て天を仰いでいたルネの目に、再び光が灯った。
「じゃあ、田舎から出てきた何も知らないガキをターゲットにするってのはどうだ!?」
「あんまり、『ターゲット』とか言わないでほしい……」
「アンタ、意外とめんどくせぇな……」
ちょっとしょんぼりした様子を見せるファントムに対して、ルネはげんなり気味である。
しかし、気を取り直した様子で表情を改めた。
「呼び方はともかくとして、出てきたばっかのガキならアンタの噂も知らないはずだろ? だから、アンタもニュービーのフリしてパーティに誘うんだよ! 実力は隠して!」
「……年齢的に、俺が新人は無理がないか?」
冒険者を始めるのに、年齢制限は存在しない。
が、しかし。
夢を持って田舎から出てくる者、貴族の三男四男で食い扶持を求める者、腕試しや名を上げる目的で始める者。
動機は多種多様だが、ほとんどの者はその冒険者人生を十代のうちに開始する。
冒険者を引退して他の職を始めることはままあれど、逆は稀と言えた。
「いけるいける! 言うてもアンタ、二十代後半とかだろ? 最近は三十過ぎてから、何なら四十越えて冒険者始める奴なんてもいるらしいし!」
「……それは流石に自殺行為では? 確かに三十でも四十でも現役の冒険者はいるけど、そういう方々はそれまでの経験があるからこそだろ?」
「知らねぇよ、なんか事情があんだろ。とにかく、いくつだろうと新人と言い張ることは出来るだろって話」
「まぁ、俺もそう思って実際それをやったこともあるんだけども」
「あるのかよ。じゃあ今の否定は何だったんだよ」
「もうちょい見た目が若かった時の話だから」
「今でも十分若くは見えるけど……ん、いや、ていうか、そう言うってことは……」
「そのパーティでも、追放された」
「……理由は?」
既に追放のくだり自体には慣れ始めたのか、ルネの質問は簡潔なものである。
「さっきのと同じで、ピンチの時に助けたら実力隠してるのがバレた。後は……」
「よーし、それじゃあこうしよう!」
もはや最後まで聞くのも無駄と悟ったか、ルネはさっさと次の提案を持ち上げた。
「ニュービーを狙うのは同じだけど、実力は隠さない! 用心棒か、なんなら師匠とかそういうポジションで加わる! これならどうだ!」
「それをやった時は……」
「あぁ、それもやったことはあるんだ……」
ルネ、再びの半笑いである。
「最初は、師匠師匠と素直に慕ってくれたんだが……いや、慕ってくれたのは最後まで変わらなかったんだけど。最終的に、『ボクたちは師匠のパーティメンバーとしては相応しくない。いつか師匠の隣に胸を張って並び立てるようになったら、その時改めてパーティを組んでほしい』ってそれぞれ修行に旅立っていった」
「またしても真っ当な子たち……」
納得出来る理由だけに、ルネも何とも言えない表情だった。
「じゃあもういっそ、『寄生大歓迎』とでも銘打ったらどうだ? アンタほどの実力者なら、カスが山ほど集まってくんだろ」
やや投げやりな調子なのは、そろそろどうでも良くなってきているのかもしれない。
「そのパターンの時は……」
「やっぱ、そのパターンもあるんだ……で、ダメだったと?」
「あぁ……ちょうどいい具合のカスがいなかったんだ」
「ちょうどいい具合のカス」
ファントムの物言いに、ルネもスンと真顔となる。
「あんまりカスすぎると、人様に迷惑をかけるからな……」
「それは流石に許容出来ないと?」
「俺は能力的には誰でもウェルカムだが、人格面は流石に」
「まぁそれはそうか……」
「犯罪者は、ギルドを除名されるから……」
「まぁそれはそうか……」
なんとなくその時の『パーティメンバー』の末路が見えた気がして、それ以上の言及は控えることにしたルネだった。
「……いっそのこと、こういうのはどうだ?」
そして気持ちを切り替えるかのように、また人差し指を立てる。
「アンタは、何もしない。そう銘打つんだ」
「……続けて?」
「逆転の発想だ。『万能のファントム』の名前は、もう広まってる。アンタが所属してるってだけで、そのパーティにはある程度箔が付くんだ。名誉を欲してる奴には持ってこいだろ? いっそ、実際には帯同しなくてもいいのかも。それなら、パーティに何の影響も及ぼさないだろ?」
「では、そういったパーティではどうなったのかと言いますと」
「……ねぇ、もうやったことあるなら最初からそう言ってくんない? なんで一回泳がせたの?」
「何か全く別の発想が出てくる可能性もあるかと思って……」
「ごめんねぇ平凡な発想でぇ! それで結局そのパーティはどうなったのぉ!?」
「普通に『ファントムが加入したことがある』という事実だけで十分だから、しばらく加入してたらもう抜けていいって。何もしないのに俺を独占するのはギルドにも申し訳ないからってさ」
「……さっきから、みんな言い分がまともなのは何なの? こういう追放系の話って、理不尽なのが普通じゃないの?」
「良縁に恵まれては来たからな……いやいや、本当に良縁に恵まれてたら追放なんてされねーっつーの! どわははは!」
「……急にどうした?」
「追放の話ばっかだと暗い雰囲気になりがちだから、せめて少しは和めばと……」
「お気遣いありがとう」
なお、これによって場が和んだとは言っていない。
「……それじゃ、今のパターンの派生なんだけど」
事実、ルネの瞳からは徐々に覇気が失われてきていた。
「アンタが何もしない、ってのは一緒。ただ、帯同はする。そんで、パーティが瓦解しそうな時だけ動くんだ。最後の安全装置の役割を果たすわけだな」
言ってから、ルネは思考を巡らせるように視線を一度左右に彷徨わせる。
「……これ、安全マージンパーティの時と同じになりそうだな? 結局、自分たちの実力以上のところに行けるようになるわけだし」
「ご明察」
先んじて推察した結果、今度の回答は一言で済んだ。
「貴族のお抱え! 貴族のお抱えならどうだ!?」
これで最後とばかりに、ルネの言葉に再び熱が籠もる。
「冒険者の中には権力に縛られるを嫌うヤツも多いけど、そこさえスルー出来るなら悪くない環境のはず! パーティメンバーは向こうで用意してくれるし、何もしなくても固定給だろ!? 強力な冒険者を抱えても持て余すこともないはずだし、何よりメンツってもんがあるからよほどのことがない限り高名な冒険者を追放なんてしないはずだ!」
「これは、俺がこの国の公爵家のお抱えだった時の話なんだが」
「めちゃめちゃ大物出てきたな……えっ、そういう話があるってことは追放されたの……? 公爵家に……? 逆に、公爵家に睨まれてるのになんで今普通に活動出来てんの……?」
ルネはだいぶ引いた様子である。
公爵と言えば、王族に次ぐ爵位。
追放されたということは、少なからず敵対関係にあったということになる。
つまりこの国の大権力者に敵とみなされるということであり、概ね国内にはいられないことを意味する。
「いや、流石に公爵様と敵対なんてしないっつの」
「逆に、敵対もしてないのにどうやって追放されんのよ」
「暇な時に事務系の仕事の効率化しまくったら収益爆上がりして、王家に睨まれそうになったのと」
「公爵家レベルの事務仕事まで出来んのかよ……」
「あと頼まれて私兵を鍛えてたら、うっかり近衛兵団を完封出来るくらいになっちゃって」
「……それは、どうやって比較したんだ?」
「第三王子が近衛兵団丸ごと抱え込んでクーデター起こした時に、実際に完封出来たから」
「……なんかその事件、初耳な気がするんだけど。それ、聞いてもいいやつ?」
「大丈夫大丈夫」
「あぁ、近いうちに公開されるとかそういう……」
「ルネなら、国軍に追われても国外まで逃れるくらいは余裕だろ?」
「国軍に追われる前提で話すのはやめていただけませんかねぇ……!」
タラリと、強張ったルネの頬に汗が伝う。
「まぁ、それは冗談なんだけども」
「あぁうん、流石にね……」
「そのクーデターのごたごたが尾を引いて、今はそんな追っ手とか手配する余裕ないと思うから」
「……余裕が出来たら追っ手が放たれる、って言ってるように聞こえるが?」
「とにもかくにもそんなわけで、俺が近衛兵団を完封出来るような兵を作り上げられるって事実がバレるとヤバいから出ていかざるをえなかったんだよな」
「その事実を知った者もヤバいという風に聞こえるのだが?」
「でも、公爵様の名にかけて俺の安全は保証してくれるって」
「特にそんなことを言われてはいない一般S級冒険者は普通にヤバいとしか聞こえないのだが!?」
「はっはっはっ」
「笑ってる場合か!?」
「ルネのことは、いざとなったら俺が命がけで守るさ」
「え、あ、おぅ……」
カッカしていたルネの頭から、プシュウと熱が抜けていくようだった。
理由は違えど、顔が赤くなっていることに違いはなかったが。
「で、今から他の貴族に仕えるのもなぁって」
「あぁ……まぁ、公爵様からしても黙っちゃいられないだろうしな……」
頬の熱を冷ますかのように、ルネは一つ咳払い。
「てかそういう事情があるならさ、そもそもこの国で活動すること自体リスクがあるくね? 国外……うん。もういっそ、誰もアンタのことを知らないくらい遠い国のギルドに行くってのは?」
最初は投げやり気味だったが、途中で「これはこれで良いアイデアでは?」といった感情が顔に表れてきた。
「……無理だ」
しかし、ここでもファントムは首を横に振る
「なんだよ、まさか地元を離れるのは寂しいってか?」
「それもあるが……」
「あるんだ……」
揶揄する調子だったルネの表情が、また半笑いとなった。
「既に、ギルドのある国は全部回ったんだよな……そんで、たぶんどの国のギルドでも俺のことを知らない人はあんまりいないと思う……」
「何をしたらそんなことになるんだよ……」
「エンシェントデーモンを討伐したり、竜骸要塞を破壊したり、世界樹迷宮を最上階まで踏破したり、とかかな」
「あぁ……あぁ?」
なるほど、さもありなん……といった表情を浮かべていたルネが、カクンと首を捻る。
「いやいや、だから今までと全く同じテンションで冗談入れんなっての」
そして、今度は微苦笑を浮かべる。
「ははっ、バレたか」
「そりゃ流石にな……」
「さっき『俺は一人しかいないから。全部の役割を同時にこなすことは出来ない』って言ったけど……本当は、魔力で分身体を作れば全部同時にこなすことも不可能じゃない」
「いつの何がどう冗談だったんだよ……って、そんなことまで出来んの!?」
ルネの半笑いが、途中で驚愕に変わった。
「いや、うん、それ自体は驚きなんだけども……そうじゃなくてさ」
次いで、首を横に振る。
「エンシェントデーモン討伐とか竜骸要塞の破壊とか、世界樹迷宮の踏破とか……その部分のことを言ってんだよ」
「? 何が?」
「何が、って……」
心からの疑問を浮かべているように見えるファントムの顔を前にして、ルネ頬に再び汗がつぅと流れた。
「いくらアンタでも、そんな………………いや、あり得るか……? 一つ一つなら、なんとなくいけそうな気も……でも全部なんてそんな……けど、一つ一つがいけるなら全部もいける理論……? 成り立つか……? そんなの……」
顎に指を当て、ブツブツ呟きながら思案することしばし。
「いや、やっぱありえないね!」
結局、そう結論付けられたらしい。
「百歩譲って、何かしらの事情によってそれぞれの偉業の達成者が秘されているとしよう。だとしても、ギルドの査定には反映されるはず……アンタ、Bランクだったよな?」
「間違いなく」
ファントムは、自身のギルドカードを掲げて見せる。
そこには、確かにBのランクが刻印されていた。
かつてダンジョンで発掘された古代の遺物を流用して発行されているギルドカードは、偽造不可能。
ファントムは、正真正銘のBランク冒険者ということである。
「冒険者ランク及びその査定は、各国で共通だ。それだけの功績がありながら、Bランクで留まってるわけがないだろ。Sランクどころか、今は空席のSS……さっきのが全部事実だとすれば、SSSとか史上初のランクが作られてもおかしくないレベルだ」
「普通なら、その通り」
「……アンタは、違うと?」
ルネが睨めつけるギルドカードを、ファントムはピンと指で弾く。
「俺は、Bランクから上がらない。何があっても、絶対に」
「……どういうことだ?」
「SSランクに到達した冒険者には、ギルドの権威に賭けてあらゆる願いを一つ叶える特権が与えられる……ってことは、知ってるよな?」
「……あぁ。Sランクまで上り詰めるような異常者なんて、全員それ狙いだからな」
明らかに思うところがある、ルネの語気。
「それで俺は、冒険者ランクをBに下げてもらうことを願ったんだ。同時に、その後如何なる功績を以てしてもランクから上がらないようにとも」
「………………色々と、言いたいことはあるけども」
言葉通り、複雑な感情で彩られたその口調は苦い色を帯びていた。
「とりあえずは、率直に……なんで?」
それを飲み込んだ様子で、首を傾ける。
「だって、ランクが高すぎるとなんか皆が余所余所しくなるし……Bランクくらいが、一番親しみを持てるって言う人が多いから……」
「……お、おぅ」
ちょっとモジモジしながら言うファントムに、ルネは何とも言えない顔で曖昧に頷いた。
「……うん、まぁ、ていうか、クッソ今更なんだけどさ」
それから、表情を改めて疑問の目を向ける。
「そもそも、なんでそんなにパーティを組みたいんだ? アンタなら、下手な奴らと組むくらいならソロの方がよっぽど楽なんじゃないのか?」
そこには、少し自虐の色も滲んでいた。
『下手な奴ら』の中に、自分たちのパーティも含んでいるがゆえだろう。
「だって」
それに対して、ファントムは口元に小さく笑みを浮かべる。
「一人は、寂しいじゃないか」
「……ぷっ、ははっ」
思わずといった様子で、ルネが吹き出した。
「今のは、アンタがこれまでに言ったジョークの中で一番面白かったよ」
あははと引き続き笑いながら、ポンとファントムの肩を叩く。
対するファントムは、静かな笑みを浮かべたままだ。
そんなファントムの顔をまじまじと見つめて、ルネはパチパチと瞬きを繰り返した。
「……そっか」
それから、フッとこちらも小さな微笑みを浮かべる。
「確かに、一人は寂しいよな」
自身にも、何か覚えがあるのだろうか。
同意を示しつつも、その表情には少しだけ陰が差していた。
「じゃあまぁ改めて、アンタがパーティを組むに当たっての参考にするためにもさ」
その暗さを、微笑みで掻き消す。
「聞かせてくれないか? アンタが今まで組んできたパーティのことを」
その口調には、これまでのどこか傍観者じみた態度とも少し違う、真剣にファントムの過去に向き合わんとする誠実さが感じられた。
「そうだな……さっき聞いた、ニュービーの話なんかがいいんじゃないか? いずれ、アンタに肩を並べられるようになったらまたパーティを組みたいって言ってくれたんだろ? 他と違って、今後に可能性がありそうじゃないか」
「あぁ」
ファントムは、小さく頷く。
その目には、懐かしさと……どこか諦観の色も見て取れた。
「あの子たちに出会ったのは、この国に来てしばらく……騒音トラブルを解決する依頼の過程で、不死鳥を巣から追い出してしまった直後くらいの頃だった」
「なんか既に聞き捨てならないエピソードが混じった気がするけど、一旦スルーしとくね?」
「その依頼を最後に当時のパーティを追放された俺は、ヤケ酒をしてたんだが……その時に、元気な声が聞こえてきたんだ」
「師匠!」
「そう、今みたいな……うん?」
話の途中で聞こえてきた声に、ファントムは小さく首を傾けた。
それから、ルネと同時に声の方へと顔を向ける。
「お久しぶりです……!」
そこには、十代中頃くらいの少女が立っていた。
その顔立ちは、可憐と称するに相応しい。
やや短めに切り揃えられた前髪の下。
強い意思を感じさせる瞳が、今は潤んでより強く輝いていた。
紅潮した頬と合わせて、彼女の魅力をより引き立てているように見える。
「ノア! 久しぶりだな!」
それを迎えるファントムの表情は、純粋な喜色に彩られていた。
「この子は、ノア。ちょうど今話題にしてた、初心者パーティのリーダーだ」
その笑みを、そのままルネに向けるファントム。
「師匠! ボクらはもう、初心者じゃ……!」
「ん? ははっ、そうか。確かにそうだな」
ノアと呼ばれた少女は、唇を尖らせてファントムに抗議する。
しかし本気で言っているというよりは、じゃれているという雰囲気が強いように見えた。
少なくとも、ルネからは。
「ボクら、ついにB級に上がったんです! これで、師匠と同じランクです!」
「えっ、もう? そうか……随分と頑張ったんだな」
「はい……!」
軽い調子のファントムに対して、ノアは感極まったといった様子である。
「というわけで初心者パーティ改め、B級パーティのリーダーなノアだ」
「へぇ……そうなんだ」
再び水を向けられたルネではあるが、「勘弁してくれ」というのが正直な感想だった。
「……ッス」
ルネに送られるノアの視線が、間違っても友好的ではない類のものだったからである。
彼女がファントムとルネに向ける表情には、火竜と氷狼の吐息くらいに温度差があるように思えた。
「あー……っと。女の子だったんだ?」
「言ってなかったっけ……?」
とりあえず無難と思える話題をルネが選ぶと、ファントムは小さく首を傾ける。
少なくとも、ファントムが明言していなかったのは確かだ。
冒険者という職業柄、比率としては圧倒的に男の方が多い。
ルネが男子の姿で想像していたのも、無理からぬことと言えよう。
「あのさ、それで師匠……ボク、強くなかったから……改めて、ボクの師匠に……」
「ファントム様!」
ノアが何やらモジモジと言おうとしていたところ、また別の女性の声がその言葉を遮った。
「今度は、この場に似つかわしくないお嬢さんが来たな……」
ジョッキの中身を一口呷ってから、ルネは小さく呟く。
恐らく本人としては控えめなつもりなのだろうが。
十分に豪奢なドレス、毎日丁寧に手入れされているのがわかる金色の髪や肌と合わせて、冒険者御用達の酒場には明らかに不似合いな存在だと言えた。
「お久しぶりでございます……!」
「サシャ様……!? え、えぇ、お久しぶりです……」
涙ぐんだ笑みを向けられるファントムも、困惑気味に見える。
「サシャ様……って、公爵家の……?」
その傍ら、ルネは聞き覚えのある名前……そしてその佇まいから、彼女の立場について察していた。
サシャ・ド・モンフルール。
公爵家の一人娘である。
「えっと……こんなところに、如何なされましたか……?」
「ついに、第三王子派の粛清が全て終わりましたの!」
引き続き困惑気味のファントムに対して、サシャ嬢は興奮した様子で捲し立てる。
「それは、こんなところで大声で言っていい情報なのか……?」
ルネが、冷や汗を流す一方で。
「伴って、第一王子派に大きな貸しを作ることも出来ましてよ! 彼が王位を継承したあかつきには、我が家の発言は大きく上昇することでしょう! 今ならば、ファントム様も我が家の一員として堂々と……!」
「いようファントム! こんなとこで奇遇だなぁ!」
またも割り込んでくる声。
一同の視線が集まる先では、大柄な女性が片手を上げていた。
雑に切られた赤髪の下、目の片方を跨ぐ形の傷跡が目立つ。
鍛え上げられた肉体といい荒事慣れしている雰囲気で、サシャ嬢とは対照的な雰囲気と言えた。
「ルー……? お前、まだ服役中のはずなんじゃないのか……?」
対するファントムの言葉も、物騒な類である。
「へへっ……アタシゃ、模範囚ってやつでね。刑期が短縮されたのさ」
「お前が……? そうか、変われば変わるもんだな……」
「まぁ、な。つっても、冒険者ギルドにゃ復帰できねーんだけどよ。でも、今となっちゃそれで良かったと思ってんだ。ムショで、野菜の育て方とか教わってよ……それでファントム、アタシと……」
「ファントムさぁん!」
伏し目がちに頬を掻きながら紡がれる、ルーと呼ばれた女性の言葉。
それが、今度も遮られた。
「今度はノエルまで……皆、どうしたんだ……?」
「皆ぁ……?」
地味な印象ながらも整った顔立ちの少女は、困惑気味に首を傾ける。
ノエルと呼ばれた彼女はファントムの周囲に集まる女性陣を一瞥して眉を潜めるも、ハッと表情を改めた。
「そ、それよりぃ! 私たちのパーティ、こないだ『鉄狼の洞窟』を踏破したんですよぉ!」
「んんっ……? それって、A級認定ダンジョンだよな……? B級以下のダンジョンにしか挑まないんじゃなかったか? だって、君らのパーティの方針って……」
「えへへ……安全マージンを取る、って方針は変わってませんよぉ……けど、今はA級ダンジョンだって『安全』の範疇なんですぅ。その方針を変えないまま高みを目指していく、っていうのが今の方針でぇ……この調子で稼ぎ続けられればぁ、ファントムさんを養って……」
「ファントムくん!」
チラチラとファントムに視線を送りながらの言葉は、またも遮られる。
もちろん、声の主は女性である。
「以前は、君一人に全てを任せることになってすまなかった! だが、自分もあらゆる職能をマスターしたつもりだ! なんなら家事だってマスターしたから、お嫁さんとしても……!」
「ファントムちゃぁん! アナタの名前のおかげで、稼ぎに稼げたのよ! 念願のお店も持てたし、アナタに店長の座を……」
凛とした雰囲気の女性の声は、やっぱり女性の声によって遮られる。
その後も……。
「ファントム殿! ついにオロチを討って参った! これにて当主となる権利を得たことになり、其方を伴侶として迎える準備が……」
「ファントムお兄ちゃん! お父さんとお母さんを説得出来たよ! これで、正式なお兄ちゃんに……」
「ファントムっち~! ウチ、ハーバー・ボッシュ法ってやつで食料問題解決してきたよ~! これで王様も説得できたし、ファントムっちがウチの国に永住……」
「ファントムよ……我は全ての同胞を打ち倒し、魔の王となった……最も強き雌である我は、最も強き雄であるファントムの子を……」
といった具合に、ファントムの元パーティメンバーと思しき人々が次々に押し寄せてきた。
そして。
「全員、女だな……」
喧々囂々な様子を傍目に眺めながら、ルネはポツリと呟く。
「………………なんか、聞いてたのと違う気がするんだが?」
「……時に、師匠」
先程から湧き上がっていた疑問を口にしたルネに、ファントムの元弟子? であるノアがギロリと鋭い視線を向けた。
「こちらの女性は、何方ですか?」
ノアの言葉に合わせて女性陣の視線が一斉に集まって、ルネはちょっとビクッとなる。
「この人は、ルネ。あー……」
少し遅れてルネへと目を向けた後、ファントムは言葉を探すように視線を左右に一度ずつ彷徨わせる。
「さっきまで所属してたパーティのリーダーだ」
『あー……』
ファントムの言葉に、一同は何とも言えない表情となった。
納得、同情、共感……それから、嫉妬。
ルネが感じ取った感情は、そんなところである。
「追放したばっかにしちゃあ、随分と親しそうじゃねぇか? なぁ?」
多種多様な女性陣の中にあってもダントツにガラの悪い女性、ルーが睨めつけるような目をファントムとルネに向けた。
「ちょっと、相談に乗ってもらってたんだよ。パーティから追放されないようにするにはどうすればいいのか、ってさ」
『っ……!』
冗談めかしたファントムの言葉に、一同は大なり小なり反応を示す。
「なるほど、相談役として仲を深めていくという手も……」
「追放しておきながら相談を受ける面の厚さ、流石にその発想はなかったな……」
「卑しい……卑しい女ですわ……」
なお、概ね好意的な反応とは言えなかった。
「あー……っと。ところでさ」
そんな中、頬を掻きながらぎこちなくファントムが切り出す。
「さっきから皆、俺を何かに誘ってくれてる感じに聞こえるんだけど……」
それは、ルネの目から見ても間違いないと言えた。
「もしかして俺をもう一度、君たちのパーティに……」
『それはお断りします』
「そうなの!?」
そして、一斉に揃った返答もまたルネが間違いないと思った通りのものである。
「まぁ、そうだろうさ……」
ルネは、口の中で転がすように小さく呟いた。
思い出すのは、自身のパーティメンバーたちだ。
先程、ファントムに語った言葉と共に。
──セリーナは、最近いっつも「わたくしのバフなんて、ファントムさんに比べればカスですが……」って言いながら魔法かけてくれんだぞ!? ちょっと前まで、「世界で三指には入るわたくしの補助魔法を受けられること、光栄に思いなさい」が口癖だったのにさぁ!
かつて高飛車だった少女がファントムに向ける、卑屈な……けれど、確かな熱を持った目を。
──元々引っ込み思案だったヴェリスなんて、今や物理的に盾の向こうに引っ込むようになっちゃったよ! 「ボクがいなくても、ファントムさんが全部防いでくれるんでぇ……」ってさ!
今まで以上に顔を見る機会が減った少女の、たまに見えればいつだってファントムに向けられている憧れの視線を。
──リュナに至っては、熱心なモリフィナ教だったはずがいつの間にかファントム教に宗旨変えしてやがる! 「信じれば、私もいつか死人を生き返らせられるように……!」とか祈ってる時の目はだいぶイちゃってるよ!?
元は穏やかだった少女が、開ききった瞳孔と共にファントムへと向ける狂信の表情を。
……それから。
──かく言うオレだってね!? かなりキてるからね!? 剣士としての腕も負けてれば、ひとたび指示させればこっちよりよっぽど的確ってさぁ! 自信なくすってレベルじゃないんだよねぇ!
そうファントムに語ってみせた自分だって、嗚呼。
確かに存在するのだ……彼への、特別な感情が。
ダジョンで見るそ彼の姿は、いつだって頼りになった。
命を救われたことだって、一度や二度のことではない。
仲間に対するもの以上の感情を抱くのに、そう長い期間は必要なかった。
ルネにとっても……恐らく、他のメンバーにとっても。
「ぶっちゃけ、パーティ追放の一番の理由ってそれだもんなぁ……」
誰が、ファントムの隣にいるに相応しいのか。
いつしか、そんな雰囲気がパーティ内に漂い始め……それが顕在化する前に、ファントムの追放を決めた。
他のパーティでも、同じことが繰り返されていたとすれば。
再度ファントムを加入なんてさせようものなら、今度こそパーティが崩壊することは必至だろう。
果たして、本人にその認識があるのかと目を向けてみれば。
「なぜ、俺はパーティを追放されてしまうんだ……」
頭を抱えており、全く想像も及んでいないようである。
「そういうトコなんだよなぁ……」
これは、『万能のファントム』……あるいは、本人の預かり知らぬところで『パーティクラッシャーのファントム』とも呼ばれた男が。
無事に、パーティを組むまでの物語……。
「だーかーらー! 師匠は、ボクの師匠なんだっての!」
「は? モンフルール家の次期当主ですが?」
「おいおい、ファントムはアタシと田舎で畑を……」
「私がぁ、ファントムさんの生活をぉ……!」
「自分と幸せな家庭を……」
「アタイと一緒に、商人の頂点を目指して……」
「某の伴侶として……」
「お兄ちゃん、義理の妹とは結婚……」
「ウチが元の世界に戻る時には、ファントムっちも一緒に……」
「貴様が望むのならば、魔の神を討つことも……」
……それが果たされる日が来るのかは、定かではない。
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本日、新シリーズ『オタクがギャルを助けたら、一緒に暮らしながら最強のダンジョン配信をすることになりました』も投稿開始致しました。
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