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エピローグ

 少しの時間が経った。

 ラクトがもたらした証拠は、ヴァルガドを大混乱に陥れた。なにしろこれまでヴァルガドを守ってきてくれた筈の英雄が、上司を殺し、裏で鬼とやりとりをしていたというのだから。ラクトは軍、ギルド、警察にそれぞれ持ち込んだ為にもみ消される事も無く、街を揺るがす大事件として連日ニュースになった。


 あまりにも騒がしくなった為、ラクトは外出を禁じられていた。良くも悪くも多少は名が知れていたラクトが、ロイドの事件と関わっているというのはそれなりにスキャンダラスだったのだ。

 そうして引きこもっている間に急速に事態は進み、収束していったらしい。政治的な動きがどうとか、軍の面子がどうとか、市民を騒がせるのはどうとか。上の方では色々とあったらしいのだが、それらにも色々とけりが付いたとかで、ようやくラクトは外出ができるようになったのだ。

 ちなみに副隊長であったオランドはロイドとの関係つまり彼の悪事に手を貸していたのではないかと疑われ、厳しい取り調べを受けているらしい。今後彼がどうなるかは分からないが、仮に無関係だと認められて無罪放免となったとしても、少なくともロイドを失った以上、軍の中で生きていくには多少のハンディを負う事には成っていくのだろう。


 自宅に籠っている時に、ラクトはロイドの死体が見つかった事を聞いた。遺体は損傷が激しく、はぐれ鬼か何かに殺された後に、魔獣に食い散らかされたのではないか、という話だけは聞いた。

 それを聞いた時には少しだけ心が痛んだが、それはロイドの死というよりも、自分が彼を取り逃さなければ司法の裁きを受けさせる事が出来たかもしれない、という自分のミスに関する悔恨だった。


 その場にいたとは言え、怪我をして集中力が削がれていたというイーシャにラクトは責任を被せる発想は無かった。何せ彼女は左腕を骨折するという大怪我をしていたのだから。

 ……だが実の所、イーシャはロイドが逃げ去るのには気づいていたが、同時に遠くにいたロダが彼を追っている事にも気づき、その行く末を察した為に黙っていただけなのだが、それをラクトは知る由もない。


 ――ラクトの復讐が終っても、彼のパーティメンバーとの関係はそう変わらなかった。


 すぐに病院に行き左腕を治療したイーシャは、何故かいつも以上にニコニコとしていた。そして"これからは勁力の修行も頑張るんよ"とやる気を出していたが、ラクトからするとそこまでに大変な事件に巻き込まれていたのだから、前からやる気を出してくれていても良かったのにとは思ったが、さすがにそれは口にしなかった。

 ゴードンも前と変わらない。AX2のメンテナンスにもお金はかかるのだから、これまでと同じようにお金を寄越せというのはやはり守銭奴なのは本当なのだろうなとは感じさせた。とは言え、少しは残してくれる気もあるらしいとラクトは最近気づいた。


 そしてララである。ララは大変なお冠であった。

 何故ならば、最後の決戦に関しては一人蚊帳の外に置かれていたからだ。

 それはラクトのみならず、ゴードンとイーシャも同様なので、三人で必死にララの機嫌を取ったものだ。


 そしてララの機嫌を直す為に一つララ本人から提案された事があり、その為に今、ラクトはギルドのヴァルガド支部を訪れていた。

 小さい部屋に通され、ララと共に座る椅子の、机を挟んだ反対側にいるのは、リンダだ。

 そう、ララからの機嫌を直す条件とは、リンダとラクトの仲直りだったのだ。


(き、気まずい……)


 言われた時、ラクトはかなり渋った。だがララに色々と責められた結果、渋々同意させられて連れてこられたのだ。

 ラクトがギルド支部に来たのは、ロイド告発の証拠を持ち込んで以来である。勿論、その時はその時で色々あったのだが、それはギルドメンバーとしての正式な働きではあったから、そこまで気にしていなかった。

 しかし今回の目的はリンダとの仲直りである。仕事モードになる事もできず、ラクトはひたすらに気まずい空気の中にいた。

 何しろ前回は「大嫌い」とまで言われてしまった相手である。悪かったのは自分であるという反省はあるものの、そうまで思わせてしまい言わせてしまった相手と仲直りとは、どうすればいいのかとララの思惑を知りたいところだったが、今ここで聞くわけにもいかない。

 そして同時に、ずっとこのまま気まずい空気で固まっている訳にもいかない。


(ええい、やるしかない!)


 そう気合を入れて、ラクトはまず勢いよく頭を下げた。


『ごめんなさい!』


 ……声が重なった。勢いよく頭を下げ謝罪の言葉を口にしたのはリンダもだった。

 二人ともが同時に頭を下げた為、何が起きたのかが分からずに二人同時に頭を上げて視線を合わせてポカンとしてしまった。


 そしてしばし、先に動いたのはリンダだった。


「その、本当に申し訳ありません。前回の時は、その、ギルド職員としてあってはならない態度でした。申し訳ありません」


 そう言ってリンダは再度キッチリと頭を下げた。

 ――よくよく聞いてみれば、ラクトでも納得できた。

 前回の態度はラクトが悪いにせよ、最後に「嫌いだ、大嫌いだ」などと感情的に叫んでしまったのはリンダも職員としてやってはいけない事だった。

 しかもラクトが持ち込んだ"鬼が攻めて来る"というのは結果的には真実だったのだ。ラクトが自分で収めたから良かったものの、本来はラクト本人が言っていたようにギルドメンバーに招集をかけて立ち向かうべき案件であり、それを持ち込んだ本人の言葉をまともに聞かずに、感情的になって追い返してしまったのである。

 一歩間違えればヴァルガドに大変な被害が出ていたかもしれない件である。当然ギルドとしても問題となったが、それよりもそれを持ち込んだラクトに対する対応も問題とされた。

 それまでのラクトの対応から、リンダが感情的になっていた事に対しては、他ギルド職員も多少同情的だった。が、それはそれとしてリンダが問題を起こしてしまった事も確かだし、その問題児であるラクトに対する対応をどうすべきかについても議論が紛糾した。

 その結果が、リンダ本人に罰も含めてラクトの担当を続行させる、というものである。より正確にはラクト本人の要望を聞きだすことだ。そんな状況にリンダは追い込まれてしまっていたのである。

 当然、リンダとしては生きている心地もせずに、ひたすらに断罪される気分だったのだという。


 そう聞けば彼女の態度も分かるが、それにしたって居心地が悪い気分なのがラクトである。"こんなにもリンダさんを追い込んだの!?"というような激しい目で隣に座っているララがこちらを睨んでくるのだ。

 さすがにこれは無視して通る訳にはいかない。

 少し考え、覚悟を決めたラクトは、もう一度頭を下げた。


「いや、こちらこそ申し訳ない。その、これまでの俺の態度は悪すぎた。だから、前回みたいな対応をされても仕方ないなと思うわけで。だからその、俺の言葉を信じてもらえなくても無理は無かった、と思う。リンダさんに問題は無かったと思うし、悪かったとしてもそれは結果論であって、ギルド担当として悪かったという事じゃないというか。……いやその、だから、あー。……この件ではリンダさんを責める気は無いです。悪いのは俺でした。これまで本当に申し訳ありませんでした」


 家で考えては来たものの、長ったらしい割には時折引っかかるし。綺麗な謝罪ではなかっただろう。が、それでもラクトからの謝罪というのがあまりにも青天の霹靂だったのだろう。リンダはその目を大きく見開いていた。


「え、本当? 本当にこの件ではもう怒って無いんですか!?」

「ええ、本当です」

「本当に本当?」

「はい」

「本当に本当に本当?」

「……はい」

「本当に本当に本当に本当?」

「…………そろそろ怒りたくなって来ましたけど」


 そうラクトが言うと、慌ててリンダが身を引いて手をワタワタと振り回した。


「いえ、その、すいません。信じられなくて、あ、そうじゃなくて。本当にごめんなさい!」

「いやいいですよ。それもこれも俺が悪かったんですし」

「でもでもやっぱりあたし、ギルド職員としてはやっぱり失格で――」


 何やら色々責められでもしたのだろうか。リンダがやはり段々と落ち込んでいく。それを見てラクトは逆に落ち着いてきてしまった。自分より慌てている人間を見れば却って冷静になるという奴だろうか、とラクトは思った。

 だから、と少し考えるとラクトは片手を差し出した。


「あなたがギルド職員としてやっちゃいけない対応をしたというのならば。僕も一人のギルドメンバーとしてやっちゃいけない事をしてきた。……だから一回その事は忘れません?」

「え? もう一回、最初から始めましょうよ。僕の名前はラクト・ディセル。機装士です。あなたは?」

「え、は、はい! 私はリンダです! ギルドのヴァルガド支部で受付をやらせてもらってます!」


 そう言ってリンダは勢いよくラクトの手を掴んだ。それは新しい始まりの象徴で。


「ここからもう一回関係性を始めましょうよ。なんか歪んでしまった過去の関係は一回水に流して。ここから改めて」

「はい、はい、はい!」


 ラクトの言葉にリンダが強く頷き、繋いだ手をブンブンと振る。その横でララがしたり顔で、にこやかにこの様を見守っていた。


 ――ラクトの復讐は終わった。

 それに縛られた生き方も、仕事の仕方も、そしてあり方も変わる。


 リンダに握られた手に感じる温もり。それこそが新しい道への一歩であると、ラクトは感じた。


***


 氷雪大陸ノーゼシアのカストール地方の大陸中央寄り。そこに大陸を統べるシルヴァリア連邦共和国の首都ポルクスがあった。

 その議長府の一室で、一人の男が机に向かって書類仕事をしていた。

 ギリアム・バタリスク。シルヴァリア連邦共和国の最高指導者である議長の座に就く、若き政治家である。まだ31才という若さでその座につき、国の内外からの人気も高い。


 そんな彼が、眼にした一つの書類を取り出して首を傾げた。


「うん? ロイド・ゴーカイト……どこかで聞いた事があった気がしたけど、誰だっけ? 死んだって書いてあるけど」

「ヴァルガドの英雄と呼ばれた方ですね」


 返答したのは同じ部屋でギリアムと同様に書類仕事にあたっていた秘書である。彼女はギリアムが読んでいる書類の事を思い出しながら言葉を続けた。


「確か、その手法が不正であった事が発覚したとか。しかもよくよく調べたところ鬼と結託し、特定のケイブを襲わせては、自分で救って見せて英雄を演じてみるというマッチポンプもやっていたようです。詳細は不明ですが最期は任務を放り出して一人で移動していた所を魔獣に襲われたとか」

「あー、そうか。バレちゃったのかー」

「……彼の不正についてご存じだったのですか?」

「いや。でも彼の経歴があまりに不自然だったからね。思い出したよ。でも人気取りだけは得意だったみたいだからね。期待してたんだけどね」

「期待、ですか?」


 秘書からの疑問にギリアムはわざとらしく手を広げ、そして秘書に向かってパチリと指を鳴らして見せた。


「そうだよ。僕はスターを求めてるんだ。彼ならそれになってくれるかもしれないと思ったのにね」

「スター、ですか? アルメリアのヒーロー制度みたいなものですか?」


 アルメリア大陸にある聖アルメリア合衆国では、強力な力を持つ者達をヒーローとして登録させて国で後押しをし、ヴィランと称する犯罪者達に対する切り札として用いているという話があった。国民からの人気も絶大なのだとか。


「あー、違うよ。あれは国の手が入っちゃってるからね。そうじゃなくてもっと民間から出てくれるのが良いのさ。そうしたら人気でそうだろ? 旧元老院のお歴々も手を出せないのが国民からの人気って奴さ」

「……我が国には元老院というシステムは過去のものであり、現在は存在しません」

「硬いなー。だから旧ってつけたじゃん。じゃあ古き権力者の方々、でもいいよ? まあでもどっちにしろ、僕が望んでるのはそうした国の息がかからない人気者さ。今は隠れていたカヴァーンが見つかって、色々バタバタしてるんだ。もうちょっと付け込めるようになると思うんだよね」


 ケイブが一つの村や町を指すとすれば、カヴァーンは大都市を指す。大きな洞窟をベースとするカヴァーンは、ノーゼシア全土に12個あるとされて来たが、少し前に隠れていた13番目が見つかったと話題になっていたのだ。

 秘書は"付け込める"という言葉の真意に突っ込むことなく、口をつぐんだ。ギリアムの軽口に付き合っていてはいられない、とでもいうように。


「で、こっちは告発者の情報か。若いなー。でもこの子もスター候補かもな」


 ラクトについての情報が整理された書類を眺め、そしてそれを別のフォルダに入れながら、ギリアムは小さく呟いた。


「でも、AX2って機体。あれ、ちょっと性能良すぎるな。――――僕が目をつける前に、誰かが唾をつけていたのかな?」


***


 ヴァルガドの外れ。いつもの自分の倉庫で、ゴードンはAX2のメンテをしていた。

 何と言っても先日初めて動かしたばかりの機体は、ゴードンでも想定していなかった場所へのダメージがありそうで、そこらのチェックにゴードンは少し時間を使っていた。


 と、コンコンと倉庫の扉をノックする音が聞こえる。目をやるとそこにいたのは、もうすっかり顔なじみとなった狐目の営業マンだ。


「およびと聞きまして」

「おう、まぁここ座れや」


 ゴードンは彼に席を勧めると、冷蔵庫の中から取り出した茶をグラスに注ぐと彼の前のテーブルに置いて差し出した。


「これはどうも。……で、本日は何をご所望ですか? ゴードン様はお得意様ですから、こちらも頑張らせていただきますよ」

「実はな、お前さんに聞きたい事があったんだ」

「聞きたい事ですか? 何かの商品の情報であればカタログをお見せしますが――」

「お前さん、何者だ?」


 彼の言葉を遮ってまで差し込まれたゴードンの言葉に、一瞬の静寂が生まれる。だが彼はすぐさまそれを打ち消すように笑って見せた。


「何を言ってるんですか? 私はあなたがお望みになる商品をお届けする、言わば商人ですよ。これまでお納めしたものにもご満足いただけていると思いましたが……何かご不満な点でもございましたか?」

「いや、お前が持ってくる商品はどれもこれも完璧だった。……完璧すぎて違和感があるほどにな」

「どういうことでしょう?」

「確かに俺は、あんまり世俗の事には詳しくねぇよ? 色々な魔導パーツだってお前さんからもらうカタログから情報を貰ってる。……けどな、異常すぎるんだよ」

「と、言いますと?」

「安すぎる。BtoBでもあんな値段で出ねぇよ。おかげでAX2に使われているパーツは、どこの金持ちの道楽だってぐらい凄いものになっちまった。まぁそれでも、商品の質は確かだったし、そこのチェックだけしてりゃ安い値段で良い物買えるだけなら聞きゃしなかったんだが……」


 ゴードンは傍らから一つの封筒を取り出した。中から一枚の書類を抜いて彼に見える様に提示する。


「これは……AX2の認可が下りた、という事の証明書ですか?」

「ああ」


 彼が言うように、ゴードンが示したものはAX2について国に認可を申請して、それの結果が出たという書類だった。


 個人が単に機械いじりをするだけであれば問題は無いのだが、魔導機装の様な類をノーゼシアで動かすにあたっては国の認可が必要になるのだ。もしそれが無ければ武器の密造になってしまう。

 AX1の時にはゴードンはラクトに諦めさせる狙いもあったので、殊更ゆっくりと審査を進め、無事に認可が下りていた。

 だがAX2は違う。AX1からのフィードバックを反映させたり、機能を実現させる為に尽力したり、そして何より急なAX1の破壊により引っ張り出されたり。とかく時間が無かったので、AX2の申請については大分後回しにされていたのだ。


「AX1はジャンク品の寄せ集めだから、まぁ大した値段はかけてねぇし、認可が下りるのも分かる。だけどな、AX2は立派すぎるパーツをふんだんに使ったワンオフ機だ。どうしたって審査に時間がかかる筈だし、それにそもそも出すタイミングが遅せぇ。俺が出したのはラクトがAX2で大暴れした後だったからな。正直、俺は自分が武器密造で捕まる覚悟だってしてたさ。……それがこれだ」


 トントンとゴードンは書類の一部を指で示した。審査の申請日と認可日。それはどちらも、ラクトがAX2を使う前の日付になっていた。


「なあおい、おかしいよな? 俺が提出した書類が書き換えられて、お咎めなしになってる」

「――それが、私の仕業だと?」

「今回の件は軍の面子も潰してるし、政治的にも良くねぇだろ。ギルドが介入できるところでも無い。俺はむしろ逆に余計な罪に問われる心配の方をしてた位だ。……なら誰が手を回した? 俺に手を貸して得するのは誰だ? ……俺にはお前しか思いつかなかった。お前しかいねぇんだよ」


 ゴードンは立ち上がった。その手にはいつの間にかスパナが握られており、眼はギョロリと狐目の営業マンを睨んでいた。


「お前、何者だ? 儲けが絶対に出ねぇ商品取引をしただけじゃ飽き足らず、国に出した書類さえも書き換えちまう。――怪しすぎんだよ、お前」

「そんな、誤解です。私は――」

「認可について知らぬ存ぜぬを通してもな、商品の値段についてはいくらだって調べられんだよ。それに俺は調子にのって、パーツだけじゃなくて作る為の高級な機材だって頼んじまったしそれも手に入っちまった。これはもう商品売買じゃなくて、出資のレベルになってんだよ。誤魔化しはいつまでも通じねぇぞ」


 一触即発。そんな言葉が出るくらいには工場には緊張感が溢れている。

 そして狐目の営業マンが気づくと、ゴードンの傍らにはいつのまにかイーシャが佇んでいた。彼女は冷たい目で、油断なく彼を見つめていた。彼もイーシャの戦闘力は知っていた為、気づかれないように護衛までつけていたとなると無理はできないと判断せざるを得なかった。


「まいりました。こちらも少々図に乗っていたようです。軍に属していた時に使えたような、頼めば出てくると思うような金銭感覚だったのかと――」

「おい、さすがに馬鹿にしすぎだろ」

「いえいえ、私は止めたのですが私の上司が。良いからやってしまえとそういう訳でして」


 もうすっかり諦めたのか雰囲気が砕けた彼に、ゴードンは眉根を寄せる。


「上司? お前に上司がいたのか?」

「そりゃそうですよ。私は一介の営業マンです。ただの使いっぱしりですよ」

「そうは思えねぇけどな。……それで、その上司とやらは誰で、何を俺に望んでやがんだよ。訳が分からなくて気持ち悪すぎる。もしこのまま黙ってるつもりだったら――」


 ゴードンが視線を送ると、イーシャが無言で半歩だけ前に出た。彼女の目は冷徹であり、絶対に逃がさないという意志を感じさせるものだった。


「いえいえ、こうなったら説明させてもらいますよ。ただ……信じてもらえるかが分からなくて」

「そりゃ聞いてから判断する」

「というのも嘘に聞こえるからなんですよ。でも……嘘じゃないんです、信じてください。これから言う事は紛れもなく本当のことなんです」

「……良いから言ってみろ」


 あまりにも必死な、そうゴードンにも感じられる程に、狐目の彼は必死に言い募った。自分のこれから述べる言葉がいかに信じられないか分かっているかのように。

 それでも覚悟を決めたのか、彼はコホンと一つ息をついてから語り始めた。


「まず私の上司の目的は、ゴードンさんにあるものを作って欲しい事です。が、まだ材料が手に入っていない為に声を掛けられなかった。その内にゴードンさんが軍を辞めてしまい、魔導機装に触れなくなってしまいました。それはまずい、と。腕を錆びさせてもらっては困る。どうにかしてサポートして、ゴードンさんには最新の魔導機装の技術を習得し続けていて欲しい。そう思った時に現れたのがラクト君です。ゴードンさん。あなたはラクト君の為に、久しぶりに魔導機装の技師に戻ってくれた。それはとても僥倖でした。ようやく私達があなたをサポートできるようになったのですから」


 ゴードンの眉がピクリと動く。その話が本当ならば、彼はゴードンを五年以上前から見ていた事になる。だが軍を辞めたゴードンに下手に接触して、関係をこじらせてしまうと問題だからとタイミングを見計らっていたというのだ。


「その意味では私達はラクト君には大変感謝しております。……それに、ラクト君の才能についても驚かされました。もしかしたら彼もまた、我々の目的に協力してもらえたら、と」

「――おい。あいつまで巻き込む気か?」


 ゴードンの声に怒気が篭る。ここまで彼の言葉を聞いていて全部を信じるとしても、どうしたって後ろ暗い所があるようにしか聞こえない。

 それにラクトを巻き込むとなれば、さすがにゴードンも黙っていられないと口を挟んだのだが、狐目の営業マンの彼はまたしても慌てて必死に言いつくろった。


「いえいえいえいえ、違います違います。あ、いえ、協力して欲しいかもというのは本当ですが。ただ、我々の最終目的は決して悪ではありません。むしろ社会正義100%だと言えますよ!」

「……むしろもっと胡散臭くなったな。認可の件も合法だったっていうのか?」

「あーいえ、それはその、すいません。それは確かにちょっと、裏の手を使ったかもしれませんが。でもでも、最終的な目標が社会正義である事は間違いありません。むしろこれを邪魔する事こそが悪だと言える程度には」


 胸を張って語る彼に、ゴードンは少し毒気を抜かれた。


「で? その最終目的ってのはなんだ? それに、結局上司ってのは何者だ?」

「最終目的についてはすいません、まだ進められないし情報漏洩の心配もあるので語れないのですが……上司についてですが、お二人は賊王というのは聞いた事がありますか?」


 言われてゴードン、それにイーシャは少しきょとんとしてしまった。それは昔の伝説、それこそおとぎ話に出てくるような人物の話だった。


「そう。かつて空賊、海賊、山賊などが跋扈した時代に、それらを全て支配下にして裏社会のトップに立った男。それが賊王と呼ばれた男です」

「大昔の話だろうが。実在したかも怪しいって言う」

「そうですそうです。が、実はこの名前は襲名性でして。歴史の表舞台には出ませんでしたが、実は今日までずっと受け継がれているんですよ」


 その言葉にゴードンは話の終着点に気づく。そのあまりの荒唐無稽さにも。

 だがその"信じられない"という反応こそが彼の想定通りだったのだろう。

 狐目の営業マンは殊更慇懃に姿勢を整えた。


「おいまさか……」

「そうです。脈々と受け継がれてきた名前。それを現代において受け継いだ現在の賊王、メレト。――それが私の上司です」


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