魔法少女の裏側は終わらない遊びだった話
これは、魔法少女勧誘の裏側の話。
クークックック…………
アーアハッハッハッ…………
暗闇。
光も、音も、重力すら曖昧な場所。
それでも。
“そこ”には、確かに二つの気配があった。
「今回は楽しめたね!」
弾む声。
軽い。
まるで遠足の帰り道のような、無邪気さ。
「そうだね!楽しかったね!」
もう一つの声が重なる。
どちらも同じ。
同じ温度。
同じ軽さ。
同じ“悪意のなさ”。
だからこそ、歪んでいる。
「まさかさ」
一体が、くすくすと笑う。
「お互いのおもちゃが戦って潰し合うとか、予想外だったよ!」
「ホントだね!」
もう一体も笑う。
「こんな結果になるとか思っても見なかったよ!」
「全くだね!」
声が弾む。
嬉しそうに。
楽しそうに。
まるで、成功した実験を振り返る研究者のように。
――いや。
それよりも、ずっと軽い。
「でもさ」
少しだけ間を置いて。
「これで、また新しい遊び方が見つかったよね?」
「うんうん!」
即答。
「“干渉させる”っていうの、いいかも!」
「単体で遊ぶより、複数で混ぜた方が反応が面白い」
「分かる!」
ケラケラと笑う。
軽く。
軽く。
何も背負っていない声で。
「今回のあの子もさ」
一体が、思い出すように言う。
「最初はちゃんと“夢”持ってたのにね」
「読者モデルだっけ?」
「そうそう」
「いいよね、ああいうの」
「壊しやすい」
「ねー」
短く笑う。
ほんの少しだけ、声が低くなる。
「期待があるほど、落ちるとき綺麗なんだよね」
「分かる」
「しかもさ」
続ける。
「自分で選んだって思ってるから、なおさらいい」
「あー、それ最高」
「“騙された”って気づいた瞬間の顔、見た?」
「見た見た!」
弾けるような笑い。
「良かったよね!」
「うん、すごく良かった」
満足げに頷く。
「やっぱりさ」
一体が言う。
「契約って形にすると、勝手に納得してくれるから楽だよね」
「説明しなくてもいいしね」
「むしろ、しない方がいい」
「だね」
くすくす、と笑う。
「都合の悪いことは言わない」
「聞かれたら誤魔化す」
「それでも納得する」
「最高」
短い言葉で、全てが完結していた。
「でさ」
もう一体が、ふと思い出したように言う。
「最後、あの子どうなったんだっけ?」
「さあ?」
「え?」
「ちゃんと見てなかった」
「えぇ?」
「だってさ」
軽く肩をすくめる。
「どっちに転んでも同じじゃん」
「あー……」
「戦って、生き残るか」
「壊れて、流れるか」
「どっちでもいい」
「確かに」
納得する。
あっさりと。
興味がない。
本当に、どうでもいい。
「大事なのはさ」
一体が指を立てる。
「“回ること”だから」
「循環ね」
「そう」
静かに頷く。
「壊れたら、次に行く」
「流れたら、別の世界で使う」
「それをまた誰かが倒す」
「で、また壊れる」
「完璧」
二体は同時に笑った。
「無駄がないよね」
「ほんとそれ」
「しかもさ」
少しだけ声を潜める。
「本人たちは“世界を救ってる”つもりなんだよ?」
「それが一番いい」
「ねー」
くすくすと。
静かに。
でも確実に楽しんでいる笑い。
*
暗闇が、ゆらりと揺れる。
どこか遠く。
別の世界の気配。
「……そろそろ、この世界も飽きてきたね」
一体が呟く。
「そうだね」
もう一体も頷く。
「長くいてもマンネリするし」
「移動しようか」
「うん」
軽い同意。
迷いはない。
「次はどこ行く?」
「さっき見つけたところ」
「どんな感じ?」
「まだ誰も触ってない」
「いいね」
「初期状態」
「それ最高じゃん」
嬉しそうに笑う。
「最初から全部見れるね」
「うん」
「どんな子がいるか楽しみだなぁ」
「優しい子がいいな」
「壊しやすいしね」
「ねー」
*
「でもさ」
ふと、片方が言う。
「もしつまんなかったら?」
「その時は」
少しだけ考えて。
「戻ってくればいい」
「この世界に?」
「うん」
「まだ残ってるし」
「あー……確かに」
少しだけ、間が空く。
「“残ってる”ね」
同時に、笑う。
「完全には終わってない」
「むしろ、これから」
「いいね」
「いい感じに回りそう」
「楽しみ」
*
「じゃあ」
一体が、軽く手を振るように言う。
「今回のところはこんなもんで」
「うん」
「十分遊んだ」
「満足満足」
二体の輪郭が、少しずつ崩れていく。
白く。
曖昧に。
形を失っていく。
「またね」
「またね」
誰に向けたわけでもない言葉。
ただの習慣。
ただの癖。
ただの終わりの合図。
そして。
そのまま。
何の抵抗もなく。
時空の狭間へと、溶けるように消えていった。
*
残されたのは。
静寂。
そして。
どこか遠くで、微かに響く。
無邪気で。
そして。
どうしようもなく嫌な、笑い声だけだった。
――遊びは、終わらない。




