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魔法少女の裏側は終わらない遊びだった話

作者: 兎山紬
掲載日:2026/04/08

これは、魔法少女勧誘の裏側の話。


 クークックック…………


 アーアハッハッハッ…………


 暗闇。


 光も、音も、重力すら曖昧な場所。


 それでも。


 “そこ”には、確かに二つの気配があった。


「今回は楽しめたね!」


 弾む声。


 軽い。


 まるで遠足の帰り道のような、無邪気さ。


「そうだね!楽しかったね!」


 もう一つの声が重なる。


 どちらも同じ。


 同じ温度。


 同じ軽さ。


 同じ“悪意のなさ”。


 だからこそ、歪んでいる。


「まさかさ」


 一体が、くすくすと笑う。


「お互いのおもちゃが戦って潰し合うとか、予想外だったよ!」


「ホントだね!」


 もう一体も笑う。


「こんな結果になるとか思っても見なかったよ!」


「全くだね!」


 声が弾む。


 嬉しそうに。


 楽しそうに。


 まるで、成功した実験を振り返る研究者のように。


 ――いや。


 それよりも、ずっと軽い。


「でもさ」


 少しだけ間を置いて。


「これで、また新しい遊び方が見つかったよね?」


「うんうん!」


 即答。


「“干渉させる”っていうの、いいかも!」


「単体で遊ぶより、複数で混ぜた方が反応が面白い」


「分かる!」


 ケラケラと笑う。


 軽く。


 軽く。


 何も背負っていない声で。


「今回のあの子もさ」


 一体が、思い出すように言う。


「最初はちゃんと“夢”持ってたのにね」


「読者モデルだっけ?」


「そうそう」


「いいよね、ああいうの」


「壊しやすい」


「ねー」


 短く笑う。


 ほんの少しだけ、声が低くなる。


「期待があるほど、落ちるとき綺麗なんだよね」


「分かる」


「しかもさ」


 続ける。


「自分で選んだって思ってるから、なおさらいい」


「あー、それ最高」


「“騙された”って気づいた瞬間の顔、見た?」


「見た見た!」


 弾けるような笑い。


「良かったよね!」


「うん、すごく良かった」


 満足げに頷く。


「やっぱりさ」


 一体が言う。


「契約って形にすると、勝手に納得してくれるから楽だよね」


「説明しなくてもいいしね」


「むしろ、しない方がいい」


「だね」


 くすくす、と笑う。


「都合の悪いことは言わない」


「聞かれたら誤魔化す」


「それでも納得する」


「最高」


 短い言葉で、全てが完結していた。


「でさ」


 もう一体が、ふと思い出したように言う。


「最後、あの子どうなったんだっけ?」


「さあ?」


「え?」


「ちゃんと見てなかった」


「えぇ?」


「だってさ」


 軽く肩をすくめる。


「どっちに転んでも同じじゃん」


「あー……」


「戦って、生き残るか」


「壊れて、流れるか」


「どっちでもいい」


「確かに」


 納得する。


 あっさりと。


 興味がない。


 本当に、どうでもいい。


「大事なのはさ」


 一体が指を立てる。


「“回ること”だから」


「循環ね」


「そう」


 静かに頷く。


「壊れたら、次に行く」


「流れたら、別の世界で使う」


「それをまた誰かが倒す」


「で、また壊れる」


「完璧」


 二体は同時に笑った。


「無駄がないよね」


「ほんとそれ」


「しかもさ」


 少しだけ声を潜める。


「本人たちは“世界を救ってる”つもりなんだよ?」


「それが一番いい」


「ねー」


 くすくすと。


 静かに。


 でも確実に楽しんでいる笑い。


     *


 暗闇が、ゆらりと揺れる。


 どこか遠く。


 別の世界の気配。


「……そろそろ、この世界も飽きてきたね」


 一体が呟く。


「そうだね」


 もう一体も頷く。


「長くいてもマンネリするし」


「移動しようか」


「うん」


 軽い同意。


 迷いはない。


「次はどこ行く?」


「さっき見つけたところ」


「どんな感じ?」


「まだ誰も触ってない」


「いいね」


「初期状態」


「それ最高じゃん」


 嬉しそうに笑う。


「最初から全部見れるね」


「うん」


「どんな子がいるか楽しみだなぁ」


「優しい子がいいな」


「壊しやすいしね」


「ねー」


     *


「でもさ」


 ふと、片方が言う。


「もしつまんなかったら?」


「その時は」


 少しだけ考えて。


「戻ってくればいい」


「この世界に?」


「うん」


「まだ残ってるし」


「あー……確かに」


 少しだけ、間が空く。


「“残ってる”ね」


 同時に、笑う。


「完全には終わってない」


「むしろ、これから」


「いいね」


「いい感じに回りそう」


「楽しみ」


     *


「じゃあ」


 一体が、軽く手を振るように言う。


「今回のところはこんなもんで」


「うん」


「十分遊んだ」


「満足満足」


 二体の輪郭が、少しずつ崩れていく。


 白く。


 曖昧に。


 形を失っていく。


「またね」


「またね」


 誰に向けたわけでもない言葉。


 ただの習慣。


 ただの癖。


 ただの終わりの合図。


 そして。


 そのまま。


 何の抵抗もなく。


 時空の狭間へと、溶けるように消えていった。


     *


 残されたのは。


 静寂。


 そして。


 どこか遠くで、微かに響く。


 無邪気で。


 そして。


 どうしようもなく嫌な、笑い声だけだった。


 ――遊びは、終わらない。

 

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