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魔族の子  作者: 高野倉けいし


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2/2

魔族の子 2

 翌日。風が強く、雨が降りそうな悪天候だったが、昨日の魔族の子の事が気になって、カラムはまた森の奥へとやってきた。あの子はちゃんと外にでれただろうか?

 穴を覗いてみて驚く。魔族の子は穴の底でぐったりと横になっていた。まさか、まさかと思い、


「おい、大丈夫か?」


 つい、声をかけてしまった。

 子供は動物のように素早く顔を上げてカラムを見た。

 子供はよろよろと立ち上がり、穴に差し込んだ倒木を登ろうとするがうまくいかない。

 よくよく見てみると、足を庇っているようだ。


「お前、怪我をしているんだな?登ってこれんか?」


 カラムの問いかけに魔族の子は答えない。


「言葉わからんよな?まいったなぁ」


 しばらく考えて、ロープの先を丸く結んで穴に投げ入れてみた。

 子供はすぐにロープを掴んだ。


「ロープの輪っかを体に巻き付けんだよ。引っ張るから捕まっとけ」


 言葉はわからにため、身振り手振りである。


 カラムはゆっくりとロープを手繰り寄せ、子供を穴から助けることに成功した。


「怪我はどんな感じだ?歩けっか?」


 子供は立ち上がろうとするが、悲鳴を上げて座り込む。


「ちょっと見せてみ」


 足を触ろうとすると「シャー!」っと、威嚇をした。近くで見ると鋭い牙も爪も発光する緑色の目も人とは違い、大変怖い。


 そうしているうちに雨が降ってきて、子供を放っておくわけにも行かずに、雨宿りできそうな場所を急いで探すのだった。




 雨は激しさを増し、日も暮れてきた。

 二人は岩場の影で一夜を過ごすことになった。

 怪我をした足は触ると痛がるので添え木をして固定した。

 火を起こし、服を乾かしている間、外套を貸した。

 子供は具合わるそうだった。湯を飲ませ、食料を与えた。食事を終えると眠りだす。

 カラムは魔族の子を観察する。

 人と魔族は体の作りは同じようなものだろうが、やはり人ではない。骨格してから違う。頭や顔が小さく、形も後頭部が少し出ている。全体的に細身で手足は細く長い。人にはない鋭い牙と爪を持つ。服は泥で汚れているが元は白っぽいようだった。袖がなく、背中が開いて、膝丈の服を着ていた。

 あまりジロジロ見るのもいけないと思い、カラムは少し離れたところで仮眠をとった。


 次の日の早朝、雨は止み、陽射しが出ていた。

 魔族の子は具合が悪そうで、起き上がれない。額に触ると熱い。

 カラムは迷ったが、外套で全身を覆い、背負子に乗せて村へ向かった。

 村にいるただ1人の薬師の老婆の家に、村人に気づかれないように連れて行くと、老婆は魔族の子を見ると大変驚き怯え、魔族を村に入れるなんて!と大変怒られた。しかし、魔族の子の熱で苦しむ姿を見ると、子供が可愛そうになどと言う。薬師の老婆は昔から人が良かった。そこにつけこみ、1ヶ月間獲物が捕れたら肉を届けるという約束で治療してもらった。

 足は折れてはいないが、しばらく安静にするように布で固定する。熱冷ましの薬を飲ませ様子を見ることとなった。

 カラムの家に連れ帰り、風呂に入れ、服を着替えさせ、ベッドで寝かせ、滋養にいいものを食わせた。

 2日目になると子供は元気を取り戻した。カラムに対する警戒心は薄れたようだった。元気になってくると子供はカラムの部屋にあるものに興味津々になり、手に取ったり、引っ掻いたりと、やんちゃな部分も見せてきた。人も魔族も子供は同じようなものだなとカラムは思った。


 3日目の朝、カラムは背負子に魔族の子を乗せ、森のさらに奥へ進む。

 言葉は分からないが、魔族の子は森の奥を指差す。

 今まで足を踏み入れたことがない森の奥をカラムは進む。

 やがて、森の様子が変化していった。

 暗く、茂った森は、徐々に白い幹の木々の集まりになり、地面を覆う青々とした珍しい植物たち。空気が澄み切っていく。

 やがて、黄金色の小川にたどり着いた。水面には花と円葉が浮かび、川岸には花々が咲いている。細長く垂れ下がる枝の木が沢山生えていて、周りには光の粒がたくさん飛んでいる。よく見るとそれは小さな光る虫だった。

 美しい光景に我を忘れて見入っていると、川の向こうから魔族が数人現れた。

 青紫の肌に、濃紺の長い髪。発光する緑色の目。その中のたくましい大人の魔族が1人、前に進む。


 背負子の子供が甲高い声を出して飛び降りると、怪我した足を庇いながらも、川を飛び越え、向こう側の魔族の男に飛びついた。

 魔族の言葉は分からないけれど、喜んでいるのは分かる。

 よかった、よかったと、カラムは帰ろうと背を向けたけれど、魔族の言葉で呼び止められた。言葉は分からないけれど確かに呼び止められたのだ。カラムは振り向く。

 魔族の男は胸に手を当てて、少し頭を下げる。

 言葉ではない、頭の中に直接意識が流れ込んでくるような感覚がした。


 わたしの息子を助けてくれて、ありがとう


「いいよ、いいよ、気にすんなって」


 お礼に、あなたに森の恵みを少し分けよう


 魔族の男はカラムの足元を指差し、いくつかの草の特性を教えてくれた。日干しして煎じて飲めば様々な効能があるそうだ。

 川のそちら側までなら、カルムだけなら薬草を採取していいことになった。


「それはありがたい。早速いくつか持って帰らせてもらうよ」


 こうしてカラムは魔族の森へ入る許可を得た。薬草の効果は絶大でカラムは一財産を得ることができた。それを村の人にも分けて、生活に困ることはなくなった。

 しかし、必要以上に森に入って薬草を取ることはない。

 村の過疎化は進んでいる。いずれカラムも年老い、森に入ることもできなくなるだろう。

 あの魔族の子は元気にしているかな?時折そんなことを思い出す。



 おしまい



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