魔族の子
穴の中で助けを求めていたのは魔族の子だった。
カラムは辺境にある村の狩人である。
昔は狩人は大勢いたが、今はカラム1人。若者は皆この村を出て、残っているほとんどが年配者だけになっていた。
月に一度の行商人に、動物の肉以外の素材を売って、細々と生活をしている。
カラムも年をとった。年の割に若いと言われていたが、最近、足腰が痛い。
ずっと独り身で、村の小さな一軒家に住んでいた。
この世には、人と魔族が共存している。
魔族が住む魔境と村の間には深い森があり、それが境界線のようになっていて村人達は近寄らない。
「森に入るな。魔族がでるぞ。魔族に出会ったら食われる」
と、言い伝えられていた。
村人達は森には近寄らないが、狩人であるカラムは別だ。獲物を追って森に入って行く。しかし、森の奥に一本の大木があって、そこから先には絶対に行ってはいけないと昔から狩人達の約束事になっていた。
ある日、カラムは狩りに森へ来ていた。
獲物が取れず、森の奥のあの大木の近くまでやってきてしまった。やっと数羽の鳥を仕留めることができて、もう今日は帰ろうと思っていたときのこと、どこからか声がする。
耳をすませてみれば、それは子供の声のようだった。泣いているような、助けを求めているような声だった。
声を頼りに周りを探していると、茂った草に隠れて穴があり、穴を覗くとそこには、魔族の子供が落ちていた。
青紫の肌に濃紺の長い髪。発光しているような緑の瞳がカラムと目が合った瞬間に、鋭い歯をむき出しに威嚇してくる。
これはいけないと、カラムは思った。
魔族に会ったらすぐに逃げろ。関わるな。というのがずっと昔からの狩人の言い伝えだ。
カラムはすぐにその場から立ち去ることにした。
村に向かって早足で歩き出したカラムだったが、あの魔族の子は穴に落ちて出られないのではないかと考えが浮かぶ。
関わるな!と頭の中で誰かが叫ぶ。
しかし、穴から出られないからあの魔族の子は助けを呼んでいたのではないか?
しばらくの葛藤の後、カラムは引き返し、そっと穴を覗いて見る。
魔族の子は今度は威嚇はしなかった。穴の底で身を固くしている。カラムも怖いが、魔族の子も人であるカラムを怖いのだろう。
穴は深い。壁を登るのは難しそうだ。
カラムは周りで手頃な倒木を見つけ、それを穴にそっと斜めに降ろしてやった。これがあれば登って来れるだろう。そうしてカラムは一目散に村へと逃げ帰っていった。




