第三話「金色アンドロイドと執行委員会」
部屋には時計は無いが体感では3時間以上は経過して、ホログラフィックディスプレイには地球の美しいサバンナの映像がヒーリング音楽と共に流れる。
黄金の草原が風に揺れる中で、子象が母象に甘える心温まる映像が映し出されるが、部屋の空気は重く淀んでいた。
目的の植民予定の惑星に到着したのか、現在の宇宙船の置かれている状況など何も説明されないので、60人の荒くれ者の男達のフラストレーションは破裂寸前の風船のように溜まっていた。
一部の男達が些細なことで怒鳴り合い、胸ぐらを掴んで殴り合いを始める。
仲裁に入っにカルロスは殴られて血の味を感じながらも、必死に男たちを引き離した。
軽傷を負ったカルロスはパイプ椅子に座って、金色ボディのN-3POに擦り傷と打撲の治療を受けながら悪態をつく。
「痛てて!クソ……あのインド人とアラブ人め。本気で殴りやがって。」
カミーロとヴェルピライが怪我の治療を受けるカルロスに心配そうに見つめる中で、N-3POが治療をしながらカルロスに感謝の言葉を述べる。
N-3PO「セスセス……カルロス様。本当に…本当にありがとうございます!
僕は秘書・接客・通訳・メンタルケア・養育・介護・家事・医療などは得意なのですが戦闘力は皆無でして、
カルロス様が喧嘩の仲裁をして頂けなければ僕が最後の手段として内臓しているナノ構造バッテリーを熱暴走させて、自爆して皆様と共に天国へ旅立つところでした!
セスセスセスッ(笑)」
N-3POの『自爆』というワードを聞いて周りの男達が恐怖する。
ヴェルピライ「おいおい…。
企業連盟のベゾス・テクノロジーズ製のロボットには自爆機能が付いてるのかよ。
絶対にリコールが起きるだろ。」
ヴェルピライは危険物を見るようにN-3POから距離を取る。
N-3PO「セスセスセスッ(笑)
冗談ですよ、冗談(笑)
空気が重苦しいので僕のとびっきりの冗談を提供しました!
これで皆様の鬱積も少しは解消されたでしょう。
セスセスッ!」
N-3POは治療をしながら金色のボディを震わせて、顔に付いている2つの青い目玉をグルグルと回転させる。
恐らくこれがN-3POの笑いの表現なのだろう。
だが、N-3POの場の和ませ方は、部屋の空気をさらに凍りつかせるだけだった。
苛立ちを募らせたヴェルピライは、
「殺意しか湧かねぇよ。ボディをこじ開けてチップとメモリーを抜き取って売りさばきてぇ。」と呟く。
カミーロが好奇の目でN-3POを珍しい物を見るように質問する。
カミーロ「その『セス』とは何だい?
特別な意味でもあるのかい?」
N-3POはよくぞ聞いてくれました!と言わんばかりに答える。
N-3PO「セス…。
特に意味はありませんが、『セス』を交えて喋ることで他のN-3POと差別化できます。
僕に自我はありませんが、個性が無いと皆様を楽しませることが出来ませんからね!
『セス』は僕の個性を構成する大切な一要素です!
さてさて、カルロスさん!
治療は完了しましたよ!
どうか、お大事に!
セスセスッ!」
カルロスは頬に貼られた大きな絆創膏の上から傷を擦りながら、N-3POに礼を言った直後に部屋の自動扉が開く。
現れたのは厶ラート系のライトブラウン色のカーリーアフロの短髪でサングラスをかけた中学生ぐらいの少年だった。
服装はマジカルピーチ株式会社の制服である、パステルピンク調でシルバーのラインが入ったテーラードジャケットと、ホワイトベースにピンクの細いサイドラインが入ったスリムテーパードパンツに白い革靴。
男性からの評価が著しく低いモモ・ラングトン監修の制服を着こなした少年は、16体の非致死性兵器で武装した企業連盟のベゾス・テクノロジーズ製の人型ロボットのBHW-12Mを引き連れて、舞台役者のように両手を広げて陽気な声を上げながら室内に入ってくる。
ダニエル「皆さん、おはようございます!
私はピーチ・フラワーの資源開発・生産局の局員のダニエル・ミレイと申します!
中学生ぐらいに見えますが、私は22歳の第8世代パイモンニクスの人造人間です!」
ダニエルの陽気な声に呆気に取られながらも周りから野次が飛ぶ。
「おいクソガキ!この宇宙船は今どうなってんだ?!」
「散々待たせやがってクソが!ブチ殺すぞ!!」
怒号が部屋を震わせ、緊張が増す。
ダニエルは罵声をそよ風のように受け流しながらも、大仰に頭を下げる。
「皆様のお怒りは御尤もです!
返す言葉もありません!
心より謝罪を申し上げます!
ですが我々、ホーリーランドのクルーは至らぬところがありますが、決して皆様を蔑ろにする気などありません!
それだけは、ご理解のほどをよろしくお願いいたします。」
謝罪の言葉を聞いた血気盛んな男達は不満を述べながらも多少は沈静化したが、ダニエルが非致死性兵器で武装したBHW-12Mを引き連れていることに不信感を募らせる。
明るいグレー色の丸みを帯びたボディのBHW-12Mの顔面に埋め込まれた無機質な光学カメラが緊張を高める。
沈静化のタイミングを見計らったダニエルは頭を上げて笑顔を浮かべながら続ける。
「本船が置かれている状況など気になると思いますが、まずは食事にしましょう!
皆様も大いに空腹でしょう!
豪華な料理を用意しましたので私についてきてください!」
ダニエルは大仰に手招きしながら誘導する。
60人の男達は不信感を抱いて不満を述べるが、
空腹には勝てないので足音を鳴らしながらダニエルについて行くのであった。
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部屋は食器を鳴らす音と会話の喧騒が響く。
食堂には60人の男と20人の女が集まって食事をしていた。
食堂は大手企業の工場に併設されている機能性を重視した無味乾燥なデザインと似ていて、申し訳程度に観葉植物が飾られている。
2台の壁掛けの大型液晶ディスプレイには、2308年に民主主義同盟と企業連盟で流行した学園ドラマが映し出されている。
食事はセルフサービス形式の食べ放題で、テーブルには多国籍の料理が大皿に盛り付けられて並んでいた。
香ばしいスパイスと肉の焼ける匂いが、飢えた胃袋を刺激する。
「あぁ〜食った、食った。味はまぁまぁだったな。」
食事を終えたヴェルピライがパイプ椅子に座って膨らんだ腹を擦りながら、プラスチックのコップに入った炭酸飲料のコーラを飲み干す。
他の3人も食事を終えて、
カミーロは陶器のカップに入ったカフェオレを優雅に啜り、
ゾーランはプラスチックのコップに入ったアイスコーヒーを無表情で飲み、
カルロスはプラスチックのコップに入ったレモネードを遠い目をしながら飲んでいた。
カルロスはブラジル風の黒豆と豚肉、牛肉の煮込み料理と牛肉の串焼きを食べて、民主主義同盟の惑星ルドヴィコのモラレスにいる母親と弟を思い出して少し感傷的になる。
食事を終えた者達が一服していると食堂の両開きの扉が自動で開いて、マジカルピーチ株式会社の制服を身に着けた8人の少年と少女が24体の非致死性兵器で武装したBHW-12Mを引き連れて室内に入ってくる。
他の子供より頭一つ分小さい3人の子供の頭上には、光輪が表示されているのでエンゲルレイズと分かる。
少年達はダニエルと同じ制服で、少女達は胸元に大きめのリボンタイがある白の長袖のブラウスとパステルピンク調のキュロットスカートに白のハイソックスとローファーを身に着けていた。
誰が見ても日本の学園アニメに出てきそうな生徒会に扮装したコスプレイヤーにしか見えず、
鮮やかな制服に恥ずかしがっているのか、子供達はそわそわしている印象を受けた。
子供達が緊張しながら二台の壁掛けの大型液晶ディスプレイの前に横一列に並んで、80人の怖いお兄さんとお姉さんと正面から向き合う。
小さな手がスカートの裾を握りしめ、緊張で肩がわずかに震えて視線を泳がせている。
横一列の右端にいる青い瞳に銀髪のオカッパ頭の中学生ぐらいの少年が一歩前に出て、片手に持ったマイクに向かって緊張を振り払うように声を張り上げる。
エリンコ「おはようございます!!!
私はピーチ・フラワーの最高指導者兼執行委員会の議長のエリンコ・ビアンキです!
ホーリーランドから派遣された第8世代パイモンニクスの人造人間です。
当船が置かれている状況を説明する前に、まずは執行委員会に所属する議員の紹介を…」
エリンコが執行委員会の議員を紹介しようとした瞬間に食堂内は爆笑の嵐が巻き起こる。
巨漢の男「ブハハハハハッ!!!(笑)
ガキ共が代表だって?!
執行委員会じゃなくて学級委員会だろ!!!(笑)」
目つきの悪い女「キャハハハハハッ!!!(笑)
でも、可愛いじゃない!
坊や達、私と一緒にベッドに潜って大人の遊びをしましょう!」
念の為に言っておくと紳士淑女にはほど遠い、この囚人枠の大人達は事前の説明会でピーチ・フラワーの執行委員会のクルーの情報を知らされていたのだが、冷凍睡眠の後遺症でボケてるのか完全に忘れていたのだった。
囚人達に嘲笑された子供達の何人かは、恥ずかしさと自尊心を傷つけられたことで小さな体を震わせながら赤面してしまう。
翡翠色の瞳にネイビーブルー色の短髪のエンゲルレイズの少年が表情を変えずに片手を前に掲げようとした瞬間に、笑顔のダニエルが手を掴んで少年の耳元で何かを呟いて制止する。
カルロスも釣られて笑いそうになるが、憐れみを感じて自制心を働かせる。
ふと、イヴがいないことに気付いて、カルロスは冷凍睡眠の後遺症のある患者を治療をしているのかなと想像する。
爆笑の嵐が収まるまで12分37秒かかる。




