第二話「生体工業品」
冷凍睡眠の余韻を吹き飛ばすかのように少女の明るい声が部屋に響く。
「こんばんモモー! 小悪魔Kawaii系美少女型AIアンドロイドのモモ・ラングトンだよ〜♡ 今日は特別企画でピンクの悪魔が教える陰謀論の作り方♡を始めるよ!〜〜」
部屋の中央にある大型ホログラフィックディスプレイにはモモの公式チャンネルの過去の配信映像が流れ、部屋全体を幻想的な雰囲気に染め上げる。
少女趣味で装飾された大部屋には冷凍睡眠から目覚めた男達が60人散らばっていた。
室内は窮屈ではなく余裕があったが、心の狭さが部屋を圧迫している。
壁に背中を預けながら気色悪い笑顔を浮かべるゾラーンを放置して、カルロス、カミーロ、ヴェルピライは冷蔵庫から取り出したキャップ付きアルミパウチに口を付けてゼリー飲料を吸いながら、パイプ椅子に座って雑談をする。
ヴェルピライ「覚醒処置室で世話していたホーリーランドのAIアンドロイドはなんでなんなに小さいんだ?
顔も幼いし、公園とかでドッチボールとか縄跳びしてる子供と見た目は変わらないよな。
あと、頭の上に浮かべてる光る輪っかは何か意味があるのか?」
ヴェルピライは好奇心と不信感が入り混じった感情で疑問を述べて、
教養深いカミーロがアップル味のゼリー飲料を吸いながら、ヴェルピライの疑問に答える。
カミーロ「第8世代エンゲルレイズは補給が厳しい宇宙の辺境での活動を最優先目的として設計されたからだよ。
資源や物資が乏しい極限状況下で生存できるように徹底的に省エネ化・省スペース化してる。
身長は130cm前後と極めて小柄で、ボディは男女の性差が極めて少ない第一次性徴期の8歳児相当にすることでフレー厶を共通化させ、部品互換性を高めて修理や交換が容易になっている。
外見は人間とほぼ完全に区別がつかず、培養皮膚、擬似毛髪、擬似器官による生理的反応を再現。
余りにも生身の人間と似ているので、頭部に天使のような光輪を投影表示することで、AIアンドロイドであることを明確に示しているのだよ。
ついでに人造人間の第8世代パイモンニクスも第二次性徴期相当の体で男女の性差はあるが、同じ設計思想で省エネ・省スペースを念頭に成長しても身長は160cm未満だ。」
カミーロの説明は感情を込めずに淡々としていたが、目には感情の影が揺らめく。
ヴェルピライ「ホーリーランドの高度な科学力が生み出した生体工業品という訳か。
企業連盟や権威主義連合も耳障りの良いお題目を掲げて遺伝子操作された人間を生み出してるけど、なんかディストピア感があって反吐が出るよな。」
ヴェルピライはうんざりした表情で吐き捨てて空気が重くなる。
『国家の戦略目標に従って生み出される生体工業品』
カルロスはグレープ味のゼリー飲料を吸いながら嫌悪感を抱く。
競争と効率化の果てにはある社会に人間は存在しない。
そこに存在するのは社会に消耗される血塗れた歯車だけだ。
出自や能力など関係なく、ただの生産単位で消費単位でしかない人の形をした血と臓物を詰めた肉の袋達が、享楽で自分を誤魔化しながら救いを求めて這いずり回る。
あの子も…イヴも…社会の都合で生み出されたに過ぎないと思うと、カルロスは猛烈な腹立たしさと悲しみが込み上げるが、自分の力では世界を変えられない現実に虚しさが押し寄せる。
カルロス「どこまで行っても、クソッタレた…世界だよな。」
カルロスの力の無い呟きは、モモの活気のある笑い声で掻き消される。




