表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

第一話「可憐な天使のお迎えとクソ野郎な仲間達との再会」

「ピーーーガシャガシャ!チーン!覚醒処置完了。

扉が開きます。ピーピラピラッ、ピッピッー♪」

騒がしい電子音と軽快なメロディの後に冷凍睡眠カプセルの厚い透明扉が開いて、消毒液と僅かな金属の匂いが混じった空気がカプセル内に流れ込んでくる。


カプセルの中にはインディヘナ系の30代の男が専用の青い密着型スーツを身に着けて横たわっていた。

瞼を震わせながら開けると眩い光が飛び込んできて男の目が眩む。

頭は重く、気分は最悪だ。


男の名はカルロス・マルランダ、36歳。

スラム出身で縄張り争いで抗争に明け暮れ、麻薬売買や銃器の密輸で糊口を凌いでいた元ストリートギャングの男。

端的に言えば社会のゴミである。

カルロスは「……あークソッ……頭が重い… ここは…何処だ?」と悪態をつきながら起き上がる。


周りを見回すと白い壁で囲まれた大部屋で100基ぐらいの冷凍睡眠カプセルが並んでいた。

室内は人工重力が効いていて、室温もちょうど良い。

扉が開いた冷凍睡眠カプセルからはカルロスのように起き上がった人間が何人かいて、カプセルの間を数体の金色ボディのヒューマノイド型ロボットが手を振り回しながら忙しく行き交って世話をしていた。


目が半開きの状態のカルロスに白衣姿の一人の小さな少女が駆けよってカプセルの前に立つ。


白衣の少女「カルロスさん、おはようございます。気分は如何ですか?どこか具合は悪くありませんか?」


柔らかく透き通った声で呼びかけられて、カルロスは少女の顔を見て仰天する。

その少女はカルロスがこの世で最も敬愛するホーリーランドの統治者の……

『偉大なる宇宙に輝くコルコバードの丘の星にして聖母様!』のソフィア・レインを縮めて幼くしたような子供だった。


少女の姿は翡翠色の瞳に肩まで伸びたプラチナブロンドの髪をツーサイドアップにした麗しき乙女!

おまけに頭上に天使の光輪のような輪っかを浮かべている!!

それはまさしく神が遣わした天使そのものだった!!!


町でこの天使に下賤なカルロスが近づいたら警察に蜂の巣にされるのがオチ。


余りの神々しさにカルロスは十字を切りそうになりながら考える。

(ここは天国なのか……?

クズの俺に天使のお迎えが来るとは信じられない!)

…という感じでカルロスは震える声で、恐る恐る口を開く。


カルロス「頭が…重いが大丈夫だ。君は誰なんだ?

…ここは何処なんだ?

…俺は何故ここにいる?」


白衣の少女は優しい微笑みを浮かべて、泣き出しそうな子供をあやすように穏やかに答える。


イヴ「私はピーチ・フラワー医療・衛生局の局長。

第8世代エンゲルレイズ(AIアンドロイド)のイヴ・ラブレスと申します。

ここはピーチ・フラワー内の覚醒処置室です。

あなたはマジカルピーチ株式会社の移民事業に囚人枠として参加した契約社員です。」


カルロスは天使の微笑みを見つめながら氷解していくように思い出す。


(あぁ…そうだ。

3回目の刑務所でソフィア様の自叙伝を読んで…感動して……

人生をやり直したいとマジカルピーチの試験を受けて…訓練を受けて……

出航式典の後に冷凍睡眠カプセルに入ったんだ。)


眉間にシワを寄せて過去の記憶を思い出すカルロスに、イヴは心配そうに見つめる。


カルロスは照れ隠して、苦笑しながら口を開く。


カルロス「思い出したよ。

俺は大丈夫だ、ありがとう。

天使の光輪を浮かべている君を見て、ここは天国なのかと勘違いしてしまったけど(笑)」


カルロスの言葉にイヴは恥ずかしがりながらも胸をなでおろす。


イヴ「フフッ…天使だなんて……照れちゃいますよ。

では、カプセルから出て頂いて、

目を開けたままで良いので30秒ずつ左右の片足立ちをお願いできますか?

カルロスさんの健康状態をもう少し調べたいので。」


カルロスはイヴの言葉に従ってカプセルから出て、30秒ずつ左右の片足立ちを難なくこなす。


イヴ「問題はありませんね。

バイタルも正常です。

では、あちらの両開きの扉を出て通路を右に進んでください。

通路を進むと表札にリラクゼーションルー厶と表示された扉がありますので、室中に入って休んでください。

何かありましたら、室内に待機している金色のヒューマノイド型ロボットのN-3POに声をかけてください。」


イヴは心が洗われような純粋な笑顔で両開きの扉を差し示す。 


カルロスは自然と笑みがこぼれながら頷く。


「ありがとう、イヴさん。ゆっくり休むよ。」

カルロスはイヴに軽く手を振って冷凍睡眠カプセルの間を進んでいく。


頭はまだ重いがカルロスは生まれ変わったような晴れやかな気分だった。

(俺の人生はここから始まるんだ!

天使に導かれて、俺は後ろ指を指されないマトモな人間になる!!!)



ーーーーーーーーーーーーーーーー



「ピュッ!ピュッ!ピュルルン!ピュ〜ン!」

下手くそな口笛を吹きながらカルロスは病院の廊下を思わせる薄明かりの通路を進んでいく。


頭の中では妄想の楽しい家族計画が展開していた。

妄想の中の思春期の息子が、背中からナイフを突き立ててくるシーンでカルロスは小さく苦笑した。


(俺みたいなクズが父親なんて、刺されて当然だよな。)


そんな自嘲の中で、視界の先に奇妙な扉が現れる。


『モモのお遊戯部屋♡』


紙にマジックペンで殴り書きされて、扉にテープで雑に貼り付けてある。


カルロスは首をかしげて訝しむ。 


(ここがリラクゼーションルームか?

イヴは表札にリラクゼーションルームと表示されていると言っていたが……

とりあえず入ってみるか。)


カルロスが意を決して近づくと自動ドアが開く。


部屋は少女趣味の装飾でバスケットコート2面分の広さだった。


壁は淡いピンクと白のストライプ、天井からはふわふわした雲型の照明が垂れ下がり、床にはふかふかのカーペットが敷かれている。

部屋の中央にある大型ホログラフィックディスプレイには、ホーリーランドの指導者のモモ・ラングトンのライブイベントの映像が大音量で流れていた。


場違い過ぎてカルロスは入りたくなかったが、カルロスと同じ雰囲気を醸し出す男達が居心地が悪そうにソファに座って雑談をしたり、ふかふかのカーペットの上に座ってトランプゲームをしていた。


荒んだ目つきに、どこか投げやりな笑い声。

間違いなくカルロスと同じ囚人だ。


カルロスが躊躇しながらも部屋に入っていくと聞き覚えのある明るい声で呼びかけられる。

「カルロス〜!こっちだ!こっち!」


声の方向にはカルロスの職業訓練所時代の仲間であるカミーロ・ペトロ(48歳)とヴェルピライ・スリナーマル(33歳)がパイプ椅子に座っていた。


カルロスは嬉しさでニヤつきながら近づいていく。

カルロス「なんだお前ら!まだ死んでなかったのか!(笑)」


カルロスの軽口にシンハラ人系のヴェルピライが笑いながら口を開く。

ヴェルピライ「お前より先にくたばる訳ないだろ!(笑)」

カルロス「出航式典の時は死にそうなツラをしていた奴が良く言うぜ!(笑)。カミーロも変わりないようだな!」


メスティーソ系のカミーロが前髪をかき上げて微笑みながら口を開く。

カミーロ「あぁ。まだ頭がぼんやりするが元気だ。」

カルロス「そうか!キツかったら遠慮せずに休めよ!」


カミーロは企業連盟出身の元トップスターの俳優で女性問題や私生児で訴訟やスポンサーへの違約金の支払いで借金塗れになり、最後は麻薬に溺れて刑務所に入った男。

ヴェルピライは宗教協会出身で惑星ルドヴィコで人権団体の支援と法を悪用して難民として在留中に窃盗を何回も犯し、34回目の逮捕で刑務所に入った男。


二人共、最低最悪のクソ野郎だが職業訓練所での3年間を苦楽を共にしたカルロスの仲間だ。


カルロスは仲間との再会に喜びを噛み締めるが、もう一人いないことに気付く。

カルロス「ところでゾーランはまだ冷凍睡眠から起きてないのか?」


ヴェルピライが苦笑して肩をすくめた後に指を指し示す。

黒人系の男が壁に背中をもたれて、陶酔した表情で左の頬を片手でさすっていた。


男は権威主義連合出身のゾーラン・ハリス(41歳)


ゾーランは上流階級の家庭の生まれで父親は支配政党の幹部で軍の将校。

しかし、偉大な父親に比べて息子のゾーランは士官学校の成績が悪く、卒業後は後方支援部隊に配属されたが能力が低いので階級は中尉止まり。

最後は物資の横流しを密告されて刑務所に入った落ちこぼれだ。


カルロスはゾーランの気味の悪い笑顔に嫌悪感を抱きながら、ヴェルピライとカミーロに何があったか聞く。

カルロス「あいつどうしたんだよ?気色悪い笑顔で何か呟いてるけど。」


ヴェルピライ「俺とカミーロがこの部屋に入った時にはゾーランはすでにいたぜ。

俺がゾーランに何があったか聞いたら『子猫に噛まれた』とか言ってたぜ。」


カミーロ「彼は特殊な性癖の持ち主だからね。

冷凍睡眠から覚醒した時に、エンゲルレイズの少女に手を出してビンタを喰らったかもしれない。」


カルロスはゾーランがイヴに何かやったかもしれないと焦燥感に駆られる。

(俺が…注意してゾーランを見張らなと!…

イヴを…彼女を…俺は絶対に守る!!!)


部屋にモモの歌声が流れる中で、カルロスはイヴを悲しませないと心に誓うのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ