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怪しい雲行き

結局、昨夜は一睡もできなかった。  目を閉じると、雨の中で笑ったあいつの顔が、頭から離れない。


「来なくてもよかったのに」


 そう言って笑ったあいつは、いつも通りだった。いつも通りの、愛想のいい、クラスの調和を乱さない「いい奴」の顔。  なのに、どうしてあんなに胸がざわつくんだ。  ずっと隣にいたはずなのに、俺はあいつの本当の顔を一度も見たことがないんじゃないか。  そんな、足元が崩れるような不安に襲われる。気づけば窓の外が白み始めていた。


 学校に着いても、思考はまとまらない。  教卓の前で、周りと談笑しているあいつを遠目に眺める。  ……どうすれば、あいつのことをもっと知れるんだろうか。  あいつが隠している本音に触れるには、どうすればいい。  考え抜いた末に出た答えは、単純で、けれど俺にとってはひどく勇気のいることだった。


「おーい、……みなと


 昼休み。購買へ向かおうとしたあいつの背中に、あえてさらっと声をかけた。  あいつの背中が、一瞬だけ石になったみたいに硬直したのがわかった。  ゆっくりと振り返ったあいつの顔には、いつも通りの「完璧な笑顔」が張り付いている。


「……何、急に。どうしたの」


「いや、……別に。呼び捨ての方が、友達っぽいだろ?」


 俺が茶化すように言うと、あいつは困ったように眉を下げて、くすりと笑った。


「あはは。本当、そういうところ鬱陶しいよ」


 冗談めかした口調。いつもの、本当に楽しそうな笑顔。  俺は「なんだよそれ!」と笑って返したけれど、心の中では、あいつが自ら引いた境界線の内側に、分厚いコンクリートを流し込まれたような感覚に陥っていた。


 その後は何事もなかったかのように、午後の授業が始まった。  先生の退屈な声、ノートをめくる音、誰かのあくび。  何も起きない、何も変わらない、いつも通りの日常がそこにある。


 だけど、すぐ隣に座っているはずのあいつとの距離は、昨日よりも、ずっと遠くなった気がした。


 ふと窓の外に目をやると、街を飲み込むような灰色の雲が、重苦しく垂れ込めている。  見上げると空は、今にも雨が降り出しそうだ。

ここから続けるかは皆様の反応次第ということで一旦ストップになると思います。

なので一言でもとても嬉しいのでよければよろしくお願いします。続けてほしいという声が1つでもあれば続行します

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