嵐の前の静けさ
ふと目が覚めたが、意識は泥のように重い。 窓の外からは絶え間なく雨音が聞こえてくる。
「……今日、学校、休んでいいんだ」
誰に言うでもなく呟いた声は、驚くほど枯れていた。 そう再確認しただけで、少しだけ心が軽くなった気がする。 熱のせいで火照った体を寝返りで誤魔化しながら、僕は再び深い眠りへと落ちていった。
次に意識が浮上したとき、いったいどれくらい眠っていたのだろうか。 カーテンの隙間から差し込む光は弱く、時刻を判別することすら億劫だ。 相変わらず体調は最悪で、体の中に熱い鉛を流し込まれたような重苦しさが残っている。外は、まだ雨が降り続いていた。
教室のあの刺すような喧騒も、周りに合わせて顔を固定する義務もない。薄暗い自室を支配しているのは、心地よい静寂だけだ。
今はこんなに静かなのに。 ふと、これは嵐の前の静けさみたいだ、なんて場違いなことが頭をよぎった。
そんな思考を遮るように、鋭いインターホンの音が鳴り響いた。
居留守を使おうか、と一瞬だけ思考がよぎる。けれど、ドアの向こうから聞こえてきたのは、聞き慣れた——いつも僕の隣で笑っている、あいつの声だった。
「おーい、生きてるか? ノート届けに来たぞ」
心臓が嫌な跳ね方をした。 今の僕には、完璧な「いつもの笑顔」を作る準備ができていない。 けれど、放っておけばあいつのことだ、余計に心配して騒ぎ立てるだろう。僕は重い体を引きずるようにして、玄関のドアを開けた。
隙間から入り込んできたのは、湿り気を帯びた雨の匂いと、少しだけ眩しいあいつの姿だった。
「悪いな、寝てるとこ。これ、今日の分のノート。写しとけよ」
「……あぁ。わざわざ、ありがと」
受け取ろうと伸ばした自分の手が、わずかに震えているのがわかった。 あいつは「無理すんなよ」と、いつも通りのお節介な調子で笑いかけてくる。
笑わなきゃいけない。 いつものように、波風を立てないように。
僕は反射的に、口角を吊り上げた。
「……ありがと。でも、別に来なくてもよかったのに」
あいつはそれを見て、「じゃ、また明日な」と軽く手を振って階段を降りていく。
……よし。 僕は逃げるようにドアを閉め、カチリと錠を下ろした。
心臓がうるさい。けれど、なんとかやり過ごした。 最後の一言も、いつもの冗談っぽく言えたはずだ。あいつの様子を見る限り、いつも通りの僕に見えていたに違いない。
「……大丈夫。隠し通せた。もう二度と、あんな顔は見せないって決めたんだ」
そう自分に言い聞かせながら、僕は冷たい床に座り込んだ。
◇
アパートの階段を降りきり、家路についた俺は、傘を差しながら一人で考え込んでいた。
さっきのあいつの笑顔が、なぜか頭から離れない。 「来なくてもよかったのに」と言って笑った、あの顔。
いつも通りだったはずなのに。
——どうしてだろう。
ずっと隣にいたはずなのに、俺はあいつのことを何も知らなかったのかもしれない。 そう思うと、急に言いようのない不安が込み上げてきた。
次に会う時。 俺は、あいつの中に抱えているものを見つけ出すことができるだろうか。
雨がさっきよりも強く感じた。 遠くでは、雷鳴が響いている。
まずは3話程度まで書いてみたいと思います
そのあとどうするかは皆様の反応次第ということでよければご意見よろしくお願いします




