晴れた日の夕暮れ
― 病室 ―
白い天井を見上げながら、僕は小さく息を吐いた。
「なあ」
隣のベッドから、かすれた声が返ってくる。
「んー……?」
まだ本調子じゃない声。それが妙に現実味を持って胸に落ちてくる。
「僕たちさ」
言葉を選びながら続ける。
「……本当に生きてられてるんだな」
少しの沈黙。それから、隣で小さく笑う気配がした。
「今さらだな」
「実感なかったんだよ」
「俺も」
短い会話なのに、不思議と胸の奥があたたかくなる。
生きてる。隣にいる。それだけで、十分すぎた。
― 学校・朝 ―
教室のドアを開ける。ざわざわした声、机の音、窓から入る朝の光。
「……なんか久々に感じるな」
思わず、そう漏れる。
戦場みたいにしんどかったこの場所。息をするだけで疲れてたこの空間。
でも今は、少し違う。景色は同じなのに、胸の中の重さが少し軽い。
僕は席に座り、窓の外を見る。
――戻ってこれたんだな。
そう思えた。
「……なんだよその顔」
「別に」
「絶対なんか考えてるだろ」
「うるさい」
そんなやり取りが、やけに心地よかった。
― 放課後・夕暮れの教室 ―
教室には僕たち二人だけ。窓から差し込む夕陽が、床と机を赤く染めている。
少しの沈黙のあと、一輝が口を開いた。
「なあ」
「ん?」
「聞いてもいいのかわかんねぇけどさ」
少し迷うように視線を落とす。
「……大丈夫か?」
僕はすぐに分かった。
「僕の親のことだろ」
一輝は小さくうなずく。
僕は窓の外を見る。
「もちろん」
静かに言葉を選ぶ。
「もちろん、あの事件のことを忘れられるわけはないよ」
胸の奥が少し痛む。
「たださ、乗り越えられるとは思う」
小さく息を吐く。
「今はまだ無理だけど」
一輝の声が低くなる。
「……本当か?」
僕は顔を上げる。
「うん」
はっきり答える。
「一人じゃないから」
一輝は何も言わず、少しだけ笑った。胸の奥が、じんわりあたたかい。
少しの沈黙。今度は僕が、前からずっと引っかかっていたことを口にする。
「なあ」
「ん?」
「なんで、あそこまでして僕のこと助けたんだよ」
一輝は少し照れくさそうに笑う。
「普通、命かけてまで助けねえだろ」
夕陽が横顔を赤く染める。
一輝は少し黙ってから言った。
「……俺の名前さ、一輝って書くだろ?」
僕は黙って聞く。
「親がさ、“一つのものを照らせる人になれ”って意味を込めてくれたんだ」
照れくさそうに目を細める。
「昔は意味わかんなかったけどさ」
カーテンが揺れて、夕風が入る。
「目の前で消えそうなやついたら、手ぐらい伸ばせるやつでいたいなって思ってた」
そして、まっすぐ僕を見る。
「お前が、俺にとって失いたくないものだっただけだ」
胸の奥が強く鳴る。僕は視線を逸らす。
一輝が、少しだけ真面目な顔で続ける。
「港は光があってこそ意味があるものだろ」
僕はすぐに突っ込む。
「……港って言うなら漢字が違うだろ。僕とは違う」
一輝は肩をすくめて笑った。
「それに、俺たち友達だろ?」
胸の奥の緊張がほどけて、自然と笑みがこぼれる。
僕は視線を逸らしながら、ふっと笑った。
「……ふふっ、やっぱりお前は鬱陶しいよ」
一輝がニヤッとする。
「なんだ、また俺に離れてほしいのか?」
僕は窓の外の夕焼けに視線を逃がす。
「さあな」
見上げると、空には晴れ渡る夕暮れが広がっていた。あたたかい風が僕らを包んだ。
僕はこの光を忘れることはないだろう。
中学3年生の初投稿作品でした。各話のタイトルや伏線などにこだわりました。気にしていただけると嬉しいです。感想などあればぜひ書いていただけると幸いです。




