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上らない月

俺は湊のことを考えながら、ぼんやりとニュースを見ていた。


内容なんて頭に入ってこない。

ただ画面の光が部屋を照らして、アナウンサーの声が遠くで響いているだけだった。


今日のあいつの顔が、何度も浮かぶ。


無理して平気なふりしてたな、とか。

あのとき一瞬だけ見せた、今にも折れそうな目とか。


あいつはずっと、ギリギリのところに立ってる。

踏み外してもおかしくない場所で、必死に立ってる。


それなのに俺は、隣にいたつもりで、何もできてなかったんじゃないか。


「……ちゃんと、支えられてたのかな」


独り言が、やけに大きく聞こえた。


そのときだった。


ニュースの画面に映った景色が、目に引っかかった。


見覚えのある道。

よく知ってる場所。


胸の奥が、ざわっと波立つ。


何か確証があったわけじゃない。

ただ、嫌な予感だけが、はっきりと形を持ってそこにあった。


「……やばい」


気づいたときには立ち上がっていた。


考えるより先に、体が動いていた。


靴を引っかけるみたいに履いて、外へ飛び出す。

夜の空気が肺に刺さる。冷たいのに、呼吸だけがやけに熱い。


走る。


理由なんて分からない。

ただ、行かなきゃいけない気がした。


走りながら、頭の中でいろんな場面が浮かんでは消えた。


最初は距離を取ろうとしてたくせに、結局放っておけなかったこと。

あいつが平気なふりをするたび、腹が立ったこと。


そして、気づいたこと。


あいつは弱いんじゃない。

一人で抱え込みすぎるだけだ。


やっと、ほんの少しだけ前を向き始めてたんだ。

胸の奥に、小さな光みたいなものが灯りかけてたのに。


「……奪わないでくれよ」


誰に向けたのかも分からない言葉が、夜に溶けた。


足がもつれそうになる。

息が苦しい。

心臓が壊れそうなくらい鳴っている。


それでも止まれなかった。


前方に、人影が見えた。


街灯の下、ふらつくように立つ背中。


見間違えるはずがない。


「湊!!!」


叫んだ。


けど、あいつは反応しなかった。


聞こえていないのか、もう何も届いていないのか、

ただゆっくりと、前へ踏み出そうとしている。


その横から、強い光が迫ってくるのが見えた。


考えるより先に、地面を蹴っていた。


腕を伸ばす。


「やめろ!!」


指先が、あいつの体に届く。


強く、押した。


湊の体がバランスを崩して、光の軌道から外れるのが見えた。


その直後、視界が激しく揺れた。


地面も空も分からなくなる。


でも、それで分かった。


間に合った。


「……よかった……」


息がうまく吸えないまま、かすれた声が漏れた。


「湊が……無事で……」


遠くで誰かの叫ぶ声がする。


でももう、音も光も、全部遠ざかっていく。


最後に浮かんだのは、

絶望の中で立ち尽くしていた、あいつの小さな背中だった。


――これでいい。


そう思ったところで、世界は静かに暗転した。


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