侯爵令嬢と専属執事の恋愛模様
初めまして。Anemoneと申します。
初めてこちらで小説を書いたので拙いですが
楽しく読んでもらえたら幸い。
アリアお嬢様。貴女に助けていただいた日から、この10年ずっとお慕いしておりました。日々笑顔を向けてくださる柔らかな表情。私はいつまでも貴女さまのそばに。
「ジェド。貴方はいつ迄も変わらないわね。」
優しく笑うアリアお嬢様。10年前。孤児として教会の孤児院に居た俺を見つけて連れ出して雇ってくれたお嬢様。
お嬢様の名前はアリア・レ・ラトゥール。ラトゥール侯爵家の第二子女だ。家族構成は侯爵様。奥様。第一子息のシエル様。第一子女のレレノア様。第二子息のロスト様になる。
俺は孤児院時代どうしても民間学校に入りたくて、孤児院でも数少ない本を頼りに独自で勉強をしてる所をアリア様が見つけてくださった。アリア様は慈善活動で時々奥様と教会へ寄付をしにやってきていたのだ。
「貴方。勉強が好きなの?」
初めてお嬢様から掛けられた言葉だった。
「はい。こんな俺でも学校へ行ってみたい。成績が良ければ、牧師様にも迷惑かけずに学校へ入れる。そしたら、いつか貴族の執事になりたいんです。」
「………そう。なら、うちで働いてみない?」
「え?………」
「丁度、男子の使用人が足りなかったの。貴方にやる気があるなら、お父様に掛け合っても良いけど如何かしら?学校も通わせてあげる。ただし、お給金と相殺になるとは思うわ。それでも構わない?」
夢の様な話に俺は勢いよく頷いた。
「願ってもないことです!!よろしくお願いします!」
それから、あれよあれよと俺は侯爵家の下男として働きながら礼儀作法、勉強、仕事をこなした。毎日が目まぐるしく忙しく充実していた。侯爵家は絢爛豪華だった。全てが素晴らしく働く使用人も完璧を求められていた。必死で学ぶ日々は充実感と多幸感それと疲労感が入り混じって毎日泥の様に眠った。そんな日々でも、アリア様はわずかな時間でも俺のことを気にかけてくれた。
「どう?うちに慣れた?勉強は出来てる?仕事と両立だと中々眠れないのではなくて?」
「お嬢様。勿体無いお言葉ありがとうございます。毎日が充実していて、眠気なんて気になりません。」
「そう?なら良いのだけど。決して無理をしてはダメよ?」
そう言って優しい微笑みを下さるお嬢様にいつしか淡い恋心を抱いていた。
そして10年の月日が流れた。
俺は18歳。お嬢様は16歳になっていた。
ある日突然、衝撃的な話が舞い込んできた。
『アリアお嬢様が第一王子のお妃候補として名前が上げられたそうだ。』
俺は愕然とした。毎日笑顔を絶やさないお嬢様。才色兼備なお嬢様に話が舞い込まないわけがない。
【俺は結局養われ使用人。いくら踠いてもお嬢様の隣には立てない。】
夜、使用人部屋で泣いていると、執事長がやってきた。
「何をそんなに泣いているんだ。」
「お嬢様が……婚約……俺は……」
「ああ。お前はお嬢様に傾倒しているからな。ならば、お嬢様専属の執事になれば良い。」
「お嬢様の専属……」
「そうだ。専属ともなれば、お嬢様の隣にも立てるぞ。」
「お嬢様のとなり………っ。俺に、成れますか?!」
「頑張れば出来る。私が指導しよう。旦那様には私からお前をお嬢様専属の執事に推薦しておこう。」
「ありがとうございます!」
その日から、がむしゃらに頑張った。執事とは主人の十歩先を読む様な行動が期待される。綺麗な所作から先読みの能力まで。
書類の整理から主人のスケジュール管理まで。多岐に渡ってやらねばならない事が多い。必死で食らいついた。全てはお嬢様の為に。
やっとお嬢様の専属執事に成れたのは2年たった春の事だ。お嬢様は未だ第一王子のお妃候補して名前が連なっていた。
「本当はわたくしお妃になんて向いてないわ。何度も顔合わせしているけれど、お妃教育をするより市井で子供達と戯れる方がとても充実しているの。」
自室で1人お茶を飲みながらお嬢様は寂しげに呟いた。
「お嬢様…。」
「貴方の事だって、そうして出会えたのだもの。わたくしはこの活動を辞めたくない。でも、殿下はご寄付には頷かれたけど、子供達との語らいには難色を示したのよ。わたくしの考え方と異なってらっしゃるのよ。そんな方のお妃には成れないわ。」
「お嬢様…。」
「わたくし、もう18歳でしょ。行き遅れの部類だわ。シエルお兄様もレレノアお姉様ももう既に結婚して家庭を持ってる。シエルお兄様がお父様の跡を継いで当主になるのも決まっているわ。歳の離れたロストも学園で恋人が居るとの噂だし。わたくしだけよ。恋をしていないのは。」
「……恋…。お嬢様は恋がしたいのですか?」
俺はお嬢様を見つめながら、息を潜めるよな声で呟いた。
「ええ。わたくしも学園へ通って恋をしてみたかった。でも、わたくしったらお転婆だから良い殿方に見染められ無いわよね。」
「そんな事有りません!現に今でも第一王子のお妃候補では有りませんか。選考に外されないのは、お嬢様が才色兼備で朗らかな優しい女性だからです。私はそんなお嬢様だからこそ傾倒してるんです。」
「…………えっ?ジェド?今の言葉は本当?」
つい出てしまった慕う気持ち。目の前のお嬢様は目をぱちぱちと瞬いて俺をじっと見つめていた。
「……………はい。ずっとずっと出逢ってからお慕い申し上げていました。」
「…ッ。ジェド!」
突然目の前に艶やかな亜麻色の髪が揺れた。お嬢様に抱きつかれた事を気付いたのは数十秒経ってからだった。
「貴方と離れたくなくてッ……。わたくし、学園に行くのを辞めたの。貴方とたくさんお話がしたくてッ……貴方を使用人として雇うようお父様にお願いしたのッ。わたくしはわたくしは……ずっと貴方に一目惚れしていたのよ。」
「ッッ……お嬢様っ。」
ギュッと抱きしめれば、沈丁花の柔らかな香りが鼻を擽る。そっと髪に触れると、お嬢様がもたれかかって来た。
「やっと言えたわ。貴方を好きだって。ずっとずっと言いたかったの。でも、貴方は身分差を気にしてきっと私の事主人としてしかみてくれないって思ったの。」
「お嬢様……」
「ねえ。お願い。2人きりの時だけで良いから、名前で呼んで〝アリア〟って。」
「呼べません!せめて〝様〟は付けさせてください。」
「もう………。やっぱり従僕なのね。でも、仕方無いわよね。主人と使用人の関係なのだもの。」
「アリア様。」
「ジェド。好きよ。ずっとずっと好きだった。」
「私もです。アリア様がずっと好きで専属執事にまでなりました。ただ、貴女と一緒にいたいが為に。」
「ああ。ジェド。わたくしは貴方が居てくれれば、それだけで十分。殿下のお妃候補も外してもらえるようお父様に言うわ。」
「しかし、それはっ。お嬢様はいずれ結婚をっ………」
「しないわ。貴方以外好きには成れないもの。貴方がずっとずっと傍に居てくれるなら、それだけで幸せだから。」
「ですが、旦那様がお許しにはっ!」
「良いのよ。怒られたって勘当されたってへっちゃらよ。わたくし貴方とならどこへでも行けるわ。」
お嬢様の満面の笑みに何も勝てなくて只々ため息をついた。
「好きよ。ジェド。貴方に出逢えて本当に幸せ。」
「私もです。アリアお嬢様。」
end
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