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023話『群青の姫君は瑠璃色を纏う』(3)


 新たな衣装を纏ったラキリエルはノイシュリーベ達に何度もお礼の言葉を述べて執務室を後にした。そうして廊下で待ってくれていたエバンスと合流し、馬車に乗って丘陵の路を降りていくのであった。

 魔鳥などの襲来により、一時中断していた市街地の案内を再開するのである。


 なおラキリエルが元々着ていた法衣は、アンネリーゼが浄化を施した上で貴賓室に備え付けの収納具(ワードローブ)に運んでおくとのこと。




 [ 城塞都市ヴィートボルグ ~ 市街地 ]


 丘陵を降りると市街地の北西端へと辿り着く。既に何度か通っているために、ラキリエルもすっかり見慣れた様子であった。



「街中は、襲来の影響がほとんど出ていないようですね、安心いたしました」



「うん、壁上や『果樹園』で上手いこと食い止めることが出来ていたしね。

 それに万が一にこっちに来るようなら、市街地に展開していた第三部隊長達が

 なんとかしていただろうしね」



「そういえば……今更ですが『果樹園』というのは、どういったものなのですか?

 サダューイン様はこの地の特産品を育てていると仰っておられましたけど」



「うーん……」


 この質問に対して御者台に座るエバンスは、手綱を操りながら数秒の間 考え込んだ末に、ゆっくりと口を開いた。軍事機密に該当するのでグレミィル半島にやって来たばかりのラキリエルに全て話して良いものかどうかを検討したのだろう。




「そうだねぇ、まあ君も暫く滞在するのなら知っておいたほうが良いか。

 あの果樹園では『ヴィートモーン』っていう果実を育ててるんだ。

 見た目は、純白な林檎みたいな感じだね」



「ヴィートモーン……おいしいのですか?」



「美味しいといえば、美味しいかなぁ? 特にタルトやパイにするのがオススメ。

 でも本当の用途は食用じゃなくて魔物達を惹き寄せるためのものなんだ。

 魔物が我を忘れて飛び付く香りを大量に放つように品種改良された果実なのさ」


 ラキリエルは思い出す。数日前に襲来した魔鳥の群れの約半数は吸い寄せられるようにして、我先に『果樹園』へと無防備に降下していったことを。



「この香りは風に乗って遥か上空まで舞い上がる。だから大山脈颪を降って来た

 魔物達は香りに当てられて、真っ先に『果樹園』を目指そうとするようになる。

 そうやって市街地への被害を抑えるようにしてあるんだ」


 無防備に『果樹園』に降下する際を狙って常備兵の弓矢や弩砲(バリスタ)を射掛る。

 それでも生き残った個体達には万全の布陣の騎士達が狩り獲りに往くのである。



「考え抜かれているのですね……」



「うん、『果樹園』の位置は全て弩砲(バリスタ)で狙える所にあるしね。

 ちなみにそのまま防風林にもなって、台風の時なんかにも役立つよ。

 発案者は、ノイシュ達の母親のダュアンジーヌ様さ!」



「城館内の魔具といい、ダュアンジーヌ様の遺されたものは本当に至る箇所で

 今でも人々を救っておられるのですね!」



「そうそう、他にもいっぱいあるから注意深く見てみるのも良いかもねぇ。

 ……果実で思い出したけど、そろそろ何か食べておく?

 お昼時だから市街地のどの店も混み始める時間だけどさ」


 頭上を見上げると、真上より眩き陽光が降り注いでいる。

 ささやかな屋根が日陰になってくれているとはいえ、御車台に座るエバンスは夏の真昼の暑さによって滴る汗を拭いつつ、周囲の家屋や店を見渡しながら提案するのであった。



「それでは、以前ご紹介いただいたパン屋さんに寄ってみたいです。

 あの時は……その、上の空だったもので……」


 数日前に市街地を案内してもらっていた時のことである。あの時はたしか、一旦エバンスが馬車から降りて軽食らしきものを買って来てくれたような記憶がある。



「いいね! エフメラスさんのお店だったら本格的に混むのは朝か夕方前だ。

 今の時間だったら簡単なものなら直ぐに購入できるかも!」


 現在地より最も近くにある共同の馬車駅へと立ち寄り、黒塗りの上等な馬車を停車させる。市街地の各所には、このような駅が幾つか建てられており三階建ての家屋の一階部分が丸ごと馬舎となっているのである。


 共同とはいえ馬車を停めるにはそれなりの代金と手続きが必要になるのだが、大領主の密使であるエバンスは、公務の一環である限りは一切免除されている。



「エバンスさん、今回はわたくしも自分の足で赴いてもよろしいでしょうか?」



「いいよー、自分で見て回るほうが道や場所を覚え易いしね!

 いっそのこと、食べ終わったらそのまま街中を歩いてみる?」



「是非! お願いいたします」


 快く返事を返して賛同する。第三演習場に赴いて以降は塞ぎがちになっていたラキリエルは、身に纏う衣装を改めたことを切っ掛けとして、新たな物事を見聞きする意欲を完全に取り戻しつつあるようだ。

 そのことに対してエバンスは内心で安堵していた。



「(どうなることかと思っていたけど、これなら立ち直ってくれそうだね)

 (ノイシュのやることは昔から勢いと思い付きによるものが多いんだけど)

 (最後は自然と善い方向に作用するんだから、本当に面白いや……)」


 そうして二人はエフメラスという人物が経営するパン工房兼販売所に足を運び、葉野菜と乾酪(チーズ)肉団子(ショットブラール)をライ麦パンで挟んだ軽食を購入した。

 テーブルは置かれていなかったので、近くの広場に移ってベンチに腰掛けて昼食を採ることとなる。


 ただし、そのままベンチに座るラキリエルとは異なり公務の一環として行動しているエバンスは、大領主の密使として貴人を遇する立場を守るべく、ベンチの傍に立ったまま軽食を口にしていた。



 そのことに対してラキリエルが申し訳なさそうにし始めていると、彼は素早く自分の分の食事を済ませた上で、携行していた弦楽器(フィドル)を取り出してみせた。そして馴れた様子で弓を弾き、軽やかな音色を広場中に響かせた。


 周囲を行き交う多種多様な種族の者達が足を停めて、彼の演奏に聞き惚れる。

 或いはラキリエルと同じくベンチで食事を採っていた者達も自然と近寄って来ていつの間にか人集りによる"輪"が出来上がっていたのである。




「(即興でこのような演奏ができるなんて……)」


 エバンスの奏でている曲についてラキリエルは詳しくはなかったが、周囲の様子を見る限り街で暮らす者達には馴染み深い定番の大衆曲であるようだった。

 そんな大衆曲を幾つか組み合わせ、更に彼独自の陽気な旋律に改編して弾いているのである。故に、多くの者が聞き慣れた曲調を耳にして立ち停まる。



 複数の原曲を継ぎ接ぎして、改変までしているのに、不快感は感じさせない。


 エバンスの演奏に耳を傾けた者達が集う広場内は、不思議な一体感に包まれた。


 この瞬間は純人種であろうと、亜人種であろうと、原住民であろうと、何等かの事情で外から移って来た者であろうと、等しく夏の陽光で照らされた、今を生きるヒトとしての連帯を感じたのである。


 瑠璃色の衣装を纏いヴィートボルグの市街地に溶け込み始めたラキリエルも例外ではなく、彼の演奏に聞き惚れている間に些細なことを気にする素振りはすっかりと鳴りを潜めている。周囲の人集りを象る一人として、真に自然な心で昼食を堪能することが出来たのであった。


 焼き立てのライ麦パンから漂う香ばしい香りが鼻腔をくすぐるだけでなく、やや粗い食感はまろやかな乾酪(チーズ)で包まれた肉団子(ショットブラール)の味わいを確りと受け止めてくれている。

 具材の強さにライ麦パン側も負けておらず、見事に調和の取れた逸品であった。




 パチパチパチパチ……


 ラキリエルが昼食を食べ終えたのを見計らい、エバンスが演奏を締め括ると周囲から盛大な拍手とともに疎らな御捻りが贈られた。

 聴衆に対してエバンスは軽いお辞儀をした後に今度は魔力を乗せて弦楽器(フィドル)を弾いてみせると、魔奏(スピリトーゾ)による旋風(つむじかぜ)が巻き起こり御捻りを風の渦が巻き取って眼前へと積み上げていくのであった。


 その手際の良さに聴衆は更なる拍手を贈り、この場は締め括られたのである。



「とても素晴らしい演奏でした!

 街中で過ごされている皆さんも楽しそう聴いておられましたし、

 何よりもこう……一体感に包まれるような一時でした」



「あはは、そう言ってもらえるなら旅芸人冥利に尽きるってやつかな。

 君のほうこそ、すっかり周りの人達に溶け込めていたと思うよ。

 この分だとあと数日もすれば一人で出歩いても大丈夫そうかな?」


 などと話していると、散り始めていた人集りを掻き別けて獣人の女性が二人に話し掛けてきた。




「すごかったよ!! いろんな曲が組み合わさっていて、お祭りみたいだねぃ。

 お仕事中じゃなかったら最初からずっと聴いていたかったなぁ……」


 銀色の髪というよりは白髪に近しい狐耳と尻尾。夏の昼過ぎだというのに、お構いなしに着用している青いロングコートが特徴的な狐人(フォクシアン)であった。



「またここで演奏してくれる? それとも今日だけの限定公演?

 だったらちょっと残念かな? たまにこの辺を歩いてるから、またよろしくね」


 彼女はエバンス達が返事をするよりも早く、一方的に捲し立ててから何処かへ去っていった。井出立ちからして都市の住人というわけではなさそうだ。

 恐らくは外からやってきた冒険者か何か……といったところであろう。




「……な、なんだったのでしょうか。今の人は」



「んー、この街でおいらの演奏を初めて聴くってことは流れの冒険者かな?

 狐人(フォクシアン)の冒険者……まさか、ね」


 何か思い当たる節でもあったのか、ほんの僅かに考え込む素振りを見せたエバンスであったが直ぐに普段通りの陽気な表情に戻りつつ弦楽器(フィドル)を仕舞い始めた。




「ま、いっか! そんなに悪そうな人には視えなかったしね。

 それよりも、食べ終わったなら少し歩きながら案内していくよ」



「はい、お願いします!」


 そうして二人は、北西区を中心に市街地を徒歩で巡っていくこととなった。


 未だに両脚で歩くことに不慣れなラキリエルの歩幅に合わせつつ、時折さり気なく立ち止まっては小話とともに小休止を挟む。その行動は実に自然で、注意深く観察していなければ察することが難しいほどエバンスの手際は冴えていた。



「(あのノイシュリーベ様が、心から信用されておられるだけありますね……)」


 朧気ながらエバンスの手際とさり気ない気遣いを実感し始めていたラキリエルは、彼とノイシュリーベの関係性について、より強く気になり始めていた――






「そんでこの北西区は冒険者向けの安宿とか、職人さん達の工房が多いんだよ。

 あとはパン屋さんみたいな大きな竈を使うお店も多いかな?」


 周囲の家屋を指差しながら、何処に何があるのかを軽く説明していく。

 全てを覚えさせるのではなく、先ずはざっくりと掴んでもらいたいのだろう。



「常に火を扱う工房は市街地の端っこのほうに建てられていることが多いんだ。

 中心街とかだと万が一、火事が起こった際に延焼して大惨事だからね!」


 付近にシーリア湖やグリナス大河などの豊富な水源があるとはいえ、火事への備えは都市を形成する上で最も重要となる課題の一つである。



「ああ、市街地の端っことはいえばだけど……安宿とか、浮浪者達の荒屋(あばらや)

 どうしても増えちゃってるのは大きな都市の共通の宿命ってやつかなぁ」



「ふむふむ」


 ラキリエルは市街地に入る直前に廃材で組まれた不思議な建物? が並んでいるのを思い出していた。



「安宿や荒屋(あばらや)には、極力 近寄らないようにしたほうが良い。

 警邏隊が定期的に見回っているとはいえ、君みたいな美人さんは

 真っ先に目を付けられちゃうかもしれないからね」



「……気を付けます」



「うぃうぃ、じゃあ次に行こうか」


 大路を道なりに進んで中央区へと差し掛かった。






「で、此処からは『光篭通り』だね。既にサダューインから聞いてると思うけど

 魔具で出来た街灯が並んでいて夜中は特に綺麗な景観になるんだ」



「はい! 初めてこの都市に訪れた時に見惚れてしまいました。

 道行く人達も、様々な種族や職業の人で溢れていて……本当に素敵です」


 黒馬に乗せられて、想い人とともに見渡した日のことを思い出しつつ。




「うんうん、『光篭通り』から中央広場に掛けては普通の宿屋とか雑貨店、

 それから武器や防具を取り扱っているお店とか、色々と揃っているよ。

 珍しいとこだと一般人向けに販売してる魔具とかを売ってるお店もある」


 再び、凡その店のある位置を指差しながら店名を述べていった。

 武器や防具は、主に旅人や冒険者向きに流通している代物であり、城館に勤める騎士や常備兵に支給されている物とは全くの別物である。



「西へ続く大路を進めば『冒険者統一機構(マスカラード)』や各商会の支店。

 南に進めば都市の正面入口へと続いているよ」



「ふむふむ、それでは東へ伸びている路を進むと何処に着くのでしょうか?」



「あー……そこはまあ、君にはあまり関係はなさそうな場所かな。

 安宿や荒屋(あばらや)ほどじゃないけど、なるべく近寄らないほうが良いね」



「……? 分かりました、そうします」


 少し気不味そうに言葉を濁しながら、『光篭通り』を南下していった。


 なお東へ進めば歓楽街が拡がっている。といっても港湾都市エーデルダリアのような大規模な区画ではなく、ひっそりと運営されている程度であった。


 これはヴィートボルグの前身が、丘上の防衛拠点として建てられた要塞施設であったことに由来しており、市街地の拡大と人口の増加、冒険者や商人達の流入に伴う需要によって自然と形成されていった区画なのである。


 対してエーデルダリアは古来より交易の拠点として発展してきた都市であるために歓楽街もまた一大事業として見なされているのであった。



「(まあ、非合法組織の幹部達の大半はサダューインに懐柔されているから)

 (仮にラキリエルが迷い込んだとしても、酷いことにはならないと思うけど)」


 などと思考を巡らせながら、避けるべき場所は避けて案内を続けていく。




 [ 城塞都市ヴィートボルグ ~ リーテンシーリア広場 ]


「この辺りでオススメなのは『ヒュッケモルン』っていうお店かな。

 ヴィートボルグでは珍しいオープンテラス席を採用しているんだ」



「あっ! そのお店でしたらこの都市を訪れた日に見掛けた気がします。

 色々な種族の人が楽しそうにお酒を飲んでおられました」



「そうそう! 特に夕方以降が盛り上がるんだ。

 おいらも、たまに頼まれて演奏しに行くこともあるよ」


 続いて数軒離れた建物を指差す。



「で、あっちにあるのがグンボリ―婆さんの古本屋。

 書物だけじゃなく魔法書や魔術書、御伽噺の本なんかも取り扱っているよ。

 他にも引退した魔法使い(ドルイド)として魔法の相談にも乗ってくれる」



「まあ……! それは楽しみですね」


 一際、目を輝かせながらラキリエルが反応を返す。やはり彼女は御伽噺の類が心から好きなのだろう。そうエバンスは感じ取っていた。



「あはは、落ち着いたらじっくりと見て回るといいさ。

 ……あとはそうだね、その二軒隣の少し大きめの建物!」



「他のお店よりも外装が少し豪華な気がしますね」



「うん、あれはアッペルバーリ楽器店っていうんだ。

 お城にエドヴァルトっていう紋章官のお爺さんがいるんだけど、

 その人の生家が経営しているお店なんだよ」



「エドヴァルド様……何度かお話したことがありますね」


 気難しそうな高齢の樹人(ドリュアス)の面貌を想起する。ここ数日の間に幾つかの質疑応答を受けており、ラキリエルは若干の苦手意識を懐いていた。



「まあ、あの人のことは一旦置いておくとして……。

 その名の通り、色々な楽器を取り扱っていて修理にも応じてくれるんだ。

 おいらの所属している『エルカーダ一座』御用達でもあるんだよ!」


 そう言いながら、再び自前の弦楽器(フィドル)を見せてくれた。

 通常のものよりもやや小振りながら造りは確りとしており、特に木材部分はかなり上質の素材が使われていることが素人目にも伝わって来るほどである。




「エルカーダ一座……ですか?」



「あっ、そっか! そうだよねぇ……君の場合だと耳にする機会も無かったか。

 この大陸じゃあ割と有名な旅芸人一座でね。色んな国を渡って興行するんだ。

 ラナリア皇国は勿論、北のキーリメルベス連邦にだって歩いて行くよ」



「……!! 凄いですね、大陸中を縦断していらっしゃるのですか」



「旅芸人や冒険者は自由身分だから本人のやる気次第では何処にでも行ける。

 で、おいらはその一員なんだけど、単独公演しても良いって言われてるんだ。

 だから旅芸人の身分を活用してエデルギウス家の密偵としても働いてるわけ」


 口では軽く言ってのけているが、大陸屈指の名門エルカーダ一座は入門するだけでも非常に狭き門なのである。

 その上で、単独公演の認可をもらう……即ち、実質的な暖簾分けを許されての独立ともなれば、凡人には到底成し得ない頂なのであった。



 旅芸人と、為政者に仕える密使を兼業する者というのは意外と存在する。

 しかし、その多くは旅芸人の振りをしているだけであり、自由身分を利用して国を渡り歩きたいだけの者達なのであった。


 故に、こういった者は暫し侮蔑の対象とされている。

 旅芸人としては中途半端。密使としても主家をいつでも裏切れる者として見なされて城や宮殿に勤める紋章官などからは白い目で見られているのである。


 エバンスのように一流の芸を身に付けた上で、絶対的な忠節を尽くす者は誠に稀有な事例なのだが、そのことをラキリエルが理解するのは少し先のこととなる。




「もし……よろしければ、エバンスさんが旅芸人になられた理由などを

 お聞きしても良いでしょうか? それにノイシュリーベ様達との関係も……」


 エバンスの身形を鑑みれば到底、あの姉弟と釣り合うような身分には見えない。

何よりも当人がそれを自認して振舞っている。

 にも関わらずノイシュリーベからは全幅の信頼を寄せられ、サダューインですら一目置く素振りを何度も見せているのだ。ラキリエルは、いよいよ以てこの狸人(ラクート)の正体……或いは本性について知りたくなってしまった。



 以前のラキリエルであれば、このような質問をすることはなかった。


 己は余所から亡命してきた外様(とざま)であり、彼等の事情に深く首を突っ込む資格はないのだと自制していたからである。


 しかし今は違う。サダューインの悍ましき本性を知り、ノイシュリーベから贈られた新たな衣装を纏い、この地で暮らす一員に成れたのだと思えたからだ。

 ならば踏み込んで質問しても良いだろう。勿論、彼が回答を拒むのならば諦めるしかないのだが。




「ん~~~、そうだなぁ………」


 暫く考え込む素振りを見せながら声を唸らせた。



「……正直、あんまり面白い話じゃないと思うよ?

 このグレミィル半島の昔の事情も説明していかないといけないし」



「だ、大丈夫です!」



「そっか。まあ確かに……疑問を感じたままだと、しっくり来ないだろうしね。

 それに君は自分の本性を既に明かしてくれた。サダューインの本性も垣間見た。

 だったら、おいらも自分のことを明かしておかないと公平じゃないよねぇ」

 

 納得と観念が入り混じった面貌に至りながら溜息を一つ吐いてから、眼前の酒場……『ヒュッケモルン』を指差した。




「かなりの長話になるし、あのお店で何か摘まみながら語ろうか」



「……はい!」


 そうして二人は人通りを掻き別けて店に立ち寄り、オープンテラスの一番端に設置されているテーブル席へと腰掛けるのであった。


・第23話の3節目をお読み下さり、誠にありがとうございました!

 まだまだ紹介しきれなかったお店は沢山あるので、いつか綴っていきたいと考えております。

・さて、次なる第24話は旅芸人エバンスとエデルギウス姉弟の過去に関するお話となり、作者が最も書きたかったエピソードの1つでもあったりします。


・ただ申し訳ないのですが、次回投稿予定日は8/3(日)とさせていただきます。

 どうか ご期待とともにお待ちいただければ幸いでございます!

 重ねて、ここまでお読みくださり、ありがとうございました!

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