030話『雄浸-禍乱は亡霊の脚を喰らう』(8)
「あわわわ……こいつら図体だけの見掛け倒しじゃないですぜ!
脚の先にくっ付いてる鉱物の鎌は、もしかして……」
「ああ、間違いないね。"燦熔の庭園"の『ウェポン』に近い性質だ。
ってことは本体の方にも色々な技術が盛り込まれていそうだよ!」
靄と共に出現し、瞬く間に『ベルガンクス』の冒険者達を薙ぎ払った巨大な生き物はグプタやショウジョウヒ達が居座る後衛にも被害を及ぼしていた。
応戦する彼等の見立て通り、巨大な生き物……『亡霊蜘蛛』が連れて来た生体兵器『バルバロイ』の脚部には魔具の上位互換とされる特殊武器と同じ構造をしていたのである。
「想定外の敵の出現ってのは冒険の醍醐味とは言うけどさ。限度がある!」
高速詠唱で祈りを捧げ、自身の周囲に浮滞する炎の守護霊獣に魔力を提供する。突然の危難を前にして即興で行動する様は、彼女達が世界最強の冒険者ギルドの一角と云われているだけのことはあるだろう。
「『――宵闇を暴く、火迅の太刀』!」
腕を突き出しながら鍵語の宣言を行うと、二頭の大蛇の如き炎波が螺旋を描いて掌へと移りながら収斂されていく。
そうして象られた炎塊を『バルバロイ』に向けて躊躇なく放った。
……ゴォッ ォォォオオ!!
夜天を貫く火柱が昇り、『バルバロイ』の一体が火刑に処された。
巨体の約半分が瞬時に焼却され、肉が焦げる不快な臭いが戦場に充満した。
「うおおおお! 流石はショウジョウヒさんだー!」
「あんなデカブツを一撃だって!? 一生付いていきます!」
「よーし、トドメは俺達に任せてください」
幹部が披露した凄まじい火力と、その戦果を目にしたことで一時的に体勢を崩されていた冒険者達が大いに沸き立った。しかし……。
「待ちな! 様子が変だよ」
術者である彼女は至極冷静だった。
焼却魔法は滞りなく通用し、『バルバロイ』はその半身が消し飛んだ。
だというのに頭部に備わる六つの瞳は聊かも苦痛を訴えてはいなかったのだ。
「あぅぅぅ……」
僅かな呻き声とともに火柱によって半壊した肉体を器用に起こす。
次の瞬間、灼け爛れて炭化した肉体表面に異変が生じ始めたのである。
ボコボゴゴゴ……と歪な音を撒き散らしながら表面の肉が蠢き、膨張し、やがて焼却された部位と同じだけの肉塊が新たに生え始めた。
否、肉塊だけではない……脚の先の特殊武器まで再生されたのである。
「うばぁぁぁ!」
十数秒の後には完全に元の形へと戻り、恰も巨大な赤子のような悍ましき鳴き声を挙げて居合わす冒険者達を戦慄させた。
「……信じられないくらい強力な自己再生能力だ。こいつはかなり厄介だよ!
私の住んでた大陸に蔓延ってる『界獣』並かもしれないね」
「へっへっ、この状況で巨大魔獣みたいな奴が横槍を入れてくるなんざ
偶然にしては出来過ぎていやすねぇ……」
「私達の足止めをするために誰かが意図的に嗾けたっていうのかい?」
「ええ、はい……今、視えている範囲で同じ奴が四体いやがるでしょう?
となれば、相当な広さの土地がなければ飼育や管理は出来ない筈。
この辺りでそれだけの権力を持つ者となればセオドラ家か、
さもなくば大領主であるエデルギウス家の二択になるってことですわな」
「……成程。セオドラは私達の依頼者だから、必然的に後者ってことになるのか。
こんなもんを抱えているなんて、エデルギウス家ってのは
旧い寓話の魔王軍とやらにでもなる気なのかい?!」
これ程の生体兵器を築き上げるまでに、いったいどれ程の悍ましき代償を支払って研究を重ねて来たのだろうか?
大陸を股に掛け、様々な国で危険な魔獣や兵器と遭遇して来た彼等だからこそ、眼前の巨大な生体兵器の危険さを正確に理解していたのである。
「随分と喰い甲斐がありそうな連中が出て来やがったもんだぜ」
狼狽する配下の冒険者達を制しつつ、バランガロンもまた『バルバロイ』達の巨躯を見上げていた。
こうなってしまっては防衛部隊を追撃するどころではない。眼前の脅威に対処することに注力するべきであると弁える。
「……清廉潔白を信条にしてるっていうノイシュリーベが
こんなもん造ってるとは思えねぇが、まあぶっ叩いてみりゃ判る話だよな!」
大戦斧を肩に担ぐようにして構え、深く重心を落として力を蓄えた。
「どっせぇぇい!!」
軽い助走を付けてから大きく跳躍し、渾身の力で大戦斧を振り降ろす。
二メッテを超える巨漢による豪快なる一撃が『バルバロイ』の脚の先に設えた鎌状の特殊兵器に叩き込まれたのである。
大戦斧の着弾箇所を中心に罅が入り、八本の脚のうちの一本を圧し折った。
「ふんっ! 全力で叩きゃ砕けはするが……」
「あぅあぅあああ……!」
欠損箇所から瞬時に肉塊が盛り上がり、一分と経たないうちに元の形状へと戻ってしまう。ヒトの扱う武器による攻撃だけでは、この生体兵器を仕留めるのは途方も無く困難な偉業であることが察せられた。
「だ、駄目だぁ……バランガロンさんの一撃でさえ通用しないなんて!」
「俺達も攻め続けてるけど、斬った端から再生しやがる」
「弓矢も手斧も全然効かねぇよ! 目玉を潰しても、もう生えてやがる!」
凄まじい膂力と破砕力を誇るギルド長の攻撃でも有効打になり得ない事実に、更なる動揺が広がった。
「この程度で浮足立ってんじゃねえよ!
だが成程、な……ちぃっとばかし工夫が必要そうだ」
常軌を逸する脅威を相手にしている状況にも関わらず、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
齢にして六十を越える老年期ならではの皺だらけの皮膚を押しのけるようにして釣り上げた口端は、実に堂に入っている。
今までも、そしてこれからも、この偉丈夫はそうやって嗤い続けるのだろう。
刺激の無い人生はつまらない。自由気ままに戦って、いつか戦場で死に絶えるその瞬間まで彼は己の在り方を変えることはないのだ。
「ぁぁうううう!!」
バランガロンとその周囲に陣取る冒険者達を標的に定めた『バルバロイ』の一体が反撃に移る。
各脚を振り上げ、先端に設えた鎌状の部位を次々に振り降ろしたのである。
「どわぁぁ!!」
「避けろ! あんなもんに当たったら一溜りもねえぞ!」
冒険者達が悲鳴を挙げながら逃げ惑う。ただ一人 バランガロンだけは冷静に敵の攻撃を見極め、自身に直撃する脚だけを捉えて大戦斧で打ち払っていた。
エペ街道でノイシュリーベと交戦した時もそうであったが、この偉丈夫は見た目と性格の割に防御技巧が非常に高いのだ。
故に、そんな彼の鉄壁の防御を突き破って致命傷を与えた者には最大限の称賛を送り、自身の肉体にその時の傷痕を生涯遺すようにしている。
「慌てんな! しっかりと見切ればそう簡単にヒトはくたばりはしねぇのよ!」
十五メッテもの巨体が繰り出す一撃は、只の一振りですら攻城兵器に匹敵する重さと破砕力を秘めている。それを正面から打ち弾くとなれば膂力は勿論のこと、何より常人場慣れした胆力が必要であった。
「んぁぁ……ぅぅあああ!」
『バルバロイ』の攻撃に突如、変化が見受けられた。瞬時に背を向け、蜘蛛型の下半身の臀部を突き出して糸を射出したのである。
然れど、只の糸に非ず。魔力を含んで発光しており、夜中だというのに眩いばかりに輝いていた。
射出された糸は空中で紋様を描くようにして絡まり、拡がりながら冒険者達の頭上より降り注ぐ。まるで漁師が投網を放つかのような光景であった。
「くっ駄目だ、避け切れない……」
「なんだ、この糸……ぐああああ!」
「この痺れは……ら、雷撃?! ぎゃああ!」
「おおぉぉう! こいつはまた、肩こりに効くぜぇぇ!?」
バランガロンを含む数十名が一挙に発光する糸によって捉えられ、魔力が変換された雷気が襲い掛かる。雷気自体はヒトを即死させる程ではなかったが、粘着性の糸としての性質も備えており、捕らわれた者達が抜け出すのは容易ではない。
じわじわと皮膚から肉を焦がされていく拷問のような有様であった。
「……まあ、あんまり長いこと喰らい続けてっと
こういうのはロクなことにならないのがお約束だよな」
他の冒険者の中には早くも雷気の影響で全身が焼け焦げただけでなく白目を向いて泡を吹き、気絶する者も現れ始めた。
どうやら肉体表面の火傷だけではなく、体内の各経絡に浸透した雷気によって身体機能を狂わされたのだろう。このままでは廃人化してしまう。
「動きを封じつつ、じわじわと嬲り殺しにするってか? セコい能力だぜ!」
諸手で大戦斧を握り締め、糸が絡まっているにも関わらず豪快に振り回した。
ぶちぶちぶち……と糸が千切れ、同時に大戦斧より発した冷気によって氷結させることにより雷気の流動を封じ込める。
「ぬぅぅぅん!!」
更に、その場に立ったまま旋回。円を描くようにして何度も大戦斧を振り回しながら冷気の波濤を拡散させ、配下の冒険者達に絡まる糸も氷漬けにしたのである。
「がはははっ! これで脳髄を灼かれる心配はないだろうぜ。
……凍死しなければの話だがな!」
豪快に嗤いながら嘯き、そして大戦斧を天高く掲げた。
「そんじゃあ、ちぃっとばかし本気で行くか。
我が相棒『イスカルダ・リガーレ』よ! 陸で済まねぇが目覚めてくれや!」
銘を呼び、己の得物の真なる力を解放する。
さすらば大戦斧が発する冷気の位階が一段と増し、刀身の表面を分厚い氷の塊が覆い尽くした。
バランガロンの周囲は極寒と化し、近付いただけで凍結する程の氷河もかくやといった有様だ。
「ずおおお…………りゃあああああ!!」
再び二メッテの偉丈夫が大跳躍を行い、『バルバロイ』の脚の一本を叩き斬ると同時に大戦斧が着弾した箇所を即座に凍て付かせる。
更にこれを起点として蜘蛛の脚部から本体に掛けて凍結範囲を広めていった。
「即時再生するっていうんなら、一旦氷漬けにしちまうのが手っ取り早いわな」
同じ要領で他の脚部も次々に打ち砕き、凍結させ、やがてヒトガタの上半身に至るまで全てを氷漬けにする。その間も絶えず反撃を受けていたがバランガロンはその全てを的確にやり過ごしていった。
そうして戦場の一点だけが急速に熱を失い、停滞していく。
「いよぉぉし! お前等、生きてるか?
こういうデカブツってのはなぁ、どっかに必ず存在核が有るもんなんだよ。
まだ動ける奴は集中砲火でそれを完膚無きにまで砕いちまいな!」
「うおおお! お見事ですバランガロンさん!」
「お頭に続けー! 生き残ってる奴は畳みかけろ!」
「全員で一斉に叩き潰せばなんとかなるぞ」
通常なら激しい攻防の中で存在核を探り、針の穴に糸を通す様な精度の攻撃で貫く必要があるのだが、彼等は数の暴力で凍結した肉塊を全て砕いてしまえば良いという結論に至った。勿論、言うは易しである。
しかし多大な損害を被りながらもギルド長の武力と手管を駆使することで動きを封じ込め、高位の冒険者達が徒党を組むことで、この馬鹿げた結論を成し遂げていくのであった。
「まさか吸血種まで出て来るなんて♥
イェルズール地方の奥地でひっそり生き永らえるだけの種族じゃなかったの?
それに、その子……明らかにこの巨大魔獣と似てるわよね」
戦場に姿を現したルシアノンとジューレを一瞥したクロッカスは、特にジューレの容姿が『バルバロイ』達と類似していることを目敏く察した。
「くふふ……お主のような男か女かも、敵か味方かも分からぬような輩に
答えてやる道理などはないのぅ。
テジレアや、そこで転がっている狼の坊やを連れて疾く 去れ」
「……あんた達だけで大丈夫なのかい?」
「大丈夫なわけなかろうて。私だってこんな輩の相手などしたくはない。
じゃが他に手立てもなかろう? 何事に於いても遅さは罪よな」
「きっと、上手くやる! だからテジレアは先に行ってて!」
渋面を浮かべながら戦場に立とうとするルシアノンとは対照的に、ジューレのほうは鼻息を荒げつつもやる気に満ちた面貌であった。
生まれて初めて外出した高揚感と、初陣の緊張感が合わさっているのだろう。
一方、敵対するクロッカスはそんな彼女達の様子を興味深そうに眺めていた。
「馬鹿……が! 死に掛けの奴なんて置いてさっさと……行きやがれ!
それに雌なんかに助けられるなんざ……末代までの恥だ……」
「馬鹿はそっちだろう? 天下の『翠聖騎士団』の部隊長様が死んじまったら
ヴィートボルグを守っている連中の士気に大きく響く。
そうなりゃ巡り巡って私達の主君も困っちまうのさ」
「……チッ」
死の淵に有りながら最後まで悪態を吐くペルガメント卿の右肩部に魔具製の布を被せ、切断されて地面に転がっていた右腕と一緒に彼の身体を担ぎ上げる。
矮躯なれどテジレアはドワーフ種。膂力は一般的な純人種とは比較にならない。
「目の前で獲物を逃すと思っているのかしらぁ?」
一連のやり取りを眺め終えたクロッカスが駆け出し、紫の風が再始動する。
瞬き一つの間にテジレアに近寄って刀剣を振るおうとしたが、その寸前にて動きを停めて右方向へ短く跳んだ。
合計十本からなる真紅の触手のようなものが飛来したからである。
「んふ♥ 吸血種の血唱魔法ってぇ、こんなに器用に曲げられたのかしら?」
ヒュヒュヒュン……と目にも止まらぬ速度で刀剣を振るい、自身に迫った真紅の触手を容易く細切れにしてみせる。
すると触手達は媒介である血液に戻って飛散した。
「私のママはとっても賢いから、色々と工夫をしてるんだよ!」
真紅の触手の発射元であるルシアノンを背に乗せたジューレが誇らしく語りながら、八本の蜘蛛の脚を巧みに動かしてクロッカスとの距離を詰める。
「でやぁぁ!」
彼我の距離が十メッテ程まで縮まるとジューレは右掌で握る魔具杖を豪快に振るった。彼女の動きに連動して先端部の金属が伸長し、触手もしくは鞭のようにしなやかに唸りながらクロッカスへと襲い掛かる。
ギィィン……!
「あら、随分と硬いじゃない」
先刻の真紅の触手と同じ要領で、この金属の触手も刀剣で断ち斬ろうとしたが刃が徹らなかったことに軽く驚いた声を漏らす。
凡庸な剣士や冒険者ならばいざ知らず『ベルガンクス』最強の武芸者であるクロッカスの斬撃を拒んだのだから、ジューレの扱う魔具杖が如何に特殊な材質で造られているのかが伺えた。
「ん~、この感触からしてマッキリーの複層魔鋼材……のレプリカかしらぁ?
そんな稀少なものをよく手に入れられたわねぇ」
「くふふ、存外に博識じゃのう」
追撃とばかりにルシアノンが十本の真紅の触手を再構成して解き放っていた。
なおマッキリーとは、大陸北部で栄えるキーリメルベス連邦の中核を成す軍事大国であり、数々の高度な兵器を産み出しているという。
複層魔鋼材という素材はその中でも特に稀少な代物の一つであり、他国の……それもラナリア皇国に属する土地で見掛けることなど本来なら有り得ない。
「ドワーフに吸血種、それに巨大な蜘蛛人といい。
貴方達のご主人様はとっても凄い蒐集家みたいねぇ……趣味は悪いけど!」
紫の風が吹き荒び、真紅の触手を細切れにしながらジューレに接近。
魔具杖を持つ右掌と、付近の蜘蛛脚を斬り裂こうとした。
「……さ、させぬわ!」
ルシアノンが両掌を突き出し、予め備えていた六角形状に構築した血液を複数枚並べて大盾のように展開した……が、その護りは容易く切り裂かれて、ジューレの脚も二本ほど諸共に切断されてしまう。
「うぅ……痛いよ」
「ジューレ、退くのじゃ!」
「……うん!」
残った六本の脚を懸命に稼働させて跳躍。再び十メッテ程の距離を取った。
「アタシの斬撃波がギリギリ届かない間合いを維持したいって感じかしら?
姿を現す直前までアタシと狼人ちゃんの戦いを見学していたみたいねぇ。
……けど、残念でした」
少しだけ感心しながら その場で刀剣を構え、振るう。
するとギャリリリィ……という怪音が鳴り響いた後に、ジューレが立つ空間が切り刻まれた。
「………ッ!? あぅぅ!」
空間の断裂に晒された彼女の蜘蛛脚が更に二本 斬り飛ばされ苦悶の表情に支配される。そして紫の風は音も無く近寄り、ジューレを仕留めに掛かった。
「この……化け物めが!」
ルシアノンが腕を振るい翼爪に形状を変えた血液で迎え撃とうとするが、そんなもので紫の風を阻むことは出来ない。当たり前のように細切れにされてしまう。
「んふっ♥ 貴方は器用だけれど吸血種としての強さは下の下ってところね」
「生憎と、私はただの研究者じゃからな。
本当ならこんな悍ましい現場になぞ出とうなかったわ」
「健気ね~。そういう女性は個人的に尊敬しちゃいそうになるわ♪」
「お主に認められても嬉しくないのぅ。
……ええい、仕方あるまい。我が子達よ、こやつを喰らうのじゃあ!!」
左腕を掲げ、爪の先より糸のように伸ばした血液を後方の空間に向けて放つ。
彼女の奇怪な行動を警戒したクロッカスは瞬時に刀剣を振るう腕を停めて血液の糸の先を見上げた。
ズズズズ……と大きな布が垂れ落ちる音がすると同時、予備戦力として最後まで隠されていた二体の生体兵器『バルバロイ』が姿を現した。
これにてルシアノン達が連れて来た六体全てが投入された形となる。
「……やるじゃなぁい」
二体の巨躯を見上げながら不敵に微笑み、一瞬だけ背後を振り返る。
そこには既にテジレアと瀕死のペルガメント卿の姿は無かった。
闇夜に紛れて撤退したのだろう。
更に視線を巡らし、味方である冒険者達の様子も伺う。
どうやら『バルバロイ』の一体はバランガロンが数十人の配下と共に討伐しつつあるようだったが、他の三体は未だに健在で猛威を振るっている。
そこに追加で二体も投入されたとなれば、早期に対処せねば自分達が狩られる側に陥るのは明白であった。
「なにがなんでもにアタシ達を喰い止めたいっていう、熱い心意気は伝わったわ」
「くふふ、歓ぶのじゃニンゲンよ!
これなるは先代の魔導研究所の責任者、ダュアンジーヌの遺産……。
それを息子のサダューインが受け継ぎ、私が手を貸して完成させた子達じゃよ」
右腕を前方に突き出し、『バルバロイ』達をクロッカスへと嗾ける。
「やれぃ! やってしまえ! こやつは入念に爪と牙を突き立てて喰らうのじゃ。
……ジューレよ、怪我をさせてしまって済まぬのう。もう退がって良いぞ」
「だ、大丈夫だよ ママ……でも、あとは妹達にがんばってもらうしかないね」
自身はジューレの背に乗ったまま、脚を捥がれた彼女を労わりつつ後退させた。
後に残されたのは二体の『バルバロイ』とクロッカスのみ。
流石のクロッカスといえど、この状況下で迂闊に追撃を試みることは出来ない。
「ダュアンジーヌ様がこんなものを造ろうとしていたですって……?
面白いわぁ。いったいどれ程のものか、俄然 興味が湧いてきちゃった」
猛禽類を彷彿とさせる眼光を炯々と灯して睨み据えながら、頭上より降り降ろされる『バルバロイ』達の巨大な蜘蛛脚を避けると同時に刀剣を一閃。
鎌状の脚部の先端を両断してから駆け出し、巨体を登りながら凄まじい速度で何度も何度も切り刻み始めた。
「あはははは♪ 肉体が再生するよりも疾く切り刻んであ・げ・る♥
そうすればぁ? どこかで存在核が見付かるでしょうよ!」
つまるところ総当たりでこの生体兵器を暴こうというのだ。しかも一人で。
常人であれば仮に考え付いたとしても即座に諦めるようなことを、この長身の二刀流剣士はむしろ喜々として実行したのである。
解き放たれた合計六体もの『バルバロイ』と、残存する『ベルガンクス』による死闘が幕を開け、防衛戦は新たな局面へと突入した。
その一方で壊滅的な被害を被った防衛部隊は、数を大きく減らしながら最寄りの町へと駆け込み、死者の弔いと重傷者達の手当のため行動不能へと陥っていた。
【Result】
・第30話の8節目をお読みくださり、ありがとうございました!
・生まれたばかりとはいえ巨大な生体兵器(再生能力付き)を複数体相手に出来るのも
『ベルガンクス』の武力あってこそ、ということで彼等の強さを少しでもお伝えすることが出来ていたら幸いでございます。
・次回更新予定は11/13となります! こうご期待ください。




