表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
130/132

027話『勇進-晴れ渡る大地』(4)

・今回も引き続きラキリエルの一人称視点となっています。


 カラン カラン……。


「(あの御方は……)」



「あらあら、まあまあ……今日は珍しい方々がお越しになられますわ」


 

「暫くぶりだな、グンボリー殿。

 実は急ぎ買い求めたいものがあって馳せ参じた……ん、貴方は」


 入店されたのは城館で勤務されている多面騎士(レングボーゲ)のエゼキエル様だったのです。

 先客である わたくしの姿に気付くと、こちらにも視線を向けてこられました。



「ラキリエル殿か。……成程、遠征のための買い出しをされておられるのだな。

 小生も今し方、同行させる多面騎士(レングボーゲ)の選抜を終えて報告を済ませた次第。

 どうか彼等のことをよろしく頼みたい」



「お世話になるのは、わたくしの方だと思いますので!

 ともあれ時間に余裕が出来ましたので、前々から気になっていたこのお店に

 初めて足を運びました。エゼキエル様もお買い物ですか?」



「然様。故郷で暮らしている小生の娘に贈り物を用意しようと思いましてな。

 今年の秋より冒険者として活動すると報せを受けたので、その記念に……と」


 エゼキエル様は、嘗て南イングレス領の角都グリーヴァスロで務めていた騎士でしたが、ノイシュリーベ様に請われてグレミィル半島へと渡って来られました。

 その際に奥方とお嬢様はグリーヴァスロの住居に留り、半ば単身赴任のような形となっているそうです。


 エバンスさんが語ってくれた昔話の中でエゼキエル様に関する一節も僅かに含まれていたために、断片的ながら彼の家族構成などを知り得ていたのでした。



「まあ……! お嬢様は冒険者になられるのですね。

 確か、冒険者として正式な資格を得ることが出来るようになるのは

 成人である十五歳から、でしたっけ」



「如何にも。娘は今年で十九歳、妻と同じ魔術師寄りの冒険者を目指すとのこと。

 ……昔はノイシュリーベ様の影響を受けて「私も騎士を目指したい」などと

 言って聴かなかったものですが、我が娘ながら右往左往したものです」



「わたくしと同い年なのですね。

 自らの路を選択されて、歩み出されたのなら喜ばしいことです。

 お嬢様の門出が幸多きものとなるよう、お祈りさせていただきます」



「ははは、そう言って下さるのなら娘もきっと喜びましょうな!」


 わたくし達の会話を聞いていたグンボリーさんは、話の途中から奥の棚の前まで移動して、幾つかの商品を見繕って再びカウンターまで戻って来られました。

 古本屋と銘打たれてはいましたが、魔具を始めとした雑貨も取り扱っておられるのです。




「目出度い門出をお祝いしたいのでしたら、こういったものは如何かしら?」



「ほう、流石ですな。どれも見事な品ばかりだ!」



「とても綺麗です……」


 持ち出されて来た品々を目にしたエゼキエル様が感嘆の声を挙げ、わたくしも思わず同じように率直な感想を零していました。


 そこには見事な装飾が施された鞘に納められた短剣、銀細工と宝石が美しい護符(アミュレット)、羽根飾りがあしらわれた髪留めの三種が並べられていたのです。



「ふふふ、この三つは少し特殊な魔具(デミ・マギア)ですの。

 使い熟すことが出来れば、きっと冒険のお役に立ちますわ」



「ふぅむ……特殊とは、どういった意味合いでのことなのですかな?」



「実は、この三つの魔具は亡きダュアンジーヌ様がお造りになられた試作品。

 普通は魔具という物は魔術の術式を刻印するものですけれど、

 この魔具達は例外的に魔法を一つだけ封じ込めることが出来ますの」



「ほほう」



「えっ、そんなことが……現実に可能なのですか!?」


 魔法についてあまり詳しくないご様子のエゼキエル様は、単純に頷かれておられましたけど、それなりに心得のあるわたくしは、ただただ驚くばかり……。


 それもその筈で、魔法(スペリオル)とは術者が交信した精霊等に祈りと魔力を捧げることにより様々な現象を引き起こしてもらうという所作なのです。

 したがって、道具でそれを再現するのは不可能と言われておりました。



「そこがダュアンジーヌの様の凄いところだったのですよ!

 あの御方が試作された、この魔具達には、精霊を模した機構(システム)……もしくは

 常軌を逸する幻象(システム)が組み込まれているのです」



「……???」



「ふふふ、つまり予め魔法使い(ドルイド)魔法(スペリオル)を発動させるでしょう? 

 その効果を魔具(デミ・マギア)に内蔵してある疑似精霊に記述させることで

 一度だけ、その魔法を誰でも放つことが出来るようになるのです」



「うむむ……小生には今いちピンと来ませんが、

 つまるところ使い捨ての魔具という認識でよろしいのですかな?」



「そうですねぇ、後から魔法を入力し直すことで

 再利用が出来るようになるかもしれませんが、基本的にはそれで合ってますわ」



「……凄いです! そのような技術が存在しているなんて!」



「いやいや、なにをおっしゃいますか。

 このダュアンジーヌ様の試作品の数々を経て築き上げられました物こそ

 あのノイシュリーベ様が着用されておられる白く輝く全身甲冑なのですよ」


 やけに詳しく語っておられることから、どうやらグンボリーさんはダュアンジーヌ様とは何等か形で深く関わっておられたご様子ですね。



「……とはいえ疑似精霊は、精製に必要な素材と場所が限られているそうでして

 そう滅多に造ることは適わず、量産の目途も立っていないのだとか……。

 いずれにせよダュアンジーヌ様亡き今となっては失伝技術(ロストテクノロジー)となりました」


 グレミィル半島は他の地と比べて、特に魔法使い(ドルイド)の数が多いと云われています。

 もしも魔法を留めておける魔具が量産されていたとしたら現代の戦争の在り方を一変させていたのかもしれない……と、戦には詳しくない わたくしでも容易に想像することができました。



「ほう……あの御方の甲冑には、そのような経緯があったのですな。

 グンボリー殿、そのような貴重な品物を用意してくださって痛み入りますぞ」



「この古惚けた店にずっと置いておくよりも前途有望な若者の手に渡るほうが

 魔具もきっと本望でございましょう。どうぞお役立てくださいな」



「然らば……この護符型の魔具を購入させてくだされ」

 

 少し悩まれた末に、三つの魔具の中より一つだけ手に取られました。



「三つともお持ち帰りいただいても、よろしいのですよ?」



「はっはっは! そうしたいのは山々なのですが、欲張り過ぎは良くない。

 それに駆け出しの冒険者では武具や魔具の手入れも覚束ないことでしょう。

 故に、この護符に絞らせていただきたい」



「そういうことでしたのね。

 ふふ、質実剛健なエゼキエル様らしいこと……」


 優しく微笑みながら得心のいった表情をされたグンボリーさんが早速 贈呈品用の木箱を用意し始めまして、その間にエゼキエル様は硬貨の詰まった革袋を懐から取り出して、代金を支払っておられました。

 ちらりと見てしまったところエディンではなくグレナ金貨を使用されています。


 そして、エゼキエル様がお選びになられた魔具を見詰めているうちに、ふと気になることが浮かび、思い切って尋ねてみることにしました。



「あの、この魔具に留めておける魔法というのは

 どのような種類の魔法でも可能なのでしょうか……?」



「そうですわねぇ……私も全てを試したわけではないので確証はありませんけど

 ダュアンジーヌ様のことですので、幅広く対応された代物だと思いますよ。

 ……たとえば貴方が行使しておられる、アルダイン式の古代魔法なども」



「……ッ!!」


 初対面にも関わらず、わたくしが純人種の姿を象るために魔法を用いていることに気付いておられたのです。

 スターシャナさんといい、ノイシュリーベ様といい、とても鋭い分析力です。

 グレミィル半島で暮らしておられる方々にとって魔法とは、真に身近なものなのであることを改めて実感いたしました。


 ですが言われてみれば確かに、わたくしの習得している古代魔法……海神龍ハルモアラァト様を根源とする旧き時代の秘法が適用されるかどうかは非常に興味深いところではありました。



「ふふ、もし良ければこの場で試してみては如何がかしら?

 魔具を手に取り、裡側に魔法を籠めるように発動させるのがコツですわ」



「よ、よろしいのですか……? とても貴重な魔具なのでは……」



「売り物に手を付けることをご懸念されておられるのなら

 小生が購入した、この護符で試してみなされ。

 仮にラキリエル殿の、あの素晴らしい魔法を封じ込めることが適ったなら

 是非ともそのまま娘に贈らせていただきたい」


 数日前、白亜の壁の上で"五本角"のエアドラゴンさんとの戦いの場に駆け付けた際に、エゼキエル様はわたくしの放った魔法を目にしておられましたので、きっとそのことを仰られているのでしょう。



「分かりました、それではお言葉に甘えて……!」


 遠慮よりも興味のほうが勝り、グンボリーさんとエゼキエル様のご提案を受ける形で、わたくしはハルモアラァト様に祈りを捧げることになりました。


 ただ、わたくしが純人種として振舞うために常時発動している『幻換(チェンジリング)』の秘法……『叡理の蒼角よ(グラド)、常理を反せ(ヴァーレ)』はかなり特殊な条件が揃わなければ機能することはありません。


 試してみるとしたら、もう少し汎用性がある方が良いのかもしれません。



「……エゼキエル様。もし封入が成功して、お嬢様がご使用されるとしたら

 攻撃、防御、治療の三つのうち、どれが最もお役に立てるでしょうか?」



 攻撃の『叡理の蒼角よ、(ディエス)海鳴に()煌き給え(イレ)』は、海底に棲息する深海龍の音子振動哮(ドラゴンブレス)を模倣したもので、ザントル山道で交戦した魔具像(ゴリアテ)の装甲を貫けるくらいの破壊力はあります。


 防御の『叡理の蒼角よ(エテル)墓標を護れ(ナム)』は、水圧の渦膜であらゆる衝撃を弾く性質を持っており、エアドラゴンさんの荷電粒子哮(ドラゴンブレス)を防いだこともありました。


 治療の『叡理の蒼角よ(ラクリ)詩顎を開け(モーサ)』は、わたくしが最もよく使用している秘法で、条件にもよりますが瀕死の重体や四肢欠損状態からでも正常な状態へと肉体を復刻させることが出来ます。




「ふぅむ……軽く説明を聞いただけで、魔法というものに疎い小生でも

 それが凄まじい効力ばかりなのだということが伝わってきますぞ……」



「まさに、まさに……これほど強力な魔法の遣い手はそうそう居ませんとも」


 お二人とも、わたくしの説明を受けて目を見開いておられました。

 そ、そんなにすごいものだったのでしょうか……!?




「そうですな、その中なら防御の秘法を所望いたしたいところです」



「これから冒険に出る子でしたら治癒魔法の代替手段を得るほうが

 よろしいのではなくて?」



「一応、我が娘も魔術での初歩的な治癒術ならば習得しております。

 ただ全体的に攻撃魔術に偏重しているためか、防御が不得手と言っていた。

 そこで、あの壁の上での戦いでご披露くださった古代魔法を是非に!」



「ふふ、怪我を治す手段ではなく、そもそも怪我を負ってほしくない

 ……という親心ですのね」



「ははは、そうとも言いますかな!」


 お二人のやり取りを耳にして、わたくしも納得いたしました。



「そういうわけで、二つ目にご紹介あった秘法を試していただきたい」



「かしこまりました! それでは、お借りいたします」


 エゼキエル様が購入された護符……木箱に詰め込まれる寸前だったものを両掌で触らせていただきながら、わたくしは総身の魔力と意識を稼働させ始めたのです。





「楚々たる大海の赤誠、空漠の招請賜りし蒼角の龍に希う。

 いと尊き深海の揺り籠よ、儚き幻日の想世を赦し給え。


 『――叡理の蒼角よ(エテル)墓標を護れ(ナム)』」





 いつも通り、詠唱句を唄い挙げてハルモアラァト様へ魔力と祈りを捧げ終えると掌より蒼光が迸り、大気中の水分子を増幅させた渦が巻き起こります。

 ですが効果範囲を魔具の中枢に設定していたためか、激流の渦は瞬時にして護符の直中(ただなか)へと呑み込まれていったのです!



 シュゥゥゥゥ……。


 まるで鉄と鉄を溶接するかのような音が暫くの間 鳴り響き続けました。

 そうして秘法の効果により発生した蒼光が完全に収まる頃、護符を象った魔具が蒼く明滅していき……やがてその微光も霧散していったのです。



「……成功ですわ、素晴らしい!」


 魔具の様子を注意深く見守っていたグンボリーさんが、感嘆の声を挙げました。




「護符の中央に設けられた人口魔晶材(イミテイタス)が蒼くなっているでしょう?

 これは何らかの魔法が封入されたことで変色したのですよ」


 たくさん皺が刻まれた指で、ゆっくりとその箇所を指し示されました。



「あとはこの魔具を持つヒトが、先程 ラキリエルさんが口にされていた健語を

 もう一度、唱え直せば封入した魔法を呼び出せる……という仕組みなのです」



「おお! 改めて、我が娘には勿体ないほどの代物ですな。

 ですが今日この日の御縁 有っての奇跡と弁え、有難く贈らせていただこう。

 ラキリエル殿、グンボリー殿、誠に感謝いたす!



「よかったです! ……それにしても、ダュアンジーヌ様の魔具というのは

 とてもすごい代物ばかりなのですね」


 寡黙なエゼキエル様にしてはとても珍しく、破顔されて喜んでおられるご様子。

 釣られてわたくしも、思わず喜々として笑みを浮かべながら、残りの魔具達を改めて拝見しました。



「ラキリエル殿、もし良ければ此度の御礼として残り二つの魔具のうち

 片方を貴方に贈らせていただきたいと考えたのだが、如何だろうか?」



「えっ、そんな……こんなとても貴重で、しかも値の張るものを……」


 先程、エゼキエル様が支払っておられたグレナ金貨は途轍もない枚数でした。

 しかも何枚か大金貨も混ざっていたことを、わたくしは見ていました。

 大金貨は、おおよそ金貨三枚から四枚分の価値があると聞かされております。



「なんの、なんの。貴方に施して頂いた秘法の価値を鑑みれば

 むしろ謝礼としては釣り合っているかどうか……。

 それに小生は、家族への仕送り以外ではあまり金銭を吐き出さぬ身……。

 こういった機会に使わねば、無意味に溜め込む一方ですのでな!」


 確かにエゼキエル様は生粋の武人肌で、お金の掛かる趣味や娯楽などにはあまり関心を持たれないのでしょう。お酒も飲まれないそうですし。



「ですが……」



「ふふ、いいじゃありませんか。

 殿方のご厚意は、素直にお受けしておくのが良い淑女の嗜みですわ。

 私としてましても、ダュアンジーヌ様の遺された魔具が世に出ていくことは

 とても喜ばしいことですし」

 


「うぅ……」


 わたくしは少し考えた末に、断るのも申し訳ない気がしたのでご提案を受けることにいたしました。



「分かりました、それでは有難く受け取らせていただきます」



「はっはっは! それは重畳!

 なれば、この短剣型の魔具をお贈りいたしましょうぞ」


「あらあら、淑女へ贈るのでしたら

 もう片方の羽根飾り型のほうがよろしいのではなくて?」


「いやいや、小生は妻子ある身であり武人の端塊(はしくれ)ですからな。

 羽根飾りのような装飾品を贈る資格はござらん!

 そういった代物は、彼女に相応しき御仁から受け取るのが良かろう」



「ふふ、確かにその通りですわね」


 などといったやり取りが交わされた後に、グンボリーさんは木箱をもう一つご用意なれて、短剣型の魔具を梱包してくださいました。

 その間にエゼキエル様はほぼ同額のグレナ金貨で支払いを済ませていました。



「はい、出来上がりましたよ。こちらはエゼキエル様のお嬢様への魔具。

 こちらはラキリエルさんへの魔具でございます」



「グンボリー殿、今日は本当に素晴らしい買い物をすることが適った。

 折あらば、いずれ再び立ち寄らせていただく」



「こちらこそ、良い取引ができましたわ。またのお越しをお待ちしております」



「そしてラキリエル殿! どうかお納めくだされ」


 二つの木箱のうちの片方を、わたくしの前に差し出してくださいました。



「あ、ありがとう……ございます! 大切にいたします」



「貴方は明後日よりウープ地方へ遠征に赴く身。

 なれば自前の短剣は持参しておいて損はないでしょう。何かと役立ちます。

 もし未だお持ちでなかったのなら、遠慮なくご使用されたし」



「はい!」



「ふっ……それにしてもノイシュリーベ様の周りに

 貴方のような歳の近い女性が増えることは誠に喜ばしきことですな」


 少し昔を思い出すかのような、遠い視線で虚空を見詰め始めておられました。



「そういえばエゼキエル様は、騎士修行時代のノイシュリーベ様に

 公平に接しておられた数少ない騎士様とお伺いしております」



「……ええ、確かに。それは事実です。

 しかし苦境に喘ぐあの御方を救って差し上げるまでには至らなかった。

 無力な小生は、ただ己の役割を真っ当することしか出来なかったのです……」

 

 悔恨の色が滲んだ口調からは、彼の真摯さが滲み出ているようでした。



「結局、あの御方はご友人であるエバンス殿の激励によって立ち直られた。

 小生が誇れるようなことは何一つとしてござらん」



「いいえ、そんなことは……ないと思います!

 当時のノイシュリーベ様とエバンスさんが再会されるまでの間、

 彼女が精神を保てていたのはエゼキエル様がいらっしゃったからこそです!」


 もしエバンスさんが角都グリーヴァスロに到着される前にノイシュリーベ様の御心が潰されてしまっていたら……きっと騎士になるという夢は適わずに帰郷されていたことでしょう。

 お二人の友情や愛情、理想へ向けての旅路も頓挫していたに違いありません。


 そしてわたくしも、ノイシュリーベ様が皆の先陣を駆ける騎士でなかったとしたら、果たしてグレミィル半島に上陸を果たしたあの夜に、救出されていたのかどうか定かではありません……。



「そのように仰っていただけるならば、少しばかり救われますな」


 わたくしの言葉を受けて、エゼキエル様は僅かに表情を緩めました。



「ラキリエル殿、どうか今後もノイシュリーベ様のお近くに居てあげてくだされ。

 あの御方は大領主として不必要なものを無理やりにでも削ぎ落した上で

 英雄を継ぐ者という甲冑を纏って現在の地位に立っておられる。

 エバンス殿が居られるとはいえ、本心を語れる者は多いに越したことはない」



「はい、ノイシュリーベ様と……サダューイン様、に救っていただいたこの命

 エデルギウス家の皆様の益となれるよう頑張ってみるつもりです」



「どうかよろしく、お頼み申し上げる。

 ノイシュリーベ様がグリーヴァスロにご滞在されていた時は、我が娘も随分と

 あの御方に懐いておりました。また妹のように扱ってもらっておりました。

 娘と歳が同じ貴方のことも、きっと妹のように感じておられるのでしょうな」



「ああ、成程……それで……」


 今も頭に着用している瑠璃色の髪留め布(カーチフ)にふと触れてみました。


 ノイシュリーベ様がその昔、御父上であるベルナルド様より贈られた代物と聞かされておりましたが、そのような大切な物をわたくしなどにお譲りくださったのも

エゼキエル様がおっしゃるように、妹のように扱ってくれておられるからなのかもしれません。


 そう思うと色々と府に落ちました。

 それと同時に、なんだか心の奥底で温かいものが込み上げてきます。



「わたくしに出来る限りのことをしてみます。

 エゼキエル様、色々と教えてくださって ありがとうございました。

 この短剣型の魔具も、大切に使わせていただきますね」


 魔具が納められた木箱を両掌で抱え、エゼキエル様に頭を下げながら御礼の言葉を述べました。



「グンボリーさん、また近いうちにお店に立ち寄らせていただきます!」



「ええ、またのお越しをお待ちしておりますわ」


 そうしてわたくしは『グンボリー婆さんの古本屋』を後にするのでした。



 外に出ると、リーテンシーリア広場はすっかり黄昏時の橙色に染まっています。

 そろそろ魔具制の街灯が燈り始め、一日の仕事を終えた人々が帰路に着く頃合いですので往来が激しくなっていくことでしょう。


 お店の外で待ってもらっていたリジルさんに乗り、わたくしは夕暮れの丘陵を登っていきました。


 


 本日はサダューイン様への想いを検めたり、エゼキエル様のお嬢様とノイシュリーベ様のご関係などを知ることが出来て新たな心境へと至りました。

 いやしくもエデルギウス家の方々と深く関わることになった身である以上、現在の立ち位置に相応しい存在に成りたいと一段と強く思うばかりです。


 そうすれば……きっと、あのお店に並べてあった色とりどりの御伽噺(ユメ)の残滓を、何の躊躇もなく手に取ることが出来ることが出来るような気がしたから――

・第27話の4節目をお読みくださり、ありがとうございました。

・エゼキエルの掘り下げも同時に出来ていれば幸いでございます。

 彼の娘と、今回贈ることになったラキリエルの魔法入り魔具に関しては、いつか外伝のどこかで描きたいなと思いつつ……!


・次回更新予定日は10/10となります。

 いよいよウープ地方へ向けての遠征となりますので、こうご期待下さいませ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ