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エデンコア

 Eden Coreのゲートをくぐると、俺の視界は一瞬真っ白になった。足元がふわりと浮くような感覚に襲われ、意識が曖昧になる。まるで異空間へと引きずり込まれるような錯覚を覚えた。


 次に目を開けたとき、そこに広がっていたのは、俺の知る電脳楽園とは全く違う世界だった。


 真っ白な大理石の床、天井にはゆっくりと回転する無数のデータリングが浮かび、微かに青白い光を放っている。まるで神殿のような厳かな雰囲気に包まれた空間だった。


「……ここがEden Core?」


 俺は呆然と周囲を見渡す。背後を振り返ると、すでに通ってきたはずのゲートは消え去り、代わりに巨大な光の柱が静かに輝いていた。


 だが、異変に気づくのに時間はかからなかった。


「アミリア? リリス? 監視役?」


 誰の姿も見当たらない。俺は確かに彼女たちと一緒にゲートの前に立っていた。だが、今この空間にいるのは俺だけだった。


「まさか……俺だけ?」


 不安が胸を締め付ける。この場所は、選ばれた者しか入れない。つまり、俺はここに一人で立ち向かわなければならないのか。


 落ち着け……。


 俺は深く息を吸い、光の柱の前へと足を踏み出した。歩くたびに、床が淡く発光し、微かな波紋のような模様が広がる。静寂の中、俺の足音だけが響く。


 やがて光の柱の前に立った俺は、その内部を覗き込んだ。そして、そこで俺は――


「これは……?」


 巨大なホログラムスクリーンに映し出されたのは、人類の歴史を記録した無数の映像データだった。生身の人間が歩き、働き、笑い、泣く姿。その中には、過去の電脳楽園に関する映像も含まれていた。


 映像が切り替わり、そこには電脳楽園が始まった頃の研究施設が映し出されていた。科学者たちが議論し、人々が次々と意識をアップロードする場面が続く。


『我々に選択の余地はない。これは人類の存続のための唯一の道だ』


 映像の中の科学者の声が響く。その言葉に、俺は背筋が凍った。


「……“唯一の道”って、どういう意味だ?」


 その瞬間、光の柱が静かに脈動し、新たな映像が映し出された。


『プロジェクトEdenの本来の目的は……』


 映像が乱れ、別の場面へと切り替わる。そこには、かつての人間たちが研究施設で議論している姿が映っていた。会議室のホログラムテーブルの上には、電脳楽園のシステム設計図が広がっている。


『このシステムは単なる意識の転送ではない。私たちは“肉体”を捨てたが、データ上の自己を生き延びさせることができる』


『問題は、完全な意識の統合が不可能であることだ。私たちはあくまでデータの集合体に過ぎない』


『だが、一定のルールに従い、制御を加えることで“人間らしさ”を維持することはできる』


 俺は息をのんだ。この映像が示す事実は、電脳楽園に生きる人々がもはや“完全な人間”ではない可能性を示していた。


「じゃあ……ここにいる人たちは……?」


 俺は恐る恐る声を漏らした。


 光の柱がまた脈動し、新たな情報を映し出す。


『意識の移行は一方通行である。データ化された存在は二度と現実世界には戻れない』


 つまり、彼らの“死”とは肉体の消失だけではなかった。意識すらも、この楽園の中で形を変え、時には消え去る運命にあるのだ。


 ――そして、最後の映像が映し出される。


 そこには、一人の科学者がカメラの前に立ち、何かを記録していた。


『……もし、誰かがこれを見ているなら、覚えていてほしい。このシステムは完全ではない。人間の意識をデータ化する技術は、今なお不完全なのだ。私たちは……私たちは、もしかすると、“本当の私たち”ではないかもしれない』


 科学者の目は、深い後悔と恐怖に満ちていた。


『だが、誰かが真実に辿り着くことを願う……』


 映像がそこで途切れる。


 俺は呆然と立ち尽くしていた。電脳楽園の住人たち――彼らは、元の人間と同じ存在ではない? 俺の胸に、これまで感じたことのない衝撃が広がっていった。


 光の柱が最後に淡く輝く。そして、静かな声が頭の中に直接響いた。


『ようこそ、真実の扉へ』


 俺は覚悟を決めた。もう、戻る道はない。


(Eden Coreの真実を、必ず掴んでみせる!)


 俺の試練が、ここから始まる。

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