脱出
訓練を重ねて一週間ほど経ったある日、俺はふとアミリアに提案した。
「なあ、そろそろ一度、サーバールームに戻ってみないか?」
「サーバールームですか?」
アミリアが意外そうに聞き返す。リリスも不思議そうな顔でこちらを見ていた。
「ああ。ずっと楽園内での訓練と調査を続けてきたけど、たまには一旦現実の状況を確認したいんだ」
俺の言葉に、アミリアは納得したように頷いた。
「確かにそうですね。身体の状態やサーバールームのシステムも、一度確認しておくべきですしね」
「私も気になるな!マスターたちが現実世界でどうなってるのか」
リリスが興味津々に言った。彼女自身は実体を持たないAIだが、好奇心旺盛な性格は変わらないようだ。
「それじゃ、サーバールームへ戻りましょうか」
アミリアの促しで、俺は懐から以前もらった端末にある脱出用のボタンを取り出した。ボタンを軽く握りしめ、アミリアと視線を交わす。
「よし、じゃあ行くぞ」
「はい!」
俺は迷わずボタンを押した。途端に目の前が白く染まり、強い浮遊感が身体を包む。瞬きする間に、俺たちは再びサーバールームの静かな空間に戻っていた。
「……戻ったか」
サーバールームは以前訪れた時と変わらず静かで、無数のサーバーが低い駆動音を立てているだけだ。隣にはアミリアが横になっている装置があり、その静かな表情を見て安心感を覚えた。
「マスター、身体の感覚はどうですか?」
「問題ないみたいだな。少し頭が重いけど、それ以外は大丈夫だ」
俺は装置からゆっくりと立ち上がり、周囲を見回す。アミリアも自身のアンドロイドの身体を起動し、装置から滑らかな動きで立ち上がった。
「こちらも異常ありません。システムも安定しています」
「それは良かった。やっぱり、たまには現実の身体も確認しなきゃだめだな」
俺は改めてサーバールームを眺め、楽園内での出来事を振り返る。電脳楽園内での生活に馴染んでしまっていたが、こうして現実に戻ると再び緊張感が増した。
「マスター、次はどうしましょう?」
アミリアが静かな声で問いかける。
「少しの間ここで休息を取ろう。現実の世界に立ち返ってみることで、新しい視点が得られるかもしれない」
「そうですね。ここで少しゆっくりしてから、また戻りましょう」
アミリアの穏やかな微笑みを見て、俺もほっと息を吐いた。ここに戻ることで自分たちが追っている真実への思いが、さらに強くなった気がした。
(絶対に解き明かしてやる。俺がこの時代に来た理由も、楽園の真実も――)
俺は心を新たにし、再び前を見据えた。




