保管施設
リジェクターズの女性が去ったあと、俺たちは慎重に奥へ進んだ。旧データ保管施設の内部はさらに埃っぽく、時折、遠くで何かが軋む音が響く。
「さっきの干渉、大丈夫でしたか?」
アミリアが心配そうに尋ねる。
「ああ、大丈夫だ。ただ、彼女の言ってたことは気になるな……俺が電脳に長く接続すると脳に悪影響が出るって……」
俺がそう呟くと、リリスが端末を操作しながら困惑した表情を浮かべた。
「確かに、マスターの接続方式は普通じゃないよね。肉体を捨てて完全移植した住人たちとは違うから、長期接続のリスクは否定できないかも……」
「気をつける必要がありそうですね。サーバールームでの健康チェックを頻繁に行いましょう」
アミリアの提案に頷きつつも、俺は今はこの施設の探索に集中しなければと思った。
やがて、俺たちは施設の最深部らしき広い空間に到着した。部屋の中央には巨大な端末が鎮座し、周囲には無数のデータ端末が並んでいる。
「ここが旧データ保管施設のコアみたいね。探すならここだと思うよ」
リリスが端末を慎重に起動すると、ぼんやりとした青い光が室内に広がる。
「データ検索しますね。『マスターキー』……あった!」
アミリアが嬉しそうに叫ぶが、その表情はすぐに曇った。
「どうした?」
「データが破損していて、完全な情報が取り出せません。でも、何とか一部だけ取り出せました。読み上げますね……」
彼女が画面を見ながら言葉を紡ぎ出す。
「『Eden Coreにアクセスするためにはマスターキーが必要。キーは二つに分割され、一つは中央管理区の深部に、もう一つは……監視役の保管エリアに厳重に封印された』とあります」
「監視役がもう一つのキーを持ってるってわけか……」
俺は息をつきながら考えを巡らせる。
「つまり、俺たちは中央管理区のキーを見つけるだけじゃ不十分だ。監視役とも交渉するか、それとも奪い取る必要がある」
「監視役が簡単にキーを渡してくれるとは思えません。むしろ強く反発する可能性が高いです」
アミリアの言葉に、リリスがため息をついた。
「それにリジェクターズの存在も忘れちゃいけないよね。彼らもこの情報を掴んでるかもしれないし、私たちがキーを手に入れる前に動く可能性もある」
三人の間に重い沈黙が広がった。楽園の深部に踏み込むためには、二つのキーを揃えるしかないが、そのためのハードルは思った以上に高い。
「でも、諦めるわけにはいかないだろ」
俺は自分自身を奮い立たせるように言った。
「まずは中央管理区のキーを探す。そして、監視役ともう一度接触して、交渉するか戦うか、その時の状況に応じて判断する」
「マスター……」
アミリアが真剣な眼差しで俺を見つめる。
「大丈夫だ。リスクが高くても、ここまで来た以上は進むしかない。それに、俺たちはもう戻れないところまで来てるんだろ?」
俺の言葉に、リリスが微笑みながら強く頷いた。
「そうだよね。今さら引き返せないよ。私も全力でサポートする!」
俺たちは再び心を一つにして、次の目的地を中央管理区の深部に定めた。道のりは険しいが、俺たちの決意が揺らぐことはなかった。
(俺がこの世界に来た理由、俺が選ばれた理由――それを知るためにも、絶対に辿り着いてみせる)
胸に秘めた覚悟を新たに、俺たちは旧データ保管施設を後にした。