状況整理
中央管理区へと急ぐ道中、俺とアミリアは情報を整理する必要があった。さっき起きた突然のフリーズ現象や、猫のぬいぐるみの奇妙な挙動、そして「メルトダウン」や「Project Eden」など、謎は山積みだ。
「まず、確認しとこうか。俺がこの世界に来てからの話をさ」
俺は早歩きをしながらアミリアに話しかける。彼女は真剣な表情で頷き、猫のぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた。
「はい、マスター。私も混乱しないように整理が必要ですね」
俺たちは歩みを緩めず、中央管理区への道を進みつつ情報を振り返る。
「俺がタイムスリップで来た未来では、人類はすでに肉体を捨てて『電脳楽園』という仮想空間で暮らしている。そして、俺が出会ったのがお前――アミリアだ」
「そうです。私は管理AIとして、ずっとサーバールームで電脳楽園のメンテナンスをしながら、マスターを待ち続けていました。マスターが以前の持ち主にそっくりだったこともあって、つい勘違いしてしまったんですけど……」
彼女は少し照れくさそうに笑いながら話を続けた。
「この世界には、かつて『メルトダウン』と呼ばれる大きな事故がありました。サーバー内のシステムが暴走し、多くの人々の意識が消失したり、データが破損したり……その後、『Project Eden』という計画によって意識の安定化と完全な仮想移住が進められましたが、その全貌は極秘のまま封印されています」
「監視役の男が関わってるのは、その『Project Eden』の秘密を守るためだろうな。俺たちが中央管理区で出会ったあの男は、単なる敵対者じゃなくて、この世界を守ろうとしているようにも見えた」
アミリアは深く頷き、端末を操作して記録を表示する。
「フリーズ現象も、『Project Eden』の何らかのシステムに関連している可能性があります。中央管理区にログを調べに行くのは、その手掛かりを探るためですね」
「ああ。それと猫のぬいぐるみが頻繁に動く件も気になるよな。もしかしたら『Project Eden』が引き起こした意識融合の影響か、あるいは別の未知の要因か……」
アミリアは猫のぬいぐるみを見つめ、少し不安そうな表情を浮かべた。
「正直、私にも分からないことばかりですが、私の権限でアクセスできる情報には限界があります。『Project Eden』関連のデータは高度な暗号化が施されているため、直接中央管理区の深層、『Eden Core』に潜入する必要があると思います」
「そうだな。監視役が言っていたように、Eden Coreに侵入するためには特別な権限か何らかのキーが必要だろう。サーバールームの装置を再調整してアクセスする方法も検討するべきだ」
ここで再び『Project Eden』とメルトダウンの関係が整理される。
「つまり、『Project Eden』は人類が完全な電脳化を目指した計画だけど、その過程で重大な問題――メルトダウンが起きてしまった。その後、人類は事故を克服し、『電脳楽園』を実現させたが、実は封印されたはずのプロジェクトの残骸が未だに動いている……って可能性もあるわけだな」
「はい。そして昨日のフリーズも、プロジェクトの何かが再起動したか、外部から干渉された可能性があります」
「俺がタイムスリップでこの時代に来たのも偶然じゃないのかもしれないな。だとすると、何か目的があるのか……」
俺は思案しつつ、中央管理区への道を見据えた。
「一つ一つ謎を解いていくしかねえな。まずは中央管理区のログを徹底的に調べて、『Project Eden』やメルトダウン、猫のぬいぐるみの秘密にも迫ろうぜ」
アミリアはしっかりと頷き、その眼差しには新たな決意が宿っていた。
「はい、マスター。私も、全力でサポートします」
二人は中央管理区へ向け、足を速める。まだ見えない真実に向けて、一歩ずつ近づいていくために。




