三人いれば文殊の知恵
カフェは木目調の落ち着いた内装で、席もほどよく空いている。俺たちは店内の一角のテーブルを陣取り、各自でドリンクや軽食を頼んだ。AIのアミリアとリリスも「味覚がないわけじゃない」と言いながら、スイーツらしきメニューを楽しんでいるようだ。
「ふう……じゃあまず、さっきのバトルの成果をおさらいしてみるか」
俺が端末を開いてメモを見せると、アミリアとリリスも興味深そうに画面を覗き込む。
ライトニングエッジ
敵の動きを一時的に麻痺させる効果。クールタイムが短いので、小回りがきく。
まだ慣れが足りず、命中率を高める必要があるが、ヒットすれば追撃しやすい。
防御シールドパッチ(アミリア)
最短でバリアを展開し、即時ダメージを軽減できる。
接近戦に弱かったアミリアをカバーできるようになった。
連携練習
攻守の切り替えや、敵を挟み撃ちにする動きがある程度スムーズにできた。
ただし、本番で相手が複数いたり、不意の攻撃が来た場合の対処はまだ未知。
「だいたい、こんなもんか。どう思う?」
アミリアは頷きながら、猫のぬいぐるみを抱える。リリスが横から補足するように話しかける。
「うん、現時点ではいい線いってると思う。もう少し動きを最適化できたら、同レベルの敵なら楽々倒せるんじゃない?」
「私も、管理AIとしてバトルを想定していなかったので、改めて気合を入れて勉強してみますね。実戦で慌てないように……」
俺はコーヒーを啜りながら、大きく伸びをする。静かなカフェの中、少しばかり安堵の空気が流れている。だが、ふとアミリアの顔を見ると、微かに曇った表情をしていた。
「……どうした? 体調でも悪いか?」
「いえ、そうじゃないんですけど……猫のぬいぐるみが、また少しだけ動いた気がして」
彼女がそう言うと、リリスはツインテールを揺らしてぬいぐるみを覗き込んだ。
「また? 本当に不思議だね。プログラムが仕込まれてるか、データの干渉があるのか……?」
「多分、気のせいだと思うんですが。ときどき温度みたいなものを感じるんですよ、まるで生き物みたいに……」
俺は半ば冗談で「精霊でも宿ってるんじゃね?」と言いかけたが、あながち冗談とも言い切れないのかもしれない。電脳楽園であれば、何らかの意志がアイテムに宿る可能性も否定できないからだ。
「ま、ひとまず気にしすぎなくてもいいか。何か異変があったらすぐ教えてくれ」
「そうですね。……はい、分かりました」
アミリアが頷き、猫のぬいぐるみを抱きしめる。リリスは「もし何か変な現象が起きたら教えてね。私も調べてみるから!」と明るい声をかける。
話題が一段落したところで、改めて次の動きを確認する。
さらなる訓練
もう少し難度の高いシミュレーションに挑戦してもいいし、複数戦に慣れる必要がある。
装備・プラグインの拡張
リリスが提案している“合成プラグイン”などを試す価値あり。
Eden深層への準備
メルトダウンや監視役との遭遇を想定し、いつでも動けるように心構えをしておく。
「……よし、今日はもう一回くらい軽い訓練をしてから解散するか? あんまり詰め込みすぎても疲れるだろうし」
アミリアが小さく笑みを浮かべて同意する。
「ふふ、そうですね。短いスパンで繰り返すほうが、身につきやすいかもしれません。マスターが無理しない程度に」
リリスも「もちろん手伝うよー!」と手を挙げる。こうして、俺たちは軽く休憩を取ったあと、再びアリーナへ向かい、一度シミュレーションをこなしてから解散することにした。
(メルトダウンを阻止するには、こういう地道な積み重ねが欠かせない。猫のぬいぐるみの謎も気になるが、まずは俺たち自身が強くならないと……)
そんな思いを抱きつつ、俺たちは立ち上がる。金髪ツインテールのリリスの元気な声が耳をくすぐり、アミリアも猫のぬいぐるみをしっかり抱えたまま歩き出した。この先、どんな運命が待ち受けているのかは分からないが、俺たちは確かに一歩ずつ前に進んでいる。