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ぬいぐるみ

 インフィニット・アリーナでの訓練をひとしきり終え、ステージを出た頃には、程よい疲労と充実感が全身を満たしていた。アミリアも猫のぬいぐるみを抱えなおしながら、少し息が上がっている様子。


「ふう……思った以上に本格的だな。電脳楽園だから痛みは少ないけど、集中力が削られる」


「はい。でも、これで私たちのバトル連携も少しは上達しましたね。これなら“監視役”の攻撃にも、以前より落ち着いて対処できそうです」


「お疲れー! なかなか見所あったよ、マスター。それに、アミリアも動きがすごく良かった」


 リリスが笑顔で近寄ってくる。金髪ツインテールが揺れ、アイドルさながらに手を振る仕草は実に愛嬌がある。まさに“可愛い女の子AI”といったところだ。


「リリス、いろいろ教えてくれて助かったよ。お前がいなかったらプラグインの設定も分からずに苦労してたと思う」


「えへへ、そう言ってくれると嬉しいな! もしまた装備を強化したくなったら呼んでよ。もっと色んな種類があるからね」


 俺が礼を言うと、リリスは得意げに胸を張る。アミリアも親しみを込めた笑みを浮かべて、彼女に声をかけた。


「リリス、今後も私たちが“メルトダウン”の謎を追ううえで、サポートしてもらえるかな? 装備やスキルの面以外でも、もし情報を持っていたら教えてほしいんだけど……」


「うん、いいよ。私も、二人が何かすごいことをやろうとしてる気がして興味あるんだ。メルトダウンって、昔から噂だけは聞くけど、誰も真相を教えてくれないしね」


 リリスは真剣な表情に戻り、ツインテールを軽く揺らす。


「私が知ってるのは断片的だけど、もしかしたら“Eden Core”近くのデータバンクに記録が残ってるらしいってことくらいかな。あそこは権限が厳しくて立ち入りできる人が限られるけど、何か手段を探すしかないよね」


「やっぱそうなるか……。俺たちもそこを目指そうと思ってる。権限の壁が高そうだけど、装置や監視役の動き次第では、突破の糸口があるはずだ」


 リリスは笑みを取り戻し、軽く指を鳴らす。


「よし、決まり! 私も協力するよ。何か新しい情報を手に入れたら連絡するし、バトル訓練や装備のことも任せて!」


 元気いっぱいの返事に、俺もアミリアも自然と笑みがこぼれる。こうしてもう一人、頼れる存在が加わったのは心強い。


「ところで、その猫のぬいぐるみ……お気に入りなの?」


 ふとリリスがアミリアのぬいぐるみを指差して尋ねる。アミリアは少しびっくりしたように抱きしめ直す。


「え? ああ、これですか? 私の大切な相棒……いえ、最近ちょっと不思議な現象があって……」


「不思議な現象?」


「……気のせいかもしれないけど、この子が時々勝手に動くような感覚があるんです。まるで何か意思を持ってるみたいで……」


 そう言ってアミリアが苦笑する。俺はそれを聞いて少し首をかしげた。確かに、猫のぬいぐるみが時々反応するようなシーンは見かけたが、ただの気のせいかと思っていた。


「まあ、電脳楽園だし、アイテムに“意識”みたいなのが宿ることもあるのかね? 可愛い霊みたいな?」


「ぷぷ、霊というか、ここはデータの世界だからね。何らかのプログラムがぬいぐるみに紐付いてるのかも。もしかしたら、その子も“精霊”みたいに擬人化する日が来るかもよ?」


 冗談めかして笑うリリスに、アミリアは戸惑いながらも小さく頷く。猫のぬいぐるみがピクリと耳を揺らした気がしたが、たぶん風のせい……だろうか。


「ま、まあともかく、これからもよろしくね、リリス」


「こちらこそ! 二人が頑張ってるのを見ると、私もわくわくしてくるんだ。絶対に面白いことになりそうだし、一緒に盛り上げましょう!」


 リリスが人懐こい笑顔で手を振り、俺たちはインフィニット・アリーナの出口へ向かう。アミリアの友人という新しい仲間を得たことで、俺たちの選択肢はさらに広がった。戦闘訓練も装備の整備も、これからどんどんアップデートされていくだろう。


(メルトダウンに再び立ち向かうためには、こういう備えが不可欠……。楽しめるうちに楽しんで、いざというとき本気を出す、か)


 俺はライトニングエッジのエフェクトを端末からオフにしつつ、アミリアと顔を見合わせて笑い合う。猫のぬいぐるみを抱える彼女の様子も、どこか新鮮に見えた。


「よし、次はどんな練習しようかね。あんまり気を詰めすぎても疲れちまうが、今のうちに色々試しておきたいし」


「ふふ、そうですね。リリスにも手伝ってもらいながら、私たちの連携をもっと鍛えましょう。……そうすれば、きっと“Eden”の深層へ踏み込む力もついてくるはず」


 そう言って微笑むアミリアの横で、猫のぬいぐるみがふわりと揺れる。それがただの動作か、あるいは小さな意志の芽生えか……それはまだ誰も知らない。だが、この先待ち受ける大きな運命の伏線となるかもしれない。

 

俺とアミリアは翌日の訓練に向けて準備を進めることにした。

メルトダウンの再来を防ぎ、Edenの深層へ踏み込むためには、まずは確実な戦闘力を身につけておきたい。


(もし何かあったとき、二人で乗り越えられるように……)


 そんな思いを胸に抱きながら、俺たちは再び宿泊区画へ戻り、朝まで休息をとることにした。

 こうして、俺たちは新たな仲間リリスと共に、一歩ずつ“戦闘体制”を整え始める。メルトダウンの再来を防ぎ、“Eden”の深層に挑むために――そして、俺のタイムスリップの謎を解き明かすためにも。

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