表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/45

人類なき世界

「……いや、ちょっと待て。電脳楽園? 意識を移した?」


 俺は混乱しながらアミリアを見つめる。


「はい!」


 彼女はまるで「そんなことも知らないんですか?」とでも言いたげに胸を張って答えた。


「えっと……つまり、人類はみんなこの世界を捨てて、デジタルの中に行ったってことか?」


「そうです! 肉体の寿命や病気に縛られることなく、永遠に理想の世界で生きるために!」


「……理想、ねぇ」


 俺は曖昧に呟きながら、広大なサーバーの列を見渡した。


 意識をデータ化する技術。そんな話、俺のいた時代ではまだSFの領域だった。でも、ここが未来なら、そういう技術が実現していてもおかしくはないのかもしれない。


「でも、それって……要するに、人類はみんな自分の体を捨てて、こっちの世界には誰もいなくなったってことだよな?」


「はい!」


 アミリアは満面の笑みで頷く。その表情があまりにも無邪気で、逆にゾッとした。


「……そんなこと、普通するか?」


「マスターは昔、こう言ってましたよ?」


 アミリアは少し得意げな顔で言った。


「“生きることは苦痛を伴う。ならば、完全な幸福だけが存在する世界に行くべきだ”って!」


「……俺が?」


「いえ、以前のマスターが、です」


 俺は複雑な気分になった。彼女の言う「マスター」が本当に俺と関係あるのかは分からないが、なんとなく、その言葉には違和感を覚える。


 完全な幸福だけが存在する世界? 


 本当にそんなものがあり得るのか?


「……その電脳楽園ってやつ、どうやったら見られるんだ?」


「ふふん、マスターならそう言うと思いました!」


 アミリアは満足げに頷くと、俺の手を取った。


「楽園へのアクセス端末があります! こっちです!」


 彼女は俺の手を引いて、サーバー群の奥へと進んでいく。


 まるでテーマパークの案内人みたいに楽しそうな顔をしていた。


 この世界に俺しかいないのだとしたら、俺が驚いている様子すら、彼女にとっては久しぶりの刺激なのかもしれない。


(……まあ、行くしかないか)


 俺は大きく息を吸い、彼女のあとに続いた。


 そうして、俺は人類が残した「楽園」の扉を開けることになる。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ