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99%下心で迫ってくる暴君夫から逃げたいんですけど!?魔法のブレスレットがまさかの大活躍でした

作者: 大井町 鶴

短編14作目になります。初作から2作目の転生(転移含)モノになります。転生した彼女の成り行きを最後まで見守ってやって頂けると嬉しいです(♥︎︎ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾

アドリアナの中身は転生者である。本当の名は山口つむぎといった。


山口つむぎは、つい先日、自分が通う高校前の横断歩道を渡って帰宅しようとしていたが、見学に来たであろう中学生の姿を見かけた。


その子はスマホで誰かと話していて、憧れの高校に見学に来たと話している。憧れなんて言われると“なんていいコ!”という気持ちになった。その子は、電話の相手にいかに憧れの高校がキラキラして見えるかを興奮して話していた。


だから、彼女はスゴイ勢いで近づいてくる車に気付いていなかった。


つむぎは陸上部で短距離専門だったから、瞬発力には自信があった。思わずその“いいコ”を助けようと道路に飛び出して道端へと突き飛ばした。


『助けられた!』と思った瞬間、全身に痛みを感じた。自分が代わりに轢かれたのだ。あたりはすぐさま真っ暗になった。


………だが、気付くと全く違う世界にいたのだ。そこは中世の街並みが広がる魔法がある世界であった。人々が当たり前のように魔法を使っているので最初は驚いたが、異世界に転生したのだと悟るとスンナリこの世界観を受け入れた。


そして、今は平和な村で暮らしている。と言うのも、自分は周辺で1番だという美少女アドリアナに転生していたのである。きっと神様も哀れに思ったのだろう。16歳の美少女に転生させてくれたらしい。


だが、元のアドリアナは幸せではなかったようである。なぜなら、彼女の美貌に目をつけた領主がアドリアナを無理やり妻にしようとしたみたいだ。悲観した彼女は湖に身を投げていた。


アドリアナには将来を誓い合った男性がいて、彼を諦められなかったらしい。彼女が湖に飛び込んだ瞬間、目撃した人にすぐに助けられたみたいだが、アドリアナの魂はあの世へと旅立ってしまっていた。そこにつむぎの魂が入り込んだのだ。


そして、今に至る。


「......アドリアナ、あなたの人生を大切に生きるからね」


小さな声でつぶやいた。目の前には彼女の亡くなった両親のお墓があった。花を手向けると後ろから女性に声をかけられた。


「アドリアナ、落ち着いたかい?記憶がないところ申し訳ないが、領主様のお迎えが来ているよ」


つむぎはこの世界の知識が無かったので、湖へ身を投げた時のショックで記憶がない、ということにしていた。


「お迎えが?」

「ビルが大騒ぎして取り押さえられてね……あいつを守るためにもどうかこのまま領主様の花嫁になっておくれ。悪いようにはならないはずだから」

「ビルって、私と結婚の約束をしていたという人のこと?」

「……忘れているならそれでいい。新しい場所で新しい人生を歩んでいきなさい。これ、亡くなった姉さんからの贈り物だよ。アドリアナが嫁ぐ時に渡してくれと言われていたんだ」


両親が死んでから面倒を見てくれていたという、母の姉デボラさんからブレスレットを渡された。翡翠のような優しいモスグリーンの色をしていてキレイだ。


「それは、アドリアナのお守りだよ。姉さんは立派な魔女だったから、きっとあんたの助けになる」

「どういう効果があるの?」

「あんたを守ることは確かだけど、詳しい効果については知らないよ。人に言うことじゃないからねえ」


え?と思ったが、そういうもんなんだー、と思うことにした。だって、ここは異世界。元居た世界とは常識が違う。


「私、これから領主様に嫁ぐんだよね?」

「そうだよ。幸せにおなり」


そんな会話の後、迎えの馬車に乗せられて半日ばかり移動した。座り続けてお尻が痛くて限界!と思った時、やたらめったら猛々しい城に着いた。


(要塞って感じね。中世の城って窓も小さいし、城内は暗いんだろうなあ)


世界史の資料で見た城を思い出して思った。


「こちらへ。まもなく領主様がお見えになりますので」


厳つい兵士に案内されて寒々とした城内にある応接室のような場所に案内される。しばらく待つと、領主のスラヴァという人物がやって来た。


背が高くてガッチリしている。アゴにヒゲを生やしていて短髪。ブラウンブラックの髪色の男性だった。口を引き結んでいて表情が険しい。


(わ~、デカ!怖そうだなあ……)


見降ろされて固まる。


「やっと我が元に来たか」

「ア、アドリアナでございます。よろしくお願いいたします」


ペコリと頭を下げておいた。スラヴァはコワイ顔のまま、かすかにうなずくと去って行く。


戦後の処理が大変らしいスラヴァと過ごす時間は意外と少なかった。


1回、夕食を共にしたのだが、テーブルには肉好きらしいスラヴァに合わせた料理が並んでいた。クセのある肉で食べづらい。


「この牛肉はうまいな」


料理を食べていたスラヴァが言った。


「そちらは羊肉でございます」

「...........そうか」

「そちらの肉料理もおすすめでございます。奥様もどうぞ」

「は、はあ」


スラヴァが勧められた肉料理を口に入れる。


「このカモ肉もうまいな」

「それはハト肉でございます」

「..........そうか。うまいな」


厳めしい顔つきで間違え続けるスラヴァがちょっと面白かった。侍従はそんな彼の調子に、ちょっぴり口元を緩めているように見えた。


(スラヴァって、味音痴?天然?笑っていいの?)


厳ついスラヴァの意外なところを見た気がしたのだった。


........そこからはとても忙しかった。結婚式に向けてドレスの調整やら、結婚式での段取りだので気づいたらもう結婚式であった。


(とうとう結婚式になっちゃった!私、つい最近まで高校生だったのに結婚だなんて!早過ぎるよ!)


でも、ここは異世界。この年齢では結婚をするのは珍しくないみたいである。


転生してから環境に慣れることで精いっぱいでここまで来てしまったが、冷静に考えたら結婚とは一大事である。


そう思いつつも、ウェディングドレスを着せられ化粧をされ、ベールを被らされると、逃げる間もなく神父の前に自動的に連れて行かれた。目の前にはあのコワモテのスラヴァが立っている。神父が粛々と式を進めていく。


「あなたは夫としてこの者を愛し守り支え合うことを誓いますか?」


神父がスラヴァに語りかける。彼は”誓う“と答えた。同じことをこちらにも聞かれた。どうしようもないので”はい”と答えた。


その瞬間である。ブレスレットが急に熱くなった。


「あつっ!」

「どうしたのだ!?」


コワモテのスラヴァから聞かれた。


「......いえ、なんでもありません」

「ならいい」


《ビックリした。熱いというからなにが起きたのかと心配したじゃないか》


どこからか声が聞こえた。


驚いてまわりをキョロキョロとするが、神聖な場でおしゃべりしている人などいない。


「なにか気になることがあるのか?」

「い、いえ。声が聞こえたような気がしましたので」

「声?」


コホンと神父が咳払いをした。


「それでは、誓いのキスを」


《きた.......ついにきた........冷静になれ、オレ!》


また、変な声が聞こえた。内容からしてどうも目の前の人物、スラヴァの言葉なような気がする。だが、目の前の顔は険しい表情のままで、とても声のような内容を考えているふうには見えない。


スラヴァの手が伸びてきてベールがまくられる。


《焦るな、焦るな!ここはスマートにキスだ》


(......やっぱり、間違いない!これはスラヴァ様の声だ!)


確信した。目の前のイカツイ領主は表情には出さないが、心の声ではかなり自由なことをつぶやいている。


スラヴァの顔が近づいてきた。


(こ、ここは目をつぶっておこう)


焦りながら目をギュッと閉じると、少し間があっておでこにキスされた。それで誓いのキスは終わった。


………その日の晩、アドリアナはどうしようと震えていた。


(わああ、どうしよう。あの人とこれからあれだよね……!?)


ほぼ初対面のような人と本当に夫婦になろうとしている。動揺していると、扉が開いてスラヴァが入って来た。


「……緊張しているな」

「は、はい。それはもう……」


知らないことは恐ろしい。ガタガタ震えた。


《アドリアナが震えている!!......このまま本当の夫婦になろうとしたらオレは嫌われてしまうのではないか?でも抱きしめたいし、キスも..........》


彼はクールな表情をしながらも、とても書けないようなことを妄想していた。


(刺激が強すぎる……!!)


そう思ったら、失神していた。


………翌日、アドリアナはベッドの上で目が覚めた。


(あれ私、昨日、結婚したんだよね?それで昨晩………)


思い出してガバリと起きた。


「起きたか?」


スラヴァが稽古着のような姿をしていた。


《朝から可愛い。転んだフリをして抱きついても良いのものか??》


「え!?」

「どうした?」

「い、いえ」

「どうも調子が悪いようだな。………しばらくは無理させん。オレは朝の鍛錬に行って来る」

「は、はい。いってらっしゃいませ……」


《ホンモノの夫婦になることを自重し、朝から鍛錬に精を出すなんてステキ!と思ってもらえただろうか?》


彼は心の中ではとてもおしゃべりであった。彼が部屋の外に出て行くと息を吐いた。


(......あの人、見た目と違って意外。でも、なんだからいやらしいのよね)


手元のブレスレットを撫でる。


(これのせいで彼の心の声が聞こえるんだよね?どう考えても)


夫婦になると神の前で誓った途端、ブレスレットの能力が発動したらしい。これは自分の夫となった人の心の中が分かるアイテムだったのだ。


(どうして、こんなものをアドリアナの母はプレゼントしたかったのかなあ?)


アドリアナの母は魔女だったと聞いた。この世界では魔法はありふれたものなので魔女といっても、皆より優れた人、優秀な人という意味で呼ぶらしい。


心の中が分かれば、知らなくてもいいことも知ってしまう。でも、この世界の生活は初心者だから手助けにはなるかもしれない。


でも、あのコワモテの夫は心の中ではかなりいやらしいことを考えている。


(いやだ~!!)


この先、どうしようと考えていると、ある日、事件が起きた。


かつての婚約者だったと言う男性が捕まえられたのだそうだ。城に来て“アドリアナを返せ!”と騒いだらしい。


(あの、ビルって男性?)


気になって昼食時にスラヴァにおそるおそる聞いてみた。


「気になるのか!?」


尋ねた途端、カミナリでも落ちたみたいなバカでかい声で聞かれた。あんまり声が大きかったからすっかりビビッた。


《アドリアナは、まだ過去の男を気にしているのか?お前の夫はオレだ!っていって今すぐ組み敷いてやろうか!?》


スラヴァの心の声を聞いてギョッとする。彼の手元はなにかを揉んでいるような手の形になっている。視線を感じたらしいスラヴァは咳払いをした。


「コホン。どうやら、その男に罰を与えねばならんようだな」


そう言うと、彼はアドリアナを連れて城門の上へと連れて行く。城門の下には縄に打たれたビルらしき男がいた。


「アドリアナー!!」


叫んでいる顔には、殴られたであろう傷があった。


(可哀そう……)


ビルの痛ましい様子を見て口元に手をやる。


《アドリアナがヤツを心配しているではないか!くそう!許さん!!許さんぞ!!》


「そいつを樽に入れろ!そして、釘を無数に打ち付けて丘から転がせ!」


スラヴァのとんでもない言葉にアドリアナは目を剥いた。


(ひぃぃー!!!なんて恐ろしいことを考えるの!暴君だわ!!)


黒〇〇危機一発というおもちゃがあるが、あれの残酷版?ではないか!と背筋が凍る。


「スラヴァ様!それは、あまりにも恐ろしい罰です!やめて下さい!」


《アドリアナが怖がっている。震える彼女もなんて可憐なんだ》


目の前のスラヴァは、訴えなど耳に入らず全くほかのことを考えている。


「スラヴァ様!聞いてください!私は残酷な場面を見たくはありません……いえ、私が見ていなくても残酷なことをして頂きたくはありません!だからやめて下さい!」


必死に言うと、スラヴァはうなる。


《オレが考え直したら、キスでもしてくれるというのか、フン》


「あ、あの、私のお願いを聞いてくださいましたら、私はスラヴァ様と手をつなぎますわ」


変な申し出だと思ったが、とにかくなにかを言わねばと必死だった。


《手??手をつないで歩いてみたいものだ。指を絡めてそこからお互いの熱を感じて.......》


彼の頭は妄想でいっぱいであったので、おかしな提案を疑問に思っていないようだ。


「さきほどの命令は止めだ!そいつの縄を解いて追い返せ!」


スラヴァはアドリアナの手をにぎると頭上に掲げた。ビルに見せつけているらしい。


《これを見ろ!もはやアドリアナに触れて良いのはオレだけなのだ!!》


彼は勝ち誇った顔をしていた。


「お、お願いを聞いてくださいましてありがとうございます。あの、一応、言っておきますけれど、私は溺れてから以前の記憶がありません。だから、あのさっきの人がまたなにか言ってきても関係ないですからね?」

「分かった。心配するな」


理解してくれたようだ。ホッとする。


《この手をつないだ状態から部屋に入って、それとなく抱きしめようか……》


スラヴァはすでに次の妄想に忙しいようだった。となると、今度は自分の身を心配する番である。


(めちゃくちゃ私に触ろうとしてるじゃん!このオッサン!)


「……そういえば、スラヴァ様はいったいおいくつなのですか?」


見たところ30を過ぎているように見える。


「20だ」


20歳だと聞いて驚いた。貫禄アリアリのスラヴァは意外と若かった。


《年齢を聞くということは、オレに少しでも興味を抱いたということ。次の段階に入って良いということか??》


(どうしてすぐにそうなるの!下心にまみれた男め!)


彼の心の声がこうも聞こえてくると気が狂いそうになってきた。


………その夜、アドリアナは考えた。


(今は、距離を保ってくれているけれど、下心ありまくりのスラヴァにあれこれされるのは遠くはない!......これは逃げるしかないんじゃないの!?)


そもそもつむぎは、自分から好きになりたいタイプである。勝手にくっつかれたりするなんて、やっぱり耐えられそうにない。どうにかして脱出することを考え始めた。


城には自分付のメイドがいる。まずは彼女を利用することを企んだ。


「ミレナ、そのメイド服着てみたいなあ。お洋服の交換をしようよ。この部屋だけで交換こするだけだから心配しなくて大丈夫!」


同い年のミレナとはかなり仲良くなっていて、友達みたいに接してもらっていた。


「わあ、私もアドリアナ様のドレスを着てみたかったのですよね。コッソリ交換こしてみましょう!」


ミレナも乗り気だったのでさっそく着替えた。


「ミレナ、カワイイ!ドレスがめっちゃ似合う!」

「ええ~、本当ですか?」

「うんうん。私、バスルームの鏡で見て来るね」


バスルームには大きな鏡がある。バスルームに駆け込み、扉をしめるとすぐに窓を開けた。あらかじめシーツやらドレスやらを結んでロープの替わりを作っておいて隠しておいたから、下に降りることは可能だ。


(2階で良かった)


窓からさっそく降りた。高いのはニガテだが、陸上部にいたから運動神経には自信がある。


無事に地上に降り立つと、城の外に向かって走り出した。メイド服を着ているので自分を怪しむ人はいなかった。


城の裏には茂みがあって石壁ではなかったから、そこからよじ登って逃げた。1時間くらい経ってようやく木の陰で休んだ。


「ふう〜。案外、簡単だったわね」


それにしてもどうしよう、と考えた。村に戻ったとしてもすぐに捕まるだろう。と言っても、お金も持っていない。食料は朝食に出たパンをいくつかとっておいただけである。


なんとか城から逃げ出すことばかり考えて準備不足であったが、命もかかっていたから仕方ない。


スラヴァは下心アリアリというだけでなくて、かなりの暴君らしかった。ミレナたちは武勇伝として語っていたが、あれは暴君エピソードでしかない。


戦争では容赦なく敵の首を刎ねてしまうらしい。


いつのことだったか、敵の領地に捕虜を串刺しにして並べさせたことがあったと聞いた。


串刺しなんて恐ろし過ぎる。そのせいで彼は“串刺し侯爵”なんて呼ばれたことがあるのだとか。


(私もスラヴァの機嫌を損ねたら、殺されちゃうかもしれないじゃん!)


そんなの絶対ヤダ!と思っていると、なんだか遠くで自分の名前を呼ぶ声が聞こえた気がした。


(追手かも!逃げなきゃ!)


身を隠せそうな洞窟を見つけると、そこに潜んだ。洞窟は暗くてジメジメしてなんだか気持ち悪い。そのうち、だんだんと日が暮れた。幸い、月光があってかすかにあたりが見えた。


持ってきたパンを食べようとすると、なにかが近くで動いた。よく見たらネズミである。


「ぎゃあああ!!」


ネズミを近くで見たこと自体が初めてであった。恐怖過ぎた。


思わずパンの入る袋を遠くに投げ捨てると、そこに無数のネズミが集まって行くではないか。


「ひぃぃ..........!ムリムリムリ!!!」


洞窟から走って出た。どこに行っていいか分からないが走った。走りながら涙が出てきた。泣く声も抑えずに泣いた。


その時、前にあった茂みがガサリと動いた。ビクリとする。


「………アドリアナ?」


目の前の茂みからスラヴァが現れた。ランタンを掲げられる。


「こんなに涙を流して……。顔も土まみれだ」


彼は心配そうな顔をしていた。


「帰るぞ」


彼は怒り狂っているのだろうと思っていたが、それしか言わなかった。肝心な時に彼の声は聞こえてこない。


なにを考えているのか知りたくなった。


「ま、待ってください。私は逃げ出してしまいました。怒らないのですか?」

「.........ショックだったが、居心地が悪かったのだろう?ならばオレのせいでもある」


《とても心配したに決まってる。だが、こんなに泣いているのに余計なことは言えまい。アドリアナは一人で心細かったのに違いないのだから》


(え……優しいじゃん)


スラヴァの心の声が聞こえて、彼のことを初めて優しいと思った。それまでも気遣ってくれてはいたが、優しいと思うほど余裕がなかった。


「こんな洞窟には見たくないものもいただろう。お前にはキレイなものだけ見せたい」


《だって、アドリアナはオレの宝物なのだから。戦争で鬼となるしかなかったオレは心底、疲れていた。でも、ある日、アドリアナの笑顔を見てオレは救われた。アドリアナはオレの心を救ってくれた女神なんだ》


(.......そうだったんだ)


確かにミレナから、スラヴァはアドリアナの笑顔を気に入って嫁に選んだのだと聞いていた。でも、望んで戦っていたわけではない彼の状況を知って、気持ちが少し変わった。


(アドリアナの笑顔が、戦争で疲れたスラヴァの心を救ったなんて.......)


自分は、自分に精一杯で彼のことをきちんと知ろうとしていなかったと思った。


「.........スラヴァ様、逃げてごめんなさい。私、いろいろと覚悟ができていなかったんです。だからその、これからはもっとお話をして仲良くなりたいです」

「ああ、そうしよう」


初めてスラヴァの表情が柔らかくなった。


《アドリアナが心を開いた......?これでやっと本当の夫婦になってもいいのか??》


「あ、あの!私は、仲良くなってスラヴァ様を心から好きになることができたら、本当の夫婦になりたいなと思っていますので......」

「わ、分かった」


《オレの考えが顔に出ていたか?………でも、アドリアナは超前向きだ。嬉しい......》


表面ではカッコつけているくせに、心の中ではいろいろと考えてしまうスラヴァがなんだか可愛らしかった。


山道を抜けた先、ひらけた草地に差しかかる。そこには、数頭の馬が繋がれていた。


スラヴァは手綱を引き、そっとアドリアナの手を取った。


「この馬に乗れ。オレが後ろから支えるから、怖がらなくてよい」


《なんと小さな背中だ……。思わず抱きしめたくなる。だが、怖がらせたくない。そっと、ゆっくり行こう》


「ふふ......私、なんだか幸せになれそうな気がしてきました」


リップサービスかもしれないと思ったが、あまりにもスラヴァが嬉しそうだから言ってみた。まんざらウソでもない。未来に期待を込めている。


《……なんて嬉しい言葉を言ってくれるんだ。この幸せを、どう言葉にすればいい? オレはきっと、この女神と生きていくために生まれてきたんじゃないか!?》


心の中でスラヴァが叫んでいた。


(まっすぐな人……。だからこそ、鬼にまでなって戦ったのでしょうけれど。信じたもののために)


ブレスレットを包み込むように触れる。


(もし、このブレスレットがなければ──私は、彼の心の声を知らずにいた。ずっと、暴君だと誤解したままだったかもしれない)


山口つむぎ改め、アドリアナはスラヴァを暴君ではなく、心優しい領主様と呼ばれるように彼を支えていこうとひそかに決心した。


自分を支えるスラヴァにそっと寄りかかると、彼の体温をじんわりと伝わってくる。


これからは、強くて優しい絆を二人で築いていこう――そう思えたのだった。

最後までお読み頂きましてありがとうございました(◍ ´꒳` ◍)!いかがでしたでしょうか?


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現在、『公爵令嬢の憧れは冴えない男爵令息様!!』を連載中です。とある公爵令嬢とややぽっちゃり男爵令息のチェリストとのお話です。音楽に興味がある方も無い方も読みやすい内容になっております。ぜひともお読み頂ければ幸いです(o_ _)o


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